認知症の人の精神科入院医療と在宅支援のあり方に関する研究会(座長=大島伸一・国立長寿医療研究センター総長)が6日、東京都内で開催され、認知症の人への支援について、介護サービスの側から精神科病院に求めることなどが話し合われた。この中で、精神科病院から認知症の人が退院できないという指摘があり、地域における連携強化が必要との意見が出た。


 研究会では、認知症になっても本人の意思が尊重され、できる限り住み慣れた地域の環境で暮らし続けることをテーマに、医療・介護職や団体がどのような支援ができるのかを示そうとしている。厚生労働省の老人保健健康増進等事業で、今年度3回目の開催となる。
 この日は特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、認知症グループホーム、小規模多機能型居宅介護事業所、介護支援専門員の関連団体と、認知症の家族会が、精神科医療に求めることについて報告した。
 ディスカッションでは、新田國夫氏(全国在宅療養支援診療所連絡会会長)が、MCI(軽度認知症)を含めば認知症は1000万人の時代になっているとし、精神科医だけでなく、かかりつけ医や訪問診療ができる医師の対応も欠かせないとした。また、「BPSD(認知症の周辺症状)への対応は短くて、ある一定の時期。そこは精神科の問題として対応していただきたい」とした上で、基本的には、認知症の人の初期から終末期までの多くは、かかりつけ医がきちんと見る体制をつくるべきだろうと述べ、対応できる医師の育成はわれわれの義務ではないかとした。
 助川未枝保氏(日本介護支援専門員協会常任理事)は、精神科病院に入院しても、いかにスムーズに在宅に戻すかという議論が少ないと指摘。在宅に戻すためには、例えば一般病院であれば、ケアマネジャーは介護報酬の入院時情報連携加算を通じて、「このような状態では戻れませんよ」などと治療計画を立てる際に情報提供をしているが、精神科に入院した時は、情報連携が十分行われず、在宅に戻す方向性が見えにくいとした。
 また、在宅に戻れる状態になっても、家族調整が難しいといったことが起こり、自宅ではなく、介護系の施設に戻っていることも調査から分かるとし、「在宅に戻すという工夫をしていく必要があるのではないか」とした。
 山崎學氏(日本精神科病院協会会長)は、精神科医療では1か月から、大変な患者でも2か月でBPSDが取れるとした上で、「そういう患者をお帰ししようとすると、施設や家族から『やはり困る』といった話が結構ある」と指摘。また認知症疾患治療病棟の患者の方が、精神の一般病棟の患者よりも1年超の入院患者が多いとし、帰れない理由は、引き取ってくれない、帰るべき施設がないというのが主な理由と言う。山崎氏は「この辺を解決しないと、いくら在宅、在宅と言っても、絵に描いたもちみたいになってしまうのかな」と述べた。
 筒井孝子氏(国立保健医療科学院統括研究官)は、認知症の人への対応がよい病院というのは、おそらく病院そのものよりも、地域とのつながりを持っているからではないかと指摘。そして、課題は連携ではないかとした上で、「(連携の)マネジメントのサービスをどのように地域の中で位置付けるかを、研究会として提案した方がよいのではないか」と述べた。
 大島座長は最後に、間違いなく精神科病院に入院が必要な状況はあるとした上で、その時に必要とされる医学的な判断や適切な対応を明確にすべきだろうと述べた。また、「入院はある意味、急性期モデルとして標準化していく作業が必要ではないか」と指摘。その上で、地域では認知症にかかわる医師やさまざまな職種がいるが、「どのように連携体制をつくっていくのか。そして、施設を含め、地域全体の力をどのように高めていくのかということが、これから向かっていくべき一つの形ではないか」とまとめた。(CBニュース)