9月25日、社会保障審議会介護保険部会 (山崎泰彦・部会長 以下、部会)の第49回 が開かれ、「費用負担の公平化」(資料1 )をテーマに、①“一定以上所得者”の利用者負担の引き上げ、②施設サービスの「補足給付」の厳格化、③第1号介護保険料の低所得者軽減強化の3点について、事務局の厚生労働省老健局から「論点」が提案され、委員から自由発言が行なわれた。

■“一定以上所得者”は年収280万円以上
介護保険制度は2000年度の施行以来、介護保険料を払う被保険者(約7,300万人)のうち、介護認定を受けた人が1割負担の利用料を払い、サービスを利用することを基本としてきた。

榎本健太郎・介護保険計画課長は、「一定以上所得者の利用者負担について」の資料説明を行い、“一定以上所得者”とは「相対的に負担能力のある所得の高い方」であり、「所得が低い方よりも1割多い2割負担をしていただく仕組みを設ける」という「論点」が出された。

利用者負担が2割になる“一定以上所得者”の年収基準としては、①合計所得金額160万円以上相当(被保険者の上位約20%)、②合計所得金額170万円以上相当(住民税課税の被保険者のうち所得額が上位概ね半分以上に該当)の2つの案が示された。

「合計所得金額」(年額)は介護保険料の負担段階の設定に使われるが、収入から公的年金等控除など必要経費(年金の場合、最低120万円)を差し引いた後の金額で、①の場合は年収280万円以上、②の場合は290万円以上となり、約430万人の利用者のうち約50万人が当てはまる。なお、年収の基準はこれまでと同じく個人単位で判断する。

厚生労働省資料では、①に該当する高齢夫婦世帯で、年収を夫280万円、妻79万円で合計359万円と仮定した場合、消費支出は約247万円程度で、税金・社会保険料など非消費支出を引いても約60万円の余裕があると説明している。

また、利用者負担が2割になっても、「軽度者は負担が2倍となるが、要介護度が上がると高額介護サービス費に該当することで負担の伸びは抑えられる者が多くなる」としている。

また、高額介護サービス費は、世帯単位で利用料が合計月額3万7,200円を超えた場合に払い戻す負担軽減策だが、厚生労働省は「基本的に据え置く」が、医療保険の“現役並み所得”に相当する者の限度額を4万4,400円に引き上げることも提案した。


■利用料引き上げへの委員の意見は拡散
今回の利用料の引き上げの提案は、8月6日に発表された社会保障制度改革国民会議 (清家篤・会長)報告書 の「制度の持続可能性や公平性の視点から、一定以上の所得のある利用者負担は、引き上げるべき」という提案に対応するが、厚生労働省の定義は「相対的に負担能力のある所得の高い方」で、どちらも“高所得者”と言っているわけではない。

大西秀人委員(全国市長会)は「2割負担は考えるべきだが、所得判定が必要になり、自治体事務は煩雑になる。また、どこで区切るのか実証的な検証が必要」とし、「合計所得金額190万円以上(注・年収310万円)で検討できないのか」と発言。結城康博委員(淑徳大学)は「事務局提案の所得水準には反対する。医療保険現役並み所得(383万円)、高齢夫婦であれば520万円」と提案した。

齋藤秀樹委員(全国老人クラブ連合会)は「年金の目減り、消費税増税を目前にして、利用料引き上げに国民の理解を求めるのは厳しい」、内田千恵子委員(日本介護福祉士会)は「入院費用を心配して利用控えする人もあるなか、余裕のない案」、内藤圭之委員(全国老人保健施設協会)は「医療保険との関係もあり、利用控えが危惧される。被保険者の上位20%はどうしても必要なのか」と疑問を出した。

厚生労働省案を支持する発言には、土居丈朗委員(慶応義塾大学)の「第2号被保険者の理解を得るためにも第1案が望ましい」、布施光彦委員(健康保健組合連合会)の「引き上げ案を支持する。医療保険の現役並み所得は異なっていい」、岡良廣委員(日本商工会議所)の「1割負担に根拠はない。高額医療・高額介護合算制度などセーフティネットはあり、将来的に一律引き上げをすべき」、酒向参考人(日本経済団体連合会)の「将来的には一律2割負担で、低所得者対策を設けるべき」などがあった。

また、鷲見よしみ委員(日本介護支援専門員協会)は「短期間で説明不足になることが予測されるので、利用者が納得できる説明ができるよう、現場への研修を」、齋藤訓子委員(日本看護協会)は「混乱が起こらないよう広報活動を」と引き上げを前提とする要望を出した。
新聞では「5人に1人2割負担に、介護保険 一定年収でと厚労省案 」(9月25日共同通信)、「介護保険の自己負担引き上げ案 年金300万円なら2割 」(9月25日朝日新聞)、「介護保険 50万人、2割負担に 」(9月26日毎日新聞)、「介護保険 5人に1人、2割負担 」(9月26日東京新聞)などの報道が行なわれている。

