第二百四十六話 カゲネコ 其一 | ねこバナ。

第二百四十六話 カゲネコ 其一

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おれは ごみための なかで うまれた

おやの ことは もう おぼえていない
くさくて かゆくて はだが ちりちり いたんで
ただ なきさけんで いた ことだけは
おれの あたまに こびりついている

こうして よこになっている ときは
いつも そのことばかり かんがえている

「おはよう、ククル」

サユリが おれの ケージの まえで いった
こいつは おれに メシを くれたり からだを なおして くれたりする
きのう しごとから かえった おれを
すこし なおして くれたらしい

「気分はどう?」
「まあまあだ」

おれは ねころんだまま いつものとおりに こたえた
あごを のせた おれの りょうては ぶよぶよした もので くるまれている
しごとで いたんだ からだは こうやって なおすのが いいんだそうだ

「食事はできるかしら」
「メシか くうぞ おれ」

ちいさなとびらが あいて メシのはいった さらが おれのまえに やってきた
おれは ゆっくり からだを おこして やわらかい メシに がっついた

「じゃあ、少し脳波をチェックしておくわね。そのままでいて」

サユリは そういって きかいを いじりはじめた
ときどき へんな おとがして
おれの さんかくの みみが ふるえる
しっぽが かってに ゆらゆら ゆれる
でも はらがへっている おれは メシに むちゅうだ

「はい、おわり。楽にしていて」

そう いわれた ときには
おれは もう メシを ぜんぶ たいらげていた

「呆れた。あんたはこんな時でも、食事だけはちゃんと摂れるのねえ。まあ、食べられないよりはいいけど」

サユリは へんなかおをして おれを みている
ふと おれは きづいた
となりの ケージの けはいが ない

「ケチャはどうした」

おれの となりに いた ケチャは
きのうの しごとで おおけがを した
なんとか かえって きたけれど
そのあと おれは やつの かおを みていない

「...駄目だったわ。傷が酷すぎて、助からなかったの」
「しんだのか」
「ええ」

サユリの かおが すこし ゆがんだ
おれは ケチャの ことを おもいかえしていた
おれほど ことばが うまくなかった ケチャは
いつも はらを すかせていた
サユリは そんな ケチャのことを
ずいぶん きにいっていた ようだった

「カゲネコ部隊から投入された十頭のうち、三頭が帰還せず、一頭が帰還後に死亡。まったくお偉方はどうかしてる。貴重な働き手をあんなつまらない作戦で犠牲にするなんて」

サユリの こえが あらくなった
そうだ おれたちは
カゲネコと よばれた
ころしやだ

  *   *   *   *   *

「新しい装備が出来たって、兵器開発課から送って寄越したのよ。装着してみるから出てらっしゃい」

サユリは そういって おれのケージの とびらを あけた
おれは サユリの いうとおりに おおきな だいの うえに とびのった
おれの りょうてには きかいの つめが ついている
するどく おおきな つめは おれの しごとに かかせない ものだ

「なるほどねえ。ユニットの交換だけで済むのは楽でいいわ。さあ、右手を出して」

サユリは おれの みぎてに ついた きかいを はずして
そこに べつの きかいを つけた

「どうかしら。歩きにくい?」
「そうだな かわらないな」
「そう、よかった。じゃあテストするわね。これを右手で叩き落とすのよ、いい」
「ああ」

サユリは ほそい てつの ぼうを ほうりなげた
おれは ぼうに むかって とびあがり

「しゃっ」

みぎてで ぼうを たたこうとした
そのとき

びしゃっ

おれの みぎてから
あかい ひかりが とびだして
てつの ぼうは きれいに まっぷたつに なって

からららん

ゆかに おちた

「...近接戦闘用レーザーナイフの応用ね。なるほど、すごい威力だわ」

サユリは そう いうけれど
おれには よく わからない

「おれ つよくなったのか」
「多分ね」
「これがあれば ほかのやつも つよくなるか」
「そうね、多分」
「じゃあ ほかのやつに つけてやれよ」
「駄目よ。あんたは特別なんだから」
「とくべつ って なんだ」

