9月19日、東京・赤坂でシルバーサービス振興会の月例研究会が開催された。講師は、厚生労働省大臣官房審議官・有岡宏氏。「今後の介護保険制度見直しの方向性について」と題した講演では、介護保険を取り巻く状況、制度見直しにおける検討課題と今後のスケジュールが語られた。

介護保険制度を含む社会保障制度改革については、すでに今年8月、社会保障制度改革国民会議が報告書をとりまとめ、これを踏まえた検討が社会保障審議会介護保険部会で始まっている。制度の見直しにおいて、今、検討課題として挙げられている大きなポイントとして、有岡氏が言及したのは以下の6点だ。

●予防給付の地域支援事業への移行
●高所得高齢者の利用者負担引き上げ
●補足給付の支給要件見直し
●特養入所者の重点化
●介護職員の推移と見通し
●介護ロボットの開発支援

■予防給付の市町村移行後も財源規模・構成は変わらない
中でも、ケアマネをはじめとした介護関係者の関心が高いのは、予防給付の地域支援事業への移行だろう。今、個別給付を受けている人は切り捨てられるのか? 市町村事業にすると言ってもスタッフがいないのにどうするのか? 財源はどうするのか?など、不安を訴える声は多い。

これに対して有岡氏は、「平成23年度で予防給付は約4,100億円、地域支援事業は約1,570億円を介護保険財源によってまかなっている。予防給付の地域支援事業への移行後もこの財源規模、財源構成ともに変わらない。個別給付を受けている要支援者に対しては再度認定を行い、必要な人には引き続き給付をしていくが、効果のない給付は見直しを行う必要があるだろう」と、述べた。

配付された資料をもとに少し補足すると、新しい地域支援事業は、現在の介護予防の個別給付(要支援1・2対象)と地域支援事業の介護予防事業・総合事業(事業内容は市町村の裁量)が統合され、新しい総合事業(要支援事業・新しい介護予防事業)となる。この財源は、国25%+都道府県12.5%+市町村12.5%+1号保険料21%+2号保険料29%と、現行通りだ。

また、現在の地域支援事業のうちの包括的支援事業・任意事業(地域包括支援センターの運営等)についてはほぼ現行通りの位置づけで、財源も国39.5%+都道府県19.75%+市町村19.75%+1号保険料21%という現行のままの構成とされている。

■長い目で見て費用削減が図れるといい
では、移行によって何が変わるかといえば事業の内容だ。新しい総合事業では、事業内容は市町村の裁量となる。つまり、要支援者に対してどのようなサービスをそろえて給付を行っていくかは市町村次第ということだ。また、これまでの予防給付では事業者の人員基準や運営基準が定められていたが、これが撤廃される。要支援者に対する支援は、全てが市町村の裁量と判断に委ねられることになるのだ。

有岡氏は、「財源構成が変わらず、かかる費用も変わらないならなぜ見直しの必要があるのかと問う声もあるが、予防給付の中心となっている生活支援についてきめ細かく対応したいということ。地域の情報を細かく把握している市町村の判断に委ねた方が妥当だと考えた。費用に関しては、直ちに減るとは考えていないが、中長期的に見ていきたいと考えている」と語った。

しかし「効果のない給付は見直し」という言葉もあり、給付のあり方は費用削減方向へとシフトしていくことは避けられないのではないか。

■補足給付支給要件見直しは預貯金の抽出調査もあり?
このほか、高所得者の利用者負担の引き上げについて、有岡氏は、医療保険において現役並み所得者の負担割合を1割から2割、3割負担と引き上げてきたことに触れ、現役並み所得者の利用負担比率引き上げを検討していると語った。同様に、高額介護サービス費についても、平成18年に一般で44,400円とした医療保険の外来負担限度額に合わせて、介護保険も同額までの引き上げの検討を行っているとのことだ。

また、補足給付の支給要件に関しては、これまで捕捉可能だった所得水準だけで判断していたが、世代間の公平性確保の観点から預貯金や不動産などの資産を支給要件として勘案することを検討しているとのこと。これは、収入200万円未満だが貯蓄額が900万円以上の世帯が28%、同じく不動産資産が1,000万円以上の世帯が47%ということから、検討の俎上に上ったものだ。

ただし、これについて有岡氏は、「預貯金額や資産額いくら以上を支給対象から外すのかということを考えると難しい。さらにいえば、預貯金額は把握が難しいこともあり、自己申告しか捕捉しようがない。意図的に隠していたらペナルティを課す、あるいは、サンプル調査で銀行に調査をかけるなどの方法が考えられるが、これについては今後かなり議論が出てくるのではないか」と語った。

利用者負担が増え、サービス低下が懸念される介護保険の見直し。
今後のスケジュールとしては、介護保険部会で9月から11月にかけて集中審議が行われ、2014年1月の通常国会に改正法案が提出されるとのこと。今後、どのような議論が行われるのか、しっかり見ていく必要があるだろう。

■介護の地域連携は条件付きで認める?
講演終了後の質疑応答では、まず杉並区による南伊豆での介護施設開設計画など介護の地域連携に関するその後の議論の方向や進展についての質問があった。

これに関して有岡氏は、「杉並区はもともと南伊豆と市民レベルでの交流があったことから、南伊豆に特別養護老人ホーム開設を計画しているということだ。ただ、特別養護老人ホームの入所に関しては、優先順位の付け方の指針が示されており、杉並区と南伊豆の住民を優先的に入所させるというのは違うのではないか」とのこと。杉並区の計画を受けて、うちもどんどん作るという市町村もあれば、消極的な市町村もあり、受け止めも様々だという。

「これについての議論はまだまだこれからだが、個人的見解としては、杉並区で200床足りないから南伊豆で200床受け入れて、というのはダメ。従来から市民レベルでの交流がある、医療等との地元での連携が可能など、一定の要件を設けて認める余地を作るべきではと考えている」と、有岡氏は語った。

■新しい地域支援事業の担い手はとりあえず従来事業者
また、予防給付と地域支援事業が統合されたあとの新しい地域支援事業にはどのような事業者の参入を想定しているのかという、事業者からの質問もあった。

これについて有岡氏は、「これは市町村からよく聞かれる大きな不安の一つ。地域にもよるが、特に地方の場合、担い手がそれほど多いわけではなく、当初の委託先は従来の指定事業者になるのではないか」とのこと。

ただ、それではこれまでの予防給付と内容も費用も変わらなくなってしまう。そこで有岡氏は、「生活支援のうち、愛知県での調査で1人暮らしの高齢者が困っていることとして挙げられた、家の中の片付けや自治会活動、掃除、買い物、ゴミ出しなどは、元気な高齢者など地域のボランティア、NPOなどを活用していく」とのことだった。

しかし、サービス低下への不安、費用増大の不安などが訴えられていることから、有岡氏は「市町村がどのような実施主体を選定していくかについては、何らかのガイドラインを作っていく必要があるだろう」と締めくくった。(CBニュース)