幸せな、ほんとうに幸せな、幸福であたたかい朝を迎えるはずだったのにな……
愛しいひとの胸に抱かれて。



胸の奥から凍りついていく。痛くて痛くて張り裂けそう。指の先から血の気が引いて寒くて動けない。
敦賀さんを見るのが、敦賀さんに見られるのが、怖くて怖くて身じろぎ一つ出来ない。まぶたさえ開けれない。


そんな私を置いて彼がベッドから降りる。
パタンと乾いた音がして寝室の扉が閉められる。




置いていかれちゃったな………。また、捨てられるのかな?
やっぱり、私じゃダメだったんだわ。
そうね、はじめからつり合ってなんかなかったものね。
敦賀さん、落胆したんだろうな。


ごめんなさい。


バカな娘。私なんかが愛されるわけなんてないじゃない。敦賀さんが、私を欲しがってくれたかもなんて飛んだ思い上がりだわ。


大声で泣き叫んでしまいたいがまだ駄目。まだ、敦賀さんのテリトリー内だもの。優しいひとだから、一夜を過ごした女が泣いてるなんてほっておけるわけがないわ。
また余計な負担をかけてしまう。



だから
只管に声を殺す。
でも
涙が止まらない。




敦賀さんが私を好きだと言ってくれて、私も答えることが出来て、今まで見たことないくらいに神々しく笑ってくれた。
忙しく合間を縫って電話してくれたり、会いにきてくれたり。
抱き締めてもらって、そのぬくもりと腕の強さと香りに癒されて。
うっとりするくらい優しく口付けてくれた。
抱き上げられて寝室に運ばれて、深くなったキスにくらくらして、解放されたときには夜の帝王になった彼がいて。
その滴るような色気に酔っているうちにあれよあれよと翻弄されて。
敦賀さんの熱に焼かれて、溺れ切ってしまっていた。



愛されてると思ってしまった。




でも、違ったんですね。
がっかりされたでしょう。
豊満な胸も女性らしいなめらかなラインもない、平坦で面白味も色気もない身体。
翻弄される一方で、縋り付くのがせいいっぱいで、なにも返せたりしてない。
きっと、敦賀さんが腕に抱いて夜を過ごした数多の女性の中で一番、つまらない女。
そして、気付いてしまったんだわ。
敦賀さんがほんとうに大事に想って、欲していたのは、私じゃないと。


シーツに顔を押し付けると強く香る敦賀さんの香りがさらに目の奥を熱くさせる。



敦賀さんを私から解放してあげないと。




涙を止めたいのに、ひっくと鳴る喉が忌々しい。
ギシギシと軋む身体を無理やり起こす。身体中に、特に下腹部に感じる痛みと違和感。
それを愛しいと感じてしまう自分が嫌で嫌でたまらない。




「こんなことなら抱かれるんじゃなかった………」
思わず、口からこぼれ落ちた。




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すれ違いと勘違いから、逃げるキョーコちゃんとジリジリする蓮さんのお話。の予定。
べたべた暗っくてすいやせん。(´Д` )






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