11月14日、東京・港区で介護労働シンポジウム「介護労働を魅力あるものに~将来展望を持って働き続けられる職場づくり~」が開催された(主催・介護労働安定センター)。シンポジウム前半は服部メディカル研究所代表取締役で長寿社会文化協会理事長の服部万里子氏による講演、後半は小規模多機能型居宅介護「ユアハウス弥生」所長の飯塚裕久氏、ノンフィクション作家の沖藤典子氏らによるパネルディスカッションが行われた。ここでは、服部氏による講演、「介護職の医行為と質の向上」についてお伝えする。

■医療職がいない場で高齢者を支える介護職の医療行為
「医業」というものは医師でなければ行ってはならないと、医師法によって規定されている。しかし、介護の現場においては、介護職が必要に迫られて医療行為をやらざるを得ないことが多く、「介護職の医療行為」は長くグレーゾーンとされてきた。それが大きく転換したのは平成17年のこと。厚生労働省が体温計による体温測定や自動血圧計による血圧測定、異常がない爪の爪切りなどについては医療行為ではないとし、介護職を含め、誰が行ってもよいという見解を明らかにしたのだ。さらに、昨年4月からは「社会福祉士及び介護福祉士法」の一部が改正され、たんの吸引や経管栄養の一部管理などが研修を受けた介護職に認められるようになった。

服部氏は、「こうした介護職への一部医療行為解禁の背景には、医療費の抑制がある」という。抑制のメインターゲットは高齢者。服部氏は医療保険別の1人当たりの医療費のデータを示し、協会健康保険が15万5388円、市町村国民健康保険が29万7260円なのに対し、後期高齢者医療保険は89万7084円と突出していることを指摘した。何しろ、「外来の約3倍の費用がかかる」(服部氏)入院患者の57.6%が70歳以上なのである。

平成37年までに医療費を6兆円削減するという「医療費適正化計画」が平成20年から進められ、在院日数を短縮し、退院を促進する診療報酬の改定も行われている。しかし退院させるためには、受け皿の整備が欠かせない。服部氏は、「介護職の医療行為一部解禁は、医療ニーズが高い人も医療職のいないところで対応できるようにするため」なのだという。

服部氏によれば、入院期間中、医療費が特にかかるのは手術とターミナル期。ターミナル期を病院ではないところで過ごしてもらえば医療費抑制につながる。そのため、介護保険では、退院後の受け皿となる老人保健施設やグループホーム等でのターミナルケア加算が手厚くなり、訪問看護のターミナルケア加算の算定要件が緩和されているわけだ。一方、できるだけ在宅で暮らしたい、最期は自宅で迎えたいという希望を持つ高齢者は多い。こうしたことから、今、医療職がいない場で高齢者を支える介護職の医療行為が大きな意味と役割を持っているのである。「介護職が医療行為を担えれば、より重度の人も在宅で暮らせるようになる」と服部氏は言う。

■介護職が医療行為を担う意味は
服部氏は、「退院のための環境整備は必要だが、そもそも入院させないことが大切」という。ケアマネジャーと介護職の連携で入院リスクをアセスメントしてリスクを日常的なケアで小さくし、必要に応じて医療につなぐことで入院をかなり防ぐことができる、とのこと。そのポイントとして、脱水、転倒、肺炎、感染、誤嚥、服薬管理などを挙げた。

たとえば、転倒した場所や原因を探り、転ばせない環境作りや対応方法を高齢者に伝えたり、誤嚥を起こさないための嚥下体操を日頃から行ったり、介護職ができることはたくさんある、と服部氏。「たんの吸引や経管栄養の管理をすることだけでなく、その人の生活全体を見て、どうすれば今の機能を維持できるかを考えていくことも介護職の医療行為だ」と言うのである。

肺炎で入院した高齢者が、入院によって肺炎は治っても、廃用症候群で寝たきりになるということがある。「病院はそうならないようなケアをする必要がある一方、ケアマネジャーは利用者が入院したら在宅に戻れる状態像を24時間以内に病院に伝え、在宅介護と医療の総合力でできるだけ早く在宅に戻れるようにすることが必要」と服部氏は言う。

「介護職は医療行為そのものより、高齢者の全身状態の観察、医療につなぐべき状態像の見極め、判断に迷ったときに相談できる関係づくりの方が何倍も大切」と服部氏。高齢者に、より長く在宅生活を続けてもらうためには介護職の専門的な観察力、医療との連携、そして、一部の医療行為を介護職が家族支援をしながらできることだ、と締めくくった。

その意義が高まっている介護職の医療行為だが、これを担える介護職が続々と増えているかというと必ずしもそうではない。服部氏の講演の中でも、研修に組み込まれている利用者宅での実地研修の実施がなかなか難しいという話があった。利用者本人や家族の承諾のほか、かかりつけ医の指示書、現場での看護師の指導が必要だからだ。実地研修を含めた研修を修了しなければ、実際に利用者に対して医療行為を提供することはできない。服部氏からは、制度上の問題もあって「在宅で医療行為が受けられない”医療行為難民”が増えている」という話もあった。

一方、シンポジウム後半のパネルディスカッションでは、沖藤典子氏から「介護職の医療行為の意義はわかるし、介護と医療の連携は今後ますます大切になってくるだろう。しかしだからといって、介護職が医療の補助職であってはならない。あくまでも生活を守ることの中にこそ、介護の独自性がある」との発言が聞かれた。医療行為を担う介護職には、その意義や期待の大きさと同時に、介護職としてのアイデンティティのあり方も突きつけられている。そもそも介護職のアイデンティティとは何か。在宅の要介護高齢者を医療行為の提供も含めて支えていくことは、介護職としてのアイデンティティに反するのだろうか。ケアマネジャーのみなさんも考えてみてほしい。(ケアマネジメントオンライン)