あーぁ、なんか面倒な事になりそう。
そう思っちゃったのよね、キョーコ様が城に侵入してきた人間の男といるのを見つけて。
さらに近付いて触ろうとなんかしてるから、それはこの上なく導火線の短い爆弾みたいな危険物なのよ?って忠告したくなって口を挟んだ。
けど、次の瞬間に漂ってくるのとりと重圧な仄暗い闇の気配に遅かったと気付かされた。


あーもーー!なんで魔物の私が、魔王様の従者なんてやっているこの私が、いやんなるくらいの闇の気配を漂わせてんのよ!?貴方がっ!!
我が主たる魔王のキョーコ様は、それはそれはもう類稀なる膨大な魔力の持ち主だけど、先代の魔王により城の奥深くに押し込めるみたいに隠されていたため箱入り培養純真娘でいらっしゃる。魔王様なのに得意魔法は回復魔法と花・小動物の召喚魔法ってほどのぽわぽわっぷり。
力が総てのこの国で、先代魔王が身罷われキョーコ様の存在と力が明るみに出たその瞬間よりこの国はキョーコ様を傀儡とすべく後見人の立場を巡っての混沌と暗躍の世界へと変わって行く………はずだったのよね。
実際は、花畑でほわほわ遊ぶキョーコ様がこの物騒極まりない腹黒天使に目を付けられてしまって、その後見人争いも終わってしまったのだけれど。この国に溶け込むようにと黒髪黒目へと堕天してみせた大天使(キョーコ様が綺麗な金色の髪と翠の眼を惜しむと元に戻ってみせるという変幻自在っぷりだったけど)がやすやすと魔王の後見人へと着任したのは、ひとえにただひたすら彼の力がこの国の誰よりも強靭で苛烈なものだったからだ。
そう、この魔族の貴族などよりよっぽど極悪な気配を帯びた黒髪黒目の男は嫉妬に狂った大天使にして魔王様の後見人なのだ。


今、正に侵入者に魔王と間違われた男は侵入者の腕に大人しくきょとんと抱かれたままの魔王様ににっこりと笑顔を深くしていた。
侵入者の方は腕に抱き込んだ魔王様の正体に驚愕した表情を見せて、マジマジとキョーコ様の顔を見つめていた。
「君が、魔王?」
「はい、私が魔王のキョーコです。魔王の御印もありますよ?」
そう言ったキョーコ様がワンピースの裾をぺろっとめくろうとなさるものだから、腹黒天使が目にも止まらない速度でふたりの間に割って入るとキョーコ様の身体を奪い返すみたいに腕に抱きあげた。
「キョーコ様!こんな馬の骨にみだりに肌を見せたりしないでください!!」
と、口ではそんな真っ当な事に言ってはみるけれど、「だって、蓮の用意した魔王の衣装ズルズル長くって重いんだもん」なんて文句を言うキョーコ様の身体に絡み付くみたいにまわされた腕とめくられそうだったワンピースの裾を抑えるように這わした手は卑猥な気配が濃密に漂っていた。普通にセクハラだと思われます。
「誰が馬の骨だっ!うらぁ!こちとら赤鮫と呼ばれた勇者ムラサメだっ!!」
血の気が多いのか、簡単に激昂した侵入者の勇者が蓮に向って剣を振り下ろす
「最近の勇者はこんなガラが悪いのか………」
が、その剣はにょきりと白い3対の羽を出した胡散臭い天使のすいっと伸ばした指先で止められてしまう。
光の加護を与える者と与えられた者との差は歴然としたものだったわ。


あまりの事に硬直した勇者を捨て置いた極悪天使は腕に抱き込んだキョーコ様ににっこりと告げる。
「こんな男に触られて笑顔なんか見せてさらにここの御印まで見せようだなんて………キョーコ様にはまだまだ教育が必要みたいですね?」
そう笑いながら、すすすっとキョーコ様の白いワンピースの裾から手をふとももへと滑らせて行く。
「ひぅっ!」と、真っ赤になったキョーコ様が助けを求めるようにこちらを見る。その口元が「モー子さぁん」と声なく呼んいるのがわかるけれど、いっかいの従者にはどうしようもないのでふいっと目を逸らした。
「じゃ、カナエさんそこの勇者を外に放り出しといて下さいね。」
魔王の後見人はそう言ってキョーコ様を抱きあげたままテクテクとキョーコ様の自室へと歩いて行く。キョーコ様のか細い悲鳴を残して。




今日も、この国は魔王様御一人の犠牲の元に平和でございます。



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1600番目の拍手を叩いてくださったutahane様からのリクエスト

「天使とか悪魔や魔王とかの出てくるようながっつりパラレル」

でした。こんなんで良かったのかしらね?
(´Д` )
700番以来のリクエスト、猫木は楽しゅうございました、猫木はね。


↓拍手のキリ番っぽいのを叩いちゃった方は、なにやらリクエストしていただくと猫木が大喜利的にぽちぽちと何か書くやもしれませぬ。


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