おれは そう いわれているけれど
いみが よく わからないんだ

「いつも言ってるじゃない。あんたほど任務を完璧に遂行できるネコはいないのよ。人間のことばをこんなに覚えて、普通にコミュニケーションがとれるのは、あんただけなんだから」
「どうして ほかのやつは だめなんだ」
「ううん...素質が無かった、としか、いえないわねえ」
「そしつって なんだ」
「生まれつき持っている力、ってところかしら」
「うまれつき か」

おれは ごみための なかで うまれた
だから こんなに ほかの やつと ちがうのか
やっぱり おれには よく わからない

「あんたが本気で怒ったら、あたしなんか、ひとたまりもないわよ」
「なんだって」
「あんたは、やろうと思えば、簡単にあたしを殺してしまえるでしょうね」

サユリは そんなことを いって おれの せなかを なでている

「そんなこと しない」
「どうして?」
「おまえは メシを くれるからな」
「あら、それだけ」
「それに おれを ぶったり けったり しないからな」
「そうねえ、ふふふ」

サユリの て は ゆっくり おれの せなかを なでている

「...もしかしたら、もっと酷いことを、してるかもしれないけどね」
「そうなのか」
「そうよ」
「おれには わからない」
「そう、そうね、あんたはいつもそうなのね」

ほう と サユリは ためいきを ついた
そのとき

ぶーぶーぶーぶーぶー

デスクの うえの でんわが なった

「はいこちら...はい、え? 出動って、まさか! 昨日帰還したばかりなんですよ! それでは...いいえ承伏しかねます。破壊工作なら〇八部隊に任せればいいでしょう、何故こちらの負担ばかりが...」

サユリは おこっている
でんわに むかって おおきな こえで

「...人命尊重とおっしゃいますけど、だからといって貴重なネコたちを無駄に死なせていいということには...そんなに簡単に優秀な個体が手に入ると思ってるんですか! 彼等は缶詰工場から出て来る訳ではないんです! 実験の過程でどれだけの犠牲が...クローン? 実用化まであと何十年かかると思うんです? そんな得体の知れないものに...と、とにかく私は反対です。納得のいく説明をしていただかないと」

どうして サユリは おこって いるんだろう
さいきん サユリは でんわに むかって
おこって ばっかりだ

「だから...えっ、ちょっと、ちょっと待って! くっ、全くあの戦争馬鹿ども! 放射能で脳味噌まで汚染されたようね」

でんわを つくえに たたきつけて
サユリは へやを あるきまわった

「どうしたんだ」
「また出動命令よ。しかも実験中のクローン兵器といっしょに、あんたたちを投入するんだって」
「しごと なのか」
「ええ。敵軍の前線基地に配備された新兵器の情報を入手して、それを破壊するのが目的だそうよ。まったく、敵さんよりも、何でも簡単にいくと勘違いしている参謀本部の低脳どもをどうにかして欲しいわよ、あたしは」
「しごと なんだろう」
「とはいっても...出動可能なのは、ククル、あんたを含めて三頭だけ。とてもじゃないけど、あの基地の警備兵と監視システムを突破出来るとは思えないわ」
「そうか そうだな おれは しぬのは いやだな」
「そうよ。あんたを死なせる訳には...」

そのとき
へやの とびらが あいて

「ナグモ技官、命令に逆らったとは本当か」

おとこが さんにん あらわれた

「少佐、理不尽な命令にはそれ相応の意見をする権利が、私にはあると思いますが」

サユリは おとこの ひとりを にらみつける

「理不尽ではない。兵士の命が懸かっている。それにこれは決定事項だ。君が口を挟む段階にない」
「しかし」
「どうしても命令に従わないのなら、君はこの職を解かれることになる。そしてカゲネコ部隊は特殊作戦部直属の〇三部隊が直接指揮する」
「そんな! 彼等の世話は、治療は、機器のメンテナンスはどうするんです」
「それももう必要なくなる。クローンのネコ部隊が実用化されればな」
「私は聞いておりません、そんな話」
「君の関わるような問題ではないのだよ。ともかく、明日の作戦はクローン部隊の初の実戦となる。君は作戦の準備をすればよいのだ。拒否するかね」

