その手の夢 (その1)-湾岸戦争ー
その手の夢の終わりはいつも同じだ。
夢の中なのに
あれ?
これ夢で見たな
そう思うとハッとして
目を覚すのだ。
湾岸戦争('91)の年に見た夢もそうだった。
夢の中の私は、
手にした茶色の財布を見ている。
夢の前後には出てこなかったが、
どうやら横断歩道で信号待ちをしているようだ。
そして、
背後に教会が建っているのを
なぜか知っているのである。
夢なんてそんなものかもしれないが、
ふと気がついたことがある。
どうやら立っている場所は
日本ではなさそうだし
眺めている財布は、
見たこともない代物だった。
あれ?
これ夢で見たな
私は、ハッとして目を覚ました──。
「なんかキナ臭くなってきましたね」
柄にもなく同僚と世界情勢の話をしていると、
湾岸戦争勃発の臨時ニュースが流れた。
「始まっちゃいましたね?
どうなるんです。研修旅行」
金がないからと大学をあきらめ
さしたる大志を抱くこともなく
工業高校からトコロテン式に就職した私だが、
それなりに働いていると
良いこともあるものである。
この湾岸戦争の前の年に
『アンタはエライ!』
と会社から認められ、
“社員・オブ・ザ・イヤー”
みたいな賞を頂戴したのだ。
そのご褒美で
私はこの1週間後に
米国へ研修旅行に行く予定だったのである。
「いやぁ、まいりましたよ。
キャンセル料が一人あたり五十万ですよ」
一週間前ということもあって
キャンセル料は思いのほか高額だった。
米国研修旅行の主催者である
教育部の人間が頭を抱える。
会社から
社員の海外渡航禁止のお達しが出たのは、
湾岸戦争が勃発したその日のことであった。
<つづく >
写真:フォト満タン (デザインエクスチェンジ株式会社)より