「私のこの想いを否定しないでください!それは、とてもとても悲しいの。」



冬が春に変わるようにじわじわと、だが確実にふたりの関係は変わろうとしていた。
ふたりの3歩進んで2歩下がるどころか一歩も進んだと思わずに何故か足元に大穴を掘って潜り込むような、ジレジレとじれったいこと極まりなかった蓮とキョーコの関係。
それを変えようと今までに散々に、恋愛音痴だの見た目だけのヘタれだの言われるがままだった蓮は、目に痛いショッキングなラブミーピンクさえ愛しいと思えるほどの彼のラスボスを討ち取るべく、告白と言う違えようもない決死の攻撃に出たのだった。



「返事は今じゃなくてもいいから……だから、考えてくれないかな?」
冗談やからかい、そんな物で誤魔化す隙も与えずにそう考える猶予だけを残した蓮に、キョーコは酷く追い詰められてしまっていた。
恐ろしかった。
与えられるべき絶対の愛情もなく、自己の確立を他者に任せ、人生の大半を否定されるように生きてきたキョーコには、その手を取るのがとても恐ろしかったのだ。
故に彼女は今、彼女の為に誂えられたラブミー部の部室でぶつぶつぐるぐると懊悩し座り込んでいた。キョーコを姉と慕うマリアが訪れている事にも気付かぬままで。
「だめ………やっぱり、だめ。」
そうつぶやいて、唇を噛むキョーコは泣き出す寸前の迷子みたいな顔をしていた。
「どうしてだめなんですの?お姉様。」
ぎゅっと握りしめられた拳に、そっと幼く小さな暖かい手が乗せられた。
「蓮様へのお返事に悩んでらっしゃるの?」
驚きに顔色を変えるキョーコを見上げてマリアが眉を落とす。
「ごめんなさい。盗み聞きするつもりじゃなかったんですけど、あの時お祖父様の所へ行く途中で聞いてしまいましたの。」
事務所の人気の少ない休憩用のスペース、そんなところで告げられた想い。
「あ、あのねっ!マリアちゃん、私ね…」
「お姉様!私、蓮様が好きですわ。だけど、それでお姉様のお返事が変わると言うのなら……それは私の事も、蓮様の事もとても馬鹿にしてますのよ!」
はっと、顔色を変えてキョーコがあわてたように言うのを遮ったマリアはいつもよりずっと大人の表情をしていた。
「………ごめんなさい。」
うつむいたキョーコが小さく小さく謝る。
「お姉様、どうしてだめなんですか?」
握りしめていたキョーコの手をそっと解くようにして、その手を両手で握るマリア。いつもと姉と妹が逆になったようにキョーコがぽそぽそと不安を零す。
「私は……色気も、胸もない地味な素うどんなんだもん。」
「女の色気は胸だけじゃありませんのよ?それに、お姉様は蓮様を胸にたくさんの皮下脂肪がついてるかどうかでお付き合いするひとを判断するような方だとお思いですの?」
ふるふるとうつむいたままのキョーコの頭が左右に振られる。
「だって………おかしいの。敦賀さんならきっともっと綺麗な人だって選び放題なのに……。きっと、敦賀さんの勘違いなのよ。こんな華やかな世界に紛れ込んだ、私なんて毛並みの変わったのが珍しくて………だから、あの告白だって間違いなの」
「お姉様、ダメ!!」
考え詰めるキョーコにマリアが悲鳴をあげる。
「私、お姉様が大好きですわ!」
唐突なマリアの告白にポカンとした顔をするキョーコ。
「お姉様に、私がお姉様を好きなのは違うのだと……間違ってると言われてしまうのは、とっても悲しいの。………だって、こんな好きなんですもの。例え、お姉様にだってそれを否定されるのは許せませんわ!」
キョーコの視界がじわじわと滲んでいく。
「ね?お姉様が蓮様のことがお嫌いでお付き合い出来ないと思われるのでしたら、お断りしたらいいんです。だけど、蓮様の想いを間違ってるって勝手に決め付けてなかった事にしないであげてくださいませ。」
そう言ってにこっと笑うマリアに、キョーコの震える腕が縋るみたいに抱きつく。
「マリアちゃん………私ね、こわいの。」
ぐずぐずと幼子のように泣きながらそうキョーコが告げる。
「では、蓮様にそう言ってあげてください。もし、蓮様がお姉様を恐がらせたままにしておくような方だったなら………私が、お姉様に変わって成敗して差し上げますわ。」
よしよしと髪を撫でてくれる小さな手と、可愛らしい声なのにどこまでも本気の気配でどこか背中が薄ら寒くなるような感じは流石社長の孫娘だわと、そんなことを思ってしまいキョーコはずいぶんと久方ぶりに笑顔を浮かべたのだった。




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マリアちゃんって書くの難しいな。
かわいいキューピッド的なところを目指して撃墜した気分。
。(;°皿°)

三人称にすると文字の詰まったくどい長文になるのは何故なんだろう?
読みにくかったらごめんでやんす。
´д` ;


↓拍手のキリ番っぽいのを叩いちゃった方は、なにやらリクエストしていただくと猫木が大喜利的にぽちぽちと何か書くやもしれませぬ。


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