その瞬間、わかってしまった。
 


目の前で水風船でも破られたかのようにはっきりと残酷なまでに見せつけられてしまった。
気が付いてしまった。認識してしまった。理解してしまった。
まざまざと自分の中にある欲望に。
それは、強い飢えのような我慢ならない欲求。
まだそんなに長くはない生きてきた時間。
しかし、短いとも言い切れないその時間。でも、そのほぼすべてに私はこの欲望を抱えてきたのだろう。
必死に………見ないように、気が付かなぬように目を逸らし、深く深く沈めて隠してきた、それ。
その欲望は叶えられる望みのないもの。
それが染みついているから………だから、私はそれを隠してしまい込んで見ないようにするしかなかった。
一度として与えられなかったから。
でも、気が付いてしまった。見せつけられてしまった。
そして、おぞましくも私は『女』と成り果ててた。
鍵つきの箱に入った恋心などとは比べ物にならないドロリとした熱と生々しいものに。
あぁ、いっそ怨んでしまえれば良かったのかもしれない。あのバカの時のように熱病に浮かされるように。
あなたでなかったら………望めたかもしれないのに。気が付かなければ、まだあのひとのそばにいれたかもしれないのに。
 なにも知らない顔をして清らかな子どものふりをして。



『抱きしめられたい。』



あの腕の中に、女として。
強く、抱き潰されてしまいたい。
自覚してしまった欲望が走りだしてしまう。
もう、自分でとめることなど出来ないのかもしれない。




広大な部屋、その部屋の主のありえないような食生活。そんなものを大義名分を掲げて食材と共に上がり込んだ部屋。
今日のディナーはキッチンで我ながらいい匂いをさせて、後はあのひとが帰宅してから最後の仕上げを待つばかり。
部屋の大きさに比例するみたいな大きなテレビ。待っている間、好きに鑑賞してもいいと言付かっていたそれで見ていた彼の主演ドラマ。
愛の演技に一層の深みと凄みが増したと、前にも増して人気の尊敬し崇拝する実力派俳優。 
私の、密かな密かな想い人。
私が私であるために、空っぽだった最上キョーコを作るためにも鍵をかけるのをやめた箱の中の恋心。それは、地獄まで持っていくつもりのもの
テレビの中で敦賀さんとヒロインがシーツの中へ潜り込むように抱き合いもつれながら倒れていく。
唇が乾く。リップクリームを塗らないと荒れてしまうと思いながらもテレビの中の敦賀さんから目を反らせずにいた私は、舌でその唇をなぞった。 
「………一度でいいから、あんなふうになってみたい………」
私の中の欲望が、この部屋に漂うようなあのひとの気配を取り込むみたいに吸い込んだそれが、声帯を震わせかすかな音になってこぼれ落ちた。
ぎゅぅっと自分を抱きしめるみたいに、畳んだ膝を抱えて小さく小さくまるまる。
「じゃぁ、なろうよ……あんなふうに絡み合うみたいに………抱き合ってひとつになろうか?」
まだ、聞こえるはずのない声。
そして、背後からまわる力強い腕と包まれるみたいなその香り。
「ここでこのまま抱いてもいい?………それとも、寝室に行く?」
耳元で吐息のように囁かれる低い溶けたチョコレートのようにとろりと甘い声。
ぞわりと身体中の産毛が逆立ったみたいな震えが走る。



黒い黒い瞳が私を試すみたいに覗き込む。
彼が口を開いて「冗談だよ」と言われてしまう前にと、喘ぐように言った。
「シャワー………浴びさせて下さい。」
切れ長の綺麗な深い瞳が大きく揺れて驚きにまあるく見開かれた後に、にんやりと猫の爪のように細く細くなるのを見つめていた。





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んー?もっとキョコちゃんが貪欲になるってイメージで書いたけど、よくわからないものになってしまったぞ。
(´Д` )
続くのか続かなのいのかもよくわからない。



↓拍手のキリ番っぽいのを叩いちゃった方は、なにやらリクエストしていただくと猫木が大喜利的にぽちぽちと何か書くやもしれませぬ。

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