はっしぃ様からのリクエストにお応えしてみようとなんとか、がんばってはみたものの………

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あぁ、この檻は二度と出られぬ気がしてしょうがない。



はじまりは小さな違和感。
ちょっと置いておいたものがなくなる………飲みかけの紙コップ入りの紅茶だったり、ロケ弁に付いていた使い捨てのおしぼりだったり………そんな細々としたもの。誰かが捨てておいてくれたんだわ、キョーコはそう軽く思っていた。
それから、視線を感じるようになった。
撮影の間の休憩時間、自転車に乗って移動中や、近頃はほんの極たまにになってしまっただるま屋の手伝いでゴミ捨てや暖簾をしまうためにチラリと外に出た時などに………絡みつくみたいにじったりとした視線。
その視線が気のせいだと思えなくなった頃に………手紙が置かれるようになった。
撮影所の傘立てに置いたキョーコの傘に、愛用の自転車のハンドルに、そんなキョーコの私物の数々に貼り付けられた四つ折りのメモ。
仮置きのラブミー部所属とは言え、事務所に守られている身のキョーコ、タレントで女優の『京子』に渡る前に検閲されるファンレターにはない、粘つくような不快感のあるそれには、いつも一言だけ書かれていた。
『キミハ、オレノモノ』
ぞわっと背筋を這う嫌な気配。
それに確かにどうしようもない怯えを抱きつつも、キョーコは………………



ぎゅぅっとショルダーバックを縋りつくみたいに身体の前に抱いたキョーコが、カツカツと足早に歩いていた。背後に脅えながら。
気のせいか、何かのイタズラだと思っていた、だって私なんて………色気も胸もない私なんかそんな風に思う人がいるだなんて思えなかった。だから、だけど……嫌な予感に焦るキョーコの足。
なるべくひとりにならないように気をつけていたのに………
今日もあの四つ折りの手紙があった。
キョーコの鞄の中に。
ジリジリと近づいてくるその手紙が恐ろしかった。だから、事務所に帰ったら椹さんに相談してみようとそう決めたのだ。
なのに、撮影機材のトラブルで遅くなってしまった帰り道。
キョーコは薄暗い駐車場をひとり急いでいた、もうすぐ自転車のある駐輪場だ、自転車に乗ってしまえば大抵の相手はぶっちぎってしまえると思えるほどの走りをした事のあるキョーコ。
背後からヒタヒタと忍び寄るような恐怖に怯えたキョーコが駐輪場へと辿り着くそのほんの手前………植え込みの影からのそりとキョーコの行く手を阻むように出てきた人影に「ひっ!」とキョーコの喉が息を飲んだ。
「京子…京子、京子京子京子。やっと…やっと会えたね?ずっとずっと見てたよ?キュララのCMから不破のPVの天使、ダークムーンの美緒もBOXRのナツも、あとはバラエティーや雑誌もみんなみんなみんな………」
とうとうと『京子』の事を語る男。
「みんなみんな見てたよ………キミハ、オレノモノ」
ニタァと唇を歪ませる笑いと仄暗い目がキョーコを竦ませる。ヌッと伸ばされた腕が弾かれたようにキョーコが踵を返そうとするの手を掴む。
「っ!……ぃや!!」
悲鳴をあげようとするキョーコの喉からは、萎縮して引きつった小さな声が絞り出されるのみだった。
「嫌がらないでよ……オレノモノなのに」
男の力でキョーコの軽い身体が引き倒される。掴まれ上から押さえられた腕と馬乗りになった男の身体を外そうと必死にもがくキョーコの首に男の手が伸びる。
迫り来る恐怖にきゅっと目を瞑ったキョーコの脳裏には………助けを求めるように彼女の密かな想い人の顔が浮かぶ。
「いや!助け……っるがさん!!」
縋るような悲鳴を塞ぐように男の手がキョーコの口を押さえ込む。
すぅっと目の前が暗くなるような底冷えする恐怖がキョーコを震わせた。



「………最上さん?!」
カツコツと走る革靴の音といつもより鬼気迫る低い声。
キョーコの上にいた男はビクッと身を竦ませると舌打ちし、逃げたしていく。
「最上さんっ!!」
駆け寄って来るその気配は怒りをあからさまに感じるのに、もう恐いことなどないのだとそう思えたキョーコの目から涙が落ちる。
襲われたキョーコの元へと尋常ならざる速度で走って来た蓮は、その場から走って逃げる男に耐え難い腸の煮えるような怒りが燃える。あからさまな殺意………そんなものを滲ませた蓮がそれをぶつけるべき獲物を追おうとするのを、きゅっとジャケットの裾を掴む震える手と漏れる嗚咽が止めた。
息を深く吸ってから吐き出した蓮はそっと掴む小さな手を離してジャケットを脱ぐと、それでキョーコに被せるようにして包むとぎゅっと抱き寄せた。
「大丈夫……もう、大丈夫だよ」
繰り返す言葉と震える背中をぽんぽんと優しく叩く手。
それは、キョーコが泣き止むまでとまることなく続いていた。




その後、前々からストーカーの気配に悩まされていた事を吐かされ、それに怯えながらも事務所はもちろん何故自分に相談しなかったのかと怒りに満ちた蓮に詰問されたキョーコはついポロリとこぼしてしまう。
「いやでもだって、私なんか……」と言ったいつもの卑下た発言もそうだが、それ以上に額に青筋を浮かべ、その魅力を理解しないキョーコを叱る蓮にオロオロと「あ、いやあのっ!はい!あの人は『京子』が好きなんだとわかりましたから!」だなんて迂闊なそれは、キョーコにとっては芸能人『京子』の価値をほんの少しだけ認めた発言。
だけど、そんなキョーコに焦がれた蓮にとっては許しがたい衝撃的な発言だった。


「そう………最上さんに気持ちを理解してもらうにはそうすればいいんだ?」


キュラキュラと輝く似非紳士スマイル、いつも以上に企んだ良くない気配を振りまくそれを見上げたキョーコの背中にぞわりと悪寒が走る。
それは、キョーコにとってその存在も図体も行動のスケールも、何もかもが大き過ぎる目の前の男がキョーコの人生に於ける譲りようがない一番の粘着質なストーカーとなった瞬間だった。
そうやって、彼の重すぎるほどの想いと執着を知らされたキョーコは………



その檻のような腕に囚われる幸せを知ったのだった。



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↓拍手3939(サンキューサンキュー)番目を叩いてくださいました、はっしぃ様からのリクエスト

「ストーカー又は、しつこい馬の骨からかっこよく間一髪でキョーコちゃんを助けて守る蓮さまが見たいです!」

より、ぽちぽちと。
リクエスト系で一番苦戦したものとなりました。遅くなりましてごめんなさい。
猫木のとこの蓮さんかっこよくないのはさておき………猫木のとこのは蓮さん自体がストーカー気質バリバリなんで『ストーカーVSストーカー☆どっちがより深く彼女をストーカー出来てるか対決~やめてください、私が一番辛いです!~』な感じになっちゃってもう大変でした。←なんだそりゃ?
あ、このストーカー(蓮さんじゃない方)は後日、ちゃんと成敗される事となるかと。
いや、もうほんとこんなんですいません。
。(;°皿°)


↓拍手のキリ番っぽいのを叩いちゃった方は、なにやらリクエストしていただくと猫木が大喜利的にぽちぽちと何か書くやもしれませぬ。


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