息継ぎの隙も与えてくれない深いくちづけ。連れてこられた敦賀さんのマンションの玄関で。
今までに交わした甘くて溶けてしまいそうなキスと違う、何もかも奪い尽くそうとするかのようなそれに敦賀さんの苛立ちを感じる。


やっぱり……敦賀さんも勘違いだったって気付いたんだ。だから、キスが違うんだ………。
でも、そんなくキスさえ嬉しいと感じる自分が情けない。泣いたらウザがられちゃうのに。
だから、もうそばにいられない。


「そんなに………泣くほど俺にキスされるのが苦痛?」
苦痛?苦痛な方が良かった………。
「さっき、貴島に恋の終わりが見えてるって言ってたよね…………。キョーコは、もう俺のそばにいてくれる気はないってこと?」
「………ごめんなさい…ごめっ」
貴方が言っていた通りお子ちゃまだったんです。敦賀さんが想ってるのが私じゃないって理解してそばにいれるほど、割り切れるほど大人じゃない。


そんな事を考えていたら耳元で冷たい声がした。
そう………残念だな。俺、女優京子のファンだったのに………」
頭から氷水をかけられたように身体が凍り付く。今後は後輩としても、もう俺に関わるなと、念を押されたとそう思っていたのに
「俺から離れられないように………俺なしでいられないようにしてやる。」
敦賀さんが不思議な事を言って私を肩に担ぎ上げるようにして歩き出す。


通い慣れた敦賀さんのお家。敦賀さんがどこへ向かっているか、何をしようとしているのか理解してしまった。
「いや!………いやです!敦賀さん!」
ばたつかせた足から脱げ落ちたパンプスが廊下に点々としているのが見える。
どさりとベッドに落とされたと思うと、敦賀さんが私の上に乗り上げてくる。
「やっ!はなしてっ!」
「………俺に挽回のチャンスもくれないのか?」


この人は何をしようとしているの………?
あの日のあの夜に私を抱いて………私を好きではなかったとあの朝に後悔してたんじゃなかったの?……だって、ダメ息ついてたもの。
なのに、また繰り返すの?夜に抱くだけ抱いて朝には突き離す…………私は、またあの朝みたいに貴方の横でため息をつくのを感じてなきゃいけないんですか………?
「………こんな………ひどい。」
ひどい、ひどい、ひどい。なのに、香る敦賀さんの香りに胸が締め付けらる。



「ひどい?………ひどいのは、キョーコの方じゃないか。あんなに追いかけて追いかけてやっと手に入れたと思ったのに、たった一度だけあたえておいて………こんな夢中にさせておいて、どうして!?」
敦賀さんが私を押さえつけながら責めるように言った。
「どおして?俺がなにしたの?どうしたらいいの?何をすれば、なんて言えばキョーコは俺といてくれる?そんなに俺がキライ?なんで?どおして!」


誰………?いつもの余裕なんて感じられない。このひとは、感情を剥き出しにしたかのように言い募るこのひと………なんで、そんな追いつめられたような顔をしてるの………?
そのまますごく近くまで顔を近づけて彼が落とすように溢れるように小さな声で言った。
「このまま、無理矢理に抱いたら…………また、キョーコは俺に抱かれるんじゃなかったって………後悔するの?」
聞かれていた?あの朝の私の言葉。
あの朝の私の気持ち。




それを思い出して、喉が息を飲んだ音が聞こえた。









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