ずっとひとりで貴方を想うから
地獄までひとりで抱え込んでいくから
だから、貴方よ孤高であれ。
どうか、誰のものにもならないで




高機能の空調設備が過ごしやすい気温に保ってくれている広い部屋。
シックなインテリアの其処彼処から滲むあのひとの気配。
家主より使い慣れてしまったであろうキッチン。
ここは、敦賀さんの香り漂うこの空間は……どこよりも安全で安心と安らぎをくれていたはずなのに
私しかいない部屋。なのに、息を殺して針の落ちる音にさえ反応しそうなほどに全身を緊張させて、小刻みに震える身体でディナーを作っていた。何かしていないと……この部屋でひとり待つなんてそんな恐ろしい事に耐えれなかったから。


やがて、その空間にインターホンの音が鳴った。
ただ、それだけの事に飛び上がってしまいそうなくらいに怖気ってしまう。
パタパタと廊下を行き、大きなドアの前で立ち竦む。このドアの向こう側に………ぞわりと背中を走るものに、私の身体を這った指先や唇の感触が蘇って、思わずぎゅうと自分を抱きしめるみたいにしていた。
開けてくれとそう主張する一定間隔で鳴り続けるブザーに首をブンブンと左右に勢いを付け振ると『後輩』の仮面を無理矢理に被り、扉の鍵を開けた。


「ただいま。来てくれて嬉しいよ。」
と、そう笑う敦賀さんはいつもの尊敬する『先輩』の笑顔で。ドアを開けるまでに不自然に時間がかかってしまったことも「おかえりなさい。」と、そう言えない私にも触れないまま、いつも通りに見えた。
つい、ほっと張り詰めていた肩の力が少し抜けてしまった。
そこに、ガチャンとそんな冷たい音がして、流れるようにいつもなら掛けられたことのないドアチェーンが掛けられたのを知った。
革靴を脱いだ敦賀さんはそのまま、ちょこんと端に揃えて置いた私のパンプスを掴む。
「……え?」
そう疑問を零した私の手を靴を持った手と反対の手で掴み、すたすたと私を引き摺るみたいに廊下を進む。
敦賀さんが無言のままにその部屋の前に立つと私の手を離し、ドアを開けてその奥にポイッと無造作に私の靴を放り投げた。
宙に弧を描いた後パタ、パタッとそんな音を残して落ちていったパンプス。
大きな大きなベッドの向こう側へと
「うん。取りに行かないと帰れないね?」
今、取りに行く?どうぞ?とばかりに、にっこりと笑った敦賀さんがドアを押さえたままに示す部屋の中。
彼の寝室。
その中へと立ち入るその意味も考えられぬままに足が勝手に後ずさっていて、私の首が左右に揺れる。
そんな私を見遣り、そう?とでも言いたげに首を浅く傾げた敦賀さんの額にさらりと黒の前髪が流れる。
いつも通り、いつも通りの敦賀さんの笑顔。
身を屈めるみたいにして私に近くなる、その笑顔。
「いい匂いがするね?ごはん作ってくれたんだ?」
笑みを深める唇とにぃと細められる黒の含有率が高い瞳。



「ありがとう。今夜はなにを……たべさせてくれるの?」


綺麗に綺麗に笑うそのひとの、瞳の奥は笑っていないように見えた。





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コメント下さいました謎の唆し隊様方に唆されるがままに、いいね!の数に背中押されるみたいに恐怖で政治をしく蓮さんを続けてますが、恐くないかこのひと?
どこ行く気なんでしょう?
キョーコちゃんが脅えっぱなしですよ。
(´Д` )



ま、まだ続けんのかな?
ブチ切りしちゃいかんかのぅ



↓拍手のキリ番っぽいのを叩いちゃった方は、なにやらリクエストしていただくと猫木が大喜利的にぽちぽちと何か書くやもしれませぬ。


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