「実効性のあるケアプラン・サービス計画に練り上げる」。この1点を目指して、20数名の参加者が検討を行う和光市の「コミュニティケア会議(=地域ケア会議)」。前回は、会議でのやり取りを含め、なぜ実効性があるかを紹介した。今回は、なぜこの会議がOJTの場として機能しているのか、なぜ居宅介護支援事業所(以下、居宅)のケアマネや地域包括支援センター(以下、地域包括)職員が力を付けていくのかについてお伝えしたい。

ケア会議見学後、この会議のコーディネイターを務めた和光市保健福祉部長の東内京一氏、和光市内で居宅ケアマネを務めるニチイケアセンター和光の富田孝子氏、和光市第二地域包括支援センターの山岸由実氏に話を伺った。すると、和光市でケアマネやサービス事業者、地域包括職員が力を付け、実効性のあるケアプランやサービス計画を立てられるようになる理由が見えてきた。以下のような理由である。

●保険者の方針に一貫性があり、方針実現のためのサポートを惜しまない
●保険者が地域包括を、地域包括が圏域のケアマネをサポートする体制がある
●ケアマネらにケア会議参加で視野を広げようという意欲がある

■保険者の方針の一貫性
居宅ケアマネの富田氏、地域包括の山岸氏が口をそろえて言ったのがこれだ。健康な人はできるだけ健康を維持し、改善可能性のある要介護者には改善のための支援を行い、重篤な要介護者は現状維持や緩やかな悪化を目指して支援する。それが和光市の方針だ。他市でのケアマネ経験がある富田氏は、「その場限りの対応の保険者は多いが、和光市は方向性がはっきりしているからやりやすい」という。

和光市のこうした方針は、介護保険法に書かれた国民の権利・努力義務と共に、制度開始当初から保険者が中心となって市民に説明してきた。加えて、地域包括職員や居宅ケアマネも、市民から介護保険申請を受ける際など、様々な場面で繰り返し説明している。このため他市に比べれば、和光市民ははるかに制度理解度が高いと言われる。それでも中には、権利意識が強く、居宅ケアマネの説明だけでは自立支援型のケアプランに納得しない利用者もいる。

そんなときには、保険者が乗り出して説明を行う。「私も係長時代から、何度も利用者の家に行って説明をしました」と東内氏。「そこでどういう説明をすれば理解してもらえるか、どうやって合意形成を図るかをケアマネや地域包括職員らに見せてきたわけです。これもOJTの一つですね」という。

前回の記事では、ケア会議で出た医療への要望を、保険者からの要望として医師に依頼する話を紹介した。前述の利用者への説明同様、和光市は保険者の方針に沿って動くケアマネや地域包括を、労を惜しまず支援することを徹底しているのだ。だから、「何かあったら、保険者が出てきてくれるので動きやすい」(山岸氏)と、地域包括職員や居宅ケアマネからの保険者に対する信頼は厚い。これが保険者主導で開催しているケア会議への信頼にもつながっている。

■重層的なサポート体制
前回紹介した和光市のコミュニティケア会議は、正式には「中央コミュニティケア会議(以下、中央ケア会議)」と呼ばれ、保険者主催で月2回開催されている。これは、保険者と地域包括全職員、アドバイザーとして外部専門職が参加する会議だ。会議で検討するケアプランの作成担当者やサービス事業者が招集され、参加者からの様々な意見によって、より実効性のあるプランにブラッシュアップするためのアドバイスを受ける。

招集を受けた居宅ケアマネにとっては、プレッシャーのかかる会議だ。だから会議に慣れていない居宅ケアマネをサポートするため、その居宅がある圏域の地域包括職員は、一緒になって会議に向けた準備をするのだという。「提出する書類を事前に確認して書き方を修正してもらったり、アセスメントが足りないと感じた部分は、会議までにもう少し詳しく聞いておいて、とアドバイスしたりします。そうやって準備すれば、アドバイザーである専門職との意見のやり取りがしやすくなりますから」と山岸氏。居宅ケアマネは会議にただ呼びつけられ、孤立無援で参加しているわけではないのだ。

