平成22年7~9月の熱中症による死者1648人。平成23年6月の熱中症による搬送者7000人。7月13日のNHKのためしてガッテンは「熱中症で死ぬもんかSP」というタイトルでした。
これまでガッテンでは水分とともに塩分を摂ることを勧めてきました。番組は、20年前から塩分の重要性を説いてきた信州大学大学院・医学研究科・能勢博教授が「夏だからといって意識して塩分を摂るのは間違い」と言い出したことに文句を付けるところから始まりました。
(実験)34℃・51%に設定した人工気候室に夫婦2人が入って1日生活。汗の量は前後の体重の差で測定。汗の塩分濃度は、左腕をビニルカバーで覆って採取したものを分析。
(結果)夫2.6g。妻1.2g。これで塩分を意識して摂ると高血圧?
※日本人の1日の塩分摂取量は10.7g。2~3gで十分とされる。
能勢氏「運動中は日常より大量発汗し、塩分を失う」
○大量発汗→水分と同時に塩分を失う→体内の塩分濃度↓→水分を摂っても尿から排泄→熱中症
(実験)フットサルを2時間した人は平均2ℓの発汗。塩分濃度は0.71%(14.2g)で上記の夫婦の5倍以上。
(通常発汗時)水と塩分を排泄するが、汗腺が塩分を捕捉・再吸収
(大量発汗時)汗を大量に排出→汗腺が捕捉しきれず濃い汗
普段は水分補給でよく、屋外の活動で30分~1時間玉の汗をかく時は塩分補給、という結論でした。スポーツ時は糖+塩分で吸収↑とも。
――対策:適度な運動→汗をかきやすい体質→熱中症になりにくい
(実験)4人の男性が室温30℃の部屋で毎日30分運動。運動後に2人はスポーツドリンク、2人は牛乳。
(結果)スポドリ組は変わらずばてる。牛乳組は体温上昇せずばてない。
○運動後タンパク質摂取→アルブミン合成→血中の水分量↑で血液量↑→発汗量↑(暑い時は皮膚表面の血流↑で熱を逃がす)
番組は、牛乳には適度な塩分や糖も含まれていると優秀さを宣伝。また乳酸菌飲料でも良いと付け加えていました。
さて、筆者は拙論「食文化防衛論4―砂糖は脳エネか?」において次のように書きました。
「数年に一度は必ずと言ってよいほど猛暑に襲われる最近の日本列島ですが、夏の水分補給はどうすれば良いでしょう。甘いジュースや缶コーヒーはもっての外でしょう。日本人の伝統に従うなら麦茶に塩です。デザートならスイカに塩です。これらは、実は最も合理的な慣習といえます。汗として消耗されるナトリウムやその他のミネラル類を補給する意味があり、また甘いものに塩分は甘さを強く感じさせます。使う塩は精製された塩化ナトリウム(NaCl)ではなく、多くのミネラル類を含む天然の粗塩が良いのです。他のミネラル類の干渉によって血圧への影響も少ないと思われます。ところで、激しい運動をしている人にはスポーツドリンクも良いでしょうが、自宅で休息やオフィスでデスクワークといった一般の方には糖分が高すぎてお勧めできません。「糖質と塩分で吸収力アップ」に騙されてはいけません」
実は、汗で失われる塩分はNaClだけではなく、K(カリウム)も失われます。熱中症においては、体液中のNa(ナトリウム)とならんで細胞中のK(カリウム)も重要なのです。またKは尿からのNa排出にも寄与し、血圧降下のためにも良いのです。これを補うためにも天然の粗塩を麦茶に加えて飲むことを勧めたわけです。スイカにはKを多く含んでいるためなお良いでしょう。また総じてKを多く含む野菜を普段から多く摂る事が熱中症予防の前提となります。
また拙論「食文化防衛論2-牛乳に相談してよいか?」において次のように書きました。
「牛乳をはじめとする乳類には、乳糖(ラクトース)が含まれています。グルコース(ブドウ糖)とガラクトースからできているこの二糖類は、ラクターゼ(乳糖分解酵素)がなければ分解されず吸収もされません。ガラクトースはガラクトキナーゼでグルコースに変えられて吸収されます。実は一部のヨーロッパ白人、アメリカ白人を除いて世界中の多くの人種では、母乳を吸収する必要のある時期、および離乳期を過ぎると、例外はありますがラクターゼ(およびガラクトキナーゼ)の分泌が減っていくのです。日本人の80~90%以上は離乳期を過ぎるとラクターゼが分泌されなくなるそうです。ラクターゼを分泌しない人が乳類を飲むと腹鳴・腹痛・下痢・吐き気などの反応が起こります。このような症状を呈する、日本人を含むアジア人とアフリカ人の多くは、ヨーロッパ人の基準で乳糖不耐症(ラクターゼ欠乏症)だとされてきたわけです。ラクターゼを分泌しない人は、離乳期より後に牛乳を飲んでもカルシウムは吸収されず、糞便中に排出されてしまうそうです。それどころか他の食物から摂ったカルシウムまで一緒に排泄されてしまうようです。つまり骨粗鬆症も成長不全も、カルシウム不足は「牛乳に相談」してはいけないのです。またチーズやヨーグルトのようにグルコースとガラクトースが分解された形で存在している場合には、ガラクトースの代謝物が眼の水晶体に溜まって若年性白内障になるリスクがあるようです。」
牛乳はかくも日本人の体質に合わないものなのです。これは水溶液中のカルシウムの話ですが、乳化されているタンパク質の吸収でもある程度は類推できます。
同じ「食文化2」で次のようにも書きました。
「牛乳に含まれる量を全て100として比較すると、木綿豆腐にはタンパク質:234、脂質:153、カルシウム:120、鉄:1400、ビタミンB1:1233ということです。(中略)味噌汁や漬物は塩分過多が懸念されていますが、食塩感受性の高血圧は全体の1/3程度だとされ、10g以下にあまりこだわる必要はないと思われます。」
牛乳に含まれるタンパク質を100とすれば豆腐に含まれるタンパク質は234ということです。体質に合わない牛乳よりは、豆乳でも食事の味噌汁でも大豆タンパクを摂ればよいのです。
食塩感受性の高血圧はそれほど多くなく、KやCaなどのミネラルを多く含む海の塩なら、尿からのNa排泄によって血圧を逆に下げるとも言われています。
「食文化防衛論4-砂糖は脳エネか?」
http://ameblo.jp/natural-national/entry-10598452466.html
「食文化防衛論2-牛乳に相談してよいか?」