猫木の変な挑戦『いろんな敦賀さんを書いてみよう。』
困惑混沌の朝。から派生する続きのひとつとなっております。


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どうして?………すべて………
すべて、うまくいっていた筈だったのに。
ポタポタと私へとしずくが滴り落ちてくる。



たった一度、ただ触れて欲しかったの
ほんとうに、ただそれだけで
そして………望むのは忘却。
ぜんぶ忘れて?私だけが覚えていくから。


いつだってそうだ。手に入らないものばかりを欲しがって
私は、なんて醜くて貪欲。そして、自分に甘い。
二度と恋なんてしないと決めても
落ちた恋心は地獄まで秘めると決めても
本当の本当は、欲しくてたまらない。
そんな身勝手で汚い女の自分に負けたの。


敦賀さんの寂しさなのか弱さなのか………それともただの男の隙だったのか、そんなものにつけこんだ。
だから、昨日の夜の加害者は私。貴方を拒まない……そんな素振りで、どこまでも誘っていた。
罪を犯.させたのは私。
なのに……それでも縋るみたいにそばに居たかった。
だから、ズルくて狡猾で卑怯で矮小な私は………祈ったの。
ひとりはいやだったから。


痛くて………痛くて、でも、その痛みさえ
それさえも愛しかった。
彼が私の中に居る、それだけでたまらなくヨカッタ。



軋むみたいな身体を無理矢理に起こす。
傍に眠る敦賀さんの閉じられた瞼とそれを彩る長い睫毛。
そろおりと、抜け出すベッドの上。
てんてんと散らばったふたり分の着衣を拾いあげて、音を立てぬようゆっくりと寝室から抜け出す。
パタンと、そう小さな音を立てて閉まったドアを背中に「お願いです………忘れてしまって?」小さく小さくつぶやいた。



証拠隠滅を計る犯罪者のようだと唇に歪んだ笑みが乗る。
敦賀さんの服を洗濯機に入れると、シャワーを浴びて不自然にならない範囲で出来る限り肌を隠せる服を着る。
首に赤く咲いた花をなぞる。そこにあの唇が触れたと思うと叫びそうになるのを噛み殺して、肌色のコンシーラーで塗り潰す。上からうっすらとフェイスパウダーをはたくと、ぱっと見る分にはわからなくなってくれたと思えた。
丁度洗濯が終わっていたので乾燥機の中へと放り投げた。
ちょっとだけ考え込んで、忍び込むみたいに寝室へと戻る。やはりそこはうっすらとだけど、男と女の匂いみたいなものが漂ってる気がした。だから、仕方がなく部屋の端にアロマキャンドルをたく。
さぁ、朝食を作ろう。「最上キョーコ」が尊敬する先輩である「敦賀蓮」の朝食を抜くなんてそんなこと見逃すなんてありえないのだから。
シジミがあったらお味噌汁にしたのになぁ……なんて思いながらあっさりとした中華粥にしようと決めた。あとは、サラダとフルーツでいいかな。


キッチンから我ながらいい匂いがしてくる頃、乾燥機から敦賀さんの服を取り出してから、寝室のドアの前まで行くとそこで立ち止まり目を固く瞑る。ゆっくりと瞼をあげると「後輩」の最上キョーコを貼り付ける。
さぁ、一世一代の大芝居だ。
寝室のドアを開け、アロマキャンドルの火を消す。
しどけなく眠る敦賀さんの肩を揺らす。
「敦賀さん、起きてください?」
「うぅーー」と、唸るみたいな声とふるふると左右に揺れた頭。
ぱちぱちと瞬きをするそこにある色を伺いながら言った。
「敦賀さん?大丈夫ですか?気分は、頭は痛かったりしませんか?」
「え?……も、がみさん?ここは?」
痛むのか、少し顔を歪めて頭に手を遣ると不思議そうにそう言った。
口端が上がりそうになるのを堪えて、困ったような笑いを乗せる。
「もー、体調がよろしくないのに昨日あんなに呑まれるから二日酔いになるんですよー?」
と、そう叱るように言うと敦賀さんが「ごめんね」とすまなそうな顔になった。
「朝ごはん作りましたからね?シャワー浴びれますか?」
そう促すと、敦賀さんが上半身を起こす。
露わになる肌から目を逸らして「破廉恥ですっ!」と顔を赤らめて持っていた服を押し付けた。
「………なんで、俺、裸なの?」
「覚えていらっしゃらないんですか?………敦賀さん、昨日少しもどしてしまわれたんですよ。だから、脱いでくださいって言ったら………全部、脱いじゃうんですから………」
もぅ!と、そう怒るように嘘を吐いた。
「ご、ごめんね?」
謝る敦賀さんを置いて寝室を出る。しばらくすると、ざっくりとシャツとパンツを身に纏った敦賀さんがきまり悪そうに顔を覗かせる。
そんな敦賀さんを浴室へと誘導してから寝室へ戻り、昨夜の気配の名残るようなシーツを回収して洗濯機へと放り投げた。
よし、完璧じゃない?




機嫌よくキッチンでサラダ用の野菜を洗っていると………
「ねぇ………最上さん?」
ぞわりと背中を撫でるような、悪いものを含んだような声が掛けられた。
振り向いたそこにいたのは………さも急いであがったと言わんがばかりに滴を零す濡れ髪のままに上半身を晒したボトムスのみを身を着けた敦賀さんがいた。
その真剣な表情。怒るような責めるような………なのに、どこか甘いみたいな強い目。
思わずにビクリと身構えてしまった私を閉じ込めるように流し台へと、私の身体の左右に手をつく。上から覗き込むみたいに覆い被さってくる大きな身体とニヤリと底意地の悪そうな笑みを浮かべた顔。


濡れた黒髪を伝って、ポタポタとしずくが私へと降りそそぐ。


悪い………悪い予感が、逃げられないようなそんな恐ろしさがそこにあった。





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↓拍手のコメントにて、この変なシリーズのネタを猫木に提供してくださいました名前のないおぜうさまがいらっしゃいまして、そのネタでぽちぽちと書いてみようと思いやす!


またまた二本立ての予定にございますのよ。
( ´ ▽ ` )ノ←いつも通り続きなんぞ、まだ手も付けてない。


↓拍手のキリ番っぽいのを叩いちゃった方は、なにやらリクエストしていただくと猫木が大喜利的にぽちぽちと何か書くやもしれませぬ。


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