そもそも、和光市では地域包括と居宅ケアマネの関係が密だ。山岸氏は、地域包括から居宅に新規利用者の紹介をする際には、事業所内のどのケアマネに担当してほしいかを指名して紹介することも多いという。「どの居宅にどんなケアマネがいるかは把握していますから、利用者との相性を考えて指名することが多いですね。その方が、利用者、ケアマネ双方にとって良いですから」と山岸氏。圏域内の居宅に顔を出し、紹介した利用者のその後について尋ねることも多いそうだが、それは山岸氏に限らず、多くの地域包括職員がしていることだという。

利用者の紹介を受ける立場にある富田氏は、「ある利用者のことで山岸さんに相談の電話をしたら、すぐに誰のことかを理解して対応してくれたので驚きました」と語る。山岸氏は、自身の担当している利用者だけでなく、紹介した利用者の情報もほぼ把握しているのだという。「地域包括は紹介して終わり、ではないですからね」と山岸氏。他市ではなかなか聞けない言葉だ。

ところで和光市では、中央ケア会議以外に月3回、各地域包括主催のコミュニティケア会議も開催している。こちらは地域包括職員がコーディネイター(司会者)を務め、市職員はオブザーバーとして参加する。外部専門職はいないが、会議の趣旨は中央ケア会議と同様だ。

地域包括職員は中央ケア会議で、介護予防プランの作成者としてプレゼンを行ったり、参加者として意見を言ったりする中で、ケア会議の趣旨、進行方法、プランをブラッシュアップする視点、コーディネイターの役割等を学ぶ。そして学んできた方法や役割を各地域包括ケア会議の場で実践し、圏域のケアマネの支援を行っているわけだ。これが東内氏の言う、「ケア会議を通してOJTで学ぶ」ことの一環である。つまり、中央ケア会議は、招集した居宅ケアマネやサービス事業者を保険者主導で育成する場であるだけでなく、地域包括職員らを育成する場でもある。保険者が地域包括職員を支援・育成し、地域包括職員が居宅ケアマネを支援・育成する重層的な構造が、和光市では確立されているのだ。

■「もう和光市から離れたくない」
それにしても、保険者主催の中央ケア会議に招集され、たくさんの参加者から様々なアドバイスを投げかけられる居宅ケアマネは、どんな思いでケア会議に参加しているのだろうか。

これまでに何度も招集された経験のある富田氏は、「最初の頃はプレッシャーでした」と語る。「プレゼンにも不安がありましたし、たくさんのアドバイスを受けても十分聞き取ることができず、消化しきれないこともありました」と富田氏。しかし回数を重ねるうち、アドバイスのポイントをメモする余裕が生まれ、会議終了後に自分なりの記録を作成するようになって、ケア会議の効用を実感できるようになったという。

「たとえば、栄養や口腔についての視点は、ケア会議に参加するまでは十分ではありませんでした。ケア会議で意見をもらったことで、担当する他の利用者にもその視点を応用できるようになりましたね」と富田氏。それは居宅ケアマネだけでなく、地域包括職員も同じだ。山岸氏は、「ケア会議に出るまでは薬剤師さんと詳しく話したことがなかったんです。でもケア会議の場で、たとえば整腸剤にも効き目の違う様々な種類があることなどを教わって知識の幅が広がりましたし、異なる職種の意見を聞けるありがたさを実感しました」という。

1回の会議で複数のプランが検討されるため、自分のプランに対して言われた意見だけでなく、他の人のプランに対するアドバイスを聞いていて得るものも多いと、山岸氏はいう。「それに、他の人のケアプランを見るだけでも、あ、この書き方はいいなとか、この視点を今度意識してみようとか、学ぶことはたくさんあるんです」と山岸氏。「今は、自分に足りない視点をもらおうという意識で、ケア会議に参加しています」と、2人は声をそろえる。

富田氏は、和光市周辺エリアにあるニチイ学館のケアマネ45人で開催している勉強会のリーダーを務めている。その会では、和光市のケア会議を模した勉強会を定期的に実施。他市のケアマネたちから、「一貫した視点で検討をしていく手法がとても勉強になる」「県の主任ケアマネの研修会でも、学んだ視点が生かせた」と高い評価を受けているのだという。「そういう話を聞くと、和光市のケア会議に参加していると、レベルアップが図れるのだなと改めて感じますね」と富田氏。

いくつかの保険者の元でケアマネをしてきた富田氏は、「和光市は働きやすいのでもう離れたくない」という。この言葉に、和光市が手がけてきたコミュニティケア会議、介護保険行政への素直な評価が表れていると言えるだろう。(ケアマネジメントオンライン)