サユリは くちもとを ゆがめた

「...いいえ」
「では、早速準備にかかってもらおう。それから」

おとこが ちいさな はこを つきだした

「これは、クローンネコどもにカゲネコ部隊の作戦行動を伝達するための通信ユニットだ。部隊の中心となるネコの頭部拡張基板に搭載するように」
「...つまり、無線通信によってネコたちを完全にコントロールする、と?」
「そういうことだ。作戦行動をネコが理解し、独自の解釈によって遂行にあたるなど、迂遠なことをしなくて済む」
「...」
「作戦開始は〇六〇〇時。遅れぬようにな」

そう いって おとこたちは へやから でていった

「やっぱり しごと なんだろう」
「そのようね...。あたしにはどうしようもないみたい。出来ることといえば...」

サユリは つくえの うえの きかいに むかって
なにか もぞもぞ やっている

「あんたたちが、無事に帰って来られるように、フォローすること、くらいよね」

おとこが もってきた はこ からは
ちいさな きかいが でてきた

「...こんな厳重なロックのかかった通信機器は初めて見たわ。なるほど、特殊作戦部の技官も木偶の坊というわけじゃなさそうね」

ぶつぶつ ひとりごとを いいながら

「なんとか...ハック出来るセキュリティーホールを...よし、見つけた!」

すうじの ならんだ がめんを みて
サユリは さけんだ

「なに してるんだ」

おれは きいてみた

「あんたたちの作戦行動が、どんなふうにクローンたちに伝えられるのか、そして特殊作戦部のやつらが何を考えているのか、監視しないといけないのよ」
「そうなのか」
「そうよ。少なくとも、あんたたちを無駄死にさせることのないように、いざとなったらあたしがコントロール出来るように、今からシステムを組み直すわね」

サユリは つかれた かおを している
なのに
じしん たっぷりの かおで そう いうんだ

「さあ、あんたは休んでいなさい。準備が出来たら起こすから」
「ああ そうするよ」

おれは ケージに もどって まるくなった
そうして
ごみための なかで うごめく ゆめを みた

  *   *   *   *   *

「これより、作戦を開始する」

くらい ひろい へやの なかで
おれは しごとが はじまるのを まっていた

「ぶしゅうううううう」
「ぎゃううううううう」

チャックが おれに きく
おれたち カゲネコの めのまえには
おそろしい かおを した ネコたちが
くるしそうな こえを だして
からだを ふるわせて うずくまって いた

「ククル なんだ あいつら」

チャックが おれに そう きいた

「しごとの なかま なんだとよ」

おれは そう こたえた

「なかま ほんとうか おれ こわい」

チャックは けを さかだてて
やつらを こわがっている

「しごと したら めし くう おれ めし めし」

しんだ ケチャより くいしんぼの カマゾーは
いつも そう いって
ほかの ことには しらんぷりだ

きょうの しごとは、おれと チャック カマゾー
そして
じゅうと ごひきの クローンネコで やるんだ

「作戦概要は先刻の説明通りだ。緩衝地帯のF地点に敵が築いた前線基地への潜入、導入された最新兵器の情報収集、及びその破壊。作戦終了予定時刻は一五〇〇時。各部署は特殊作戦部の指示に従って行動するように。以上」

おとこが そう いうと

「ククル、いってらっしゃい」

サユリが おれに 「いけ」の あいずを した
おれたちは
まっくろな おおきい つばさのある きかいに のりこんだ
ニンゲンが 「ヤタガラス」と よぶ その きかいに のって

「うぎゃあーおう」
「しゃああああう」

おれたちは
しごとに でかけた




つづく





いつも読んでくだすって、ありがとうございます

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