市民福祉情報オフィス・ハスカップは6月2日、参議院厚生労働委員会の委員25人に介護保険法改正案について要望書を提出した。同オフィスを主宰する小竹雅子氏は、CMOの社会保障審議会レポートでもおなじみ。(ケアマネジメントオンライン)

以下、その全文を紹介する。

参議院厚生労働委員会のみなさまへ

市民福祉情報オフィス・ハスカップは、介護保険制度についての勉強会や電話相談を実施している市民活動団体です。通常国会では、「地域における医療及び介 護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律案」が審議されていますが、社会的入院の解消、家族介護の負担軽減を掲げた介護保険制度の 基本理念が崩されようとしています。多岐にわたる改正案のなかでも、下記の3項目については、ぜひ、慎重な審議をお願いいたします。

1.「サービスを利用する権利」を守ってください!
介護保険サービスは、介護保険料を払っている被保険者であって、市区町村の介護認定でサービスが必要と判定され、ケアプランを作って、はじめて利用にたどりつきます。
改正案では、要支援認定者(要支援1・2)への予防給付のうち、ホームヘルプ・サービスとデイサービスだけを地域支援事業(市区町村事業)に移すとしています。
要支援でホームヘルプ・サービスとデイサービスを利用するのはのべ約120万人になりますが、給付費は2,495億円(2012年度)で、給付総額の3.3%とささやかなものです。
効率的なサービス提供といえますし、働く子世代の別居介護を支えているサービスでもあります。
また、移行するサービスの給付費は地域支援事業に移すとされていますが、給付の伸び率(約6%)ではなく後期高齢者の伸び率(約4%)にあわせるとされているので、単純計算でも2%の削減になります。
そして、必要に応じて提供される給付から、年間予算に限られる地域支援事業に変わるなか、地域支援事業にはさらに「医療・介護連携」、「認知症施策」など新しいメニューも予定されています。
要支援認定者の人の暮らしを支えてきた現行サービスの水準が、地域支援事業に移行しても維持されるかどうか、大きな不安もあります。要支援認定者のサービスを利用する権利(受給権)を守ってください!

2.「サービスを選ぶ権利」を守ってください!
改正案では、特別養護老人ホームの利用者を要介護3以上に限定するとしています。
介護保険制度創設のとき、それまでの措置制度から、認定を受けた人がサービスを「自己選択」し、「自己決定」する選択型制度に変わるのだという説明がありました。
しかし、施設サービスは要介護認定(要介護1~5)でないと利用することができません。
そのうえ、今回は特別養護老人ホームの利用だけを要介護3以上に制限し、要介護1・2(約6万人)を除外するとしています。
厚生労働省は、在宅に暮らす要介護3以上の待機者を優先させるとしていますが、特別養護老人ホームの待機者のうち、要介護3以上は約35万人になります。要介護1・2の人と交替したとしてもなお、約29万人が利用できません。
また、要介護1・2で特別養護老人ホームを利用する人は、住宅問題など別の事情があるので、「高齢者の住まい対策」で対応すると説明しています。
しかし、特別養護老人ホームの事業所調査はあっても、利用者の"事情"について、実態調査が行なわれたことはありません。
需要の高いサービスの利用を制限することは、現在、利用している人だけでなく、在宅介護をする介護家族などに与える心理的な影響も懸念されます。
認定を受けた人たちの、サービスを選ぶ権利(選択権)を守ってください!

3.利用料を2割負担にするには、高齢者の負担能力を慎重に検討してください!
改正案では、「一定以上の所得がある人」ひとり暮らしの場合、年収280万円以上、課税所得160万円以上)の利用料を1割負担から2割負担に引きあげるとしています。2割負担ということは、利用料が2倍になることです。
厚生労働省は、高額介護サービス費(自己負担の上限額)があるので、単純に2倍になるわけではないと説明していますが、試算をみると、要介護1・2で高額介護サービス費の対象になる人は1割にもなりません。
また、高額介護サービス費は、現役並みの収入(ひとり暮らしで年収383万円以上、課税所得145万円以上)がある場合は、現行の3万7,200円から4万4,400円に引き下げるとしています。
さらに、第1号介護保険料の見直しでは、所得段階が新・第9段階になった場合、これまで基準額の1.5倍だった保険料が、1.7倍まで引きあげられる予定です。高齢世帯の家計収支の平均は赤字で、預貯金を取り崩しています。
消費税が8%に引きあげられたうえ、介護保険料の負担が増え、利用料が2倍になっても、必要なサービスを利用し続けることはできる人はどのくらいいるのでしょうか。
「一定以上の所得がある人」になるのは、第1号被保険者(65歳以上)のうち、所得が上位2割にあたる「相対的に負担能力の高い」人とされていますが、利用者の「絶対的な負担能力」について、慎重な検討をしてください。

4.介護労働者の労働条件について、議論をしてください!
5月27日、介護労働ホットライン実行委員会は、田村憲久・厚生労働大臣に下記の要望書を提出しました。
5月20日、衆議院では「介護・障害福祉従事者の人材確保のための介護・障害福祉従事者の処遇改善に関する法律案」が可決されていますが、「2015年4 月1日までに、介護・障害福祉従事者の賃金をはじめとする処遇の改善に資するための施策の在り方についてその財源の確保も含め検討を加え、必要があると認 めるときは、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする」という内容で、具体的な施策はありません。
2025年までに最低でも100万人増やす必要があるといわれる介護労働者の労働条件について、具体的な議論をしてください!

2014年6月2日

市民福祉情報オフィス・ハスカップ主宰 小竹雅子