■配偶者の所得が一定以上だと「補足給付」の対象外
2006年改正で介護保険3施設、ショートステイの食費・居住(滞在)費が自己負担化され、低所得者(第1号介護保険料負担段階1~3)には介護保険財源から「補足給付」(特定入所者支援サービス費・特定入所者介護サービス費)が実施されている。

榎本・介護保険計画課長は「補足給付」について、「経過的な性格」と「低所得者対策」のふたつの要素があるが、「保有する預貯金等や不動産はそのままに、本来低所得者向けの補足給付を受けることは保険料負担者との間で不公平」であるため、①配偶者の所得勘案と②資産勘案を提案した。

①については、世帯分離した配偶者の所得が住民税課税の場合は「補足給付」の対象外にすることを追加し、「必要に応じ、戸籍等の照会を行う」としている。配偶者の所得まで捕捉することについて、厚生労働省資料は家族法を引用し、「夫婦間においては、他の親族間の扶養とは性質を異にする『生活保持義務』がある」としている。

■貯金が500万円あれば、ユニット型施設を10年間利用できる?
②の資産勘案では、「補足給付」の新たな2条件を提案している。
ひとつは、預貯金が一定額以上ある場合を対象外にするものだ。厚生労働省は「施設での生活にかかる費用等の目安(案)」として、ユニット型施設であっても「預貯金500万円程度があれば年金額が低い者でも補足給付を受けながら10年居住することができる」という資料を出し、“預貯金の一定額”の基準として、ひとり暮らしで1,000万円、夫婦で2,000万円程度を提案した。「補足給付」の認定手続きでは預貯金、有価証券などの写しの提出を求め、必要に応じて市区町村は金融機関に照会する、不正受給にはペナルティを設けるそうだ。

もうひとつは、不動産資産の勘案で、固定資産税評価額2,000万円(公示価格等で約3,000万円)以上の不動産を持つ者を対象外とし、本人の申告や固定資産税情報による把握をするとしている。なお、居住用不動産は「子どもが同居している場合等は除外」としている。

また、不動産資産が一定額以上ある場合、介護保険財源を原資に不動産を担保に貸付をするという構想も提案された。貸付業務は市区町村が外部に委託し、配偶者が住む不動産については死亡時まで返済猶予するという。
2011年度末現在、「補足給付」を認められている利用者は103万人で、給付費は2,844億円(食費2,204億円、居住費640億円)と報告されている。うちわけは、ショートステイ52万人(233億円)、特別養護老人ホーム30万人(1,631億円)、老人保健施設16万人(751億円)、介護療養病床3.9万人(157億円)などだ。
委員からは「資産勘案は賛成だが、介護保険で個人の金融資産が把握できるのか」(大西秀人委員)、「自己申告はペナルティ強化で確保できるのか」(齋藤秀樹委員)など、具体的な勘案方法についての疑問も出された。
なお、「介護施設の入居者補助、資産多い人は対象外 」(9月21日朝日新聞)、「『夫婦で預貯金2千万』は除外案 特養入居補助 」(9月24日読売新聞)など部会が開催される前からマスコミでは報道が行なわれた。

■第1号介護保険料は低所得者の負担段階を細分化
社会保障制度改革国民会議は、消費税引き上げ分を全額、社会保障に投入するとともに制度全般の見直しを行うために設けられた。消費増税による唯一の恩恵と思われるのは、「保険料水準の上昇に対応するため、低所得者の第1 号保険料について基準額に乗じることにより負担を軽減している割合を更に引き下げ、軽減措置を拡充すべき」という提案だ。

これを受けて部会では、榎本・介護保険計画課長から「1号保険料の低所得者軽減強化について」として、「住民税非課税世帯の保険料軽減強化に公費を投入する仕組みを導入し、現在の負担割合を更に引き下げる」ことが「論点」として出された。

具体的には、①第1・2段階の5割軽減から7割軽減に引き下げる、②第3段階は2.5割軽減から比較的所得の低い者は5割軽減、その他は3割軽減するという。
同時に、③特例第3・特定第4を標準化して標準9段階に見直す(表2参照)、④調整交付金による財源調整も③の新段階を用いることを提案した。

介護保険料は保険者である市区町村ごとに基準額が決められ、被保険者の所得に応じて負担段階が設定されている。制度スタート時は標準5段階だったが、2006年以降、第2段階が細分化され標準6段階となり、第4期(2009~2011年度)には特例第4段階(年収80万円以下)、第5期(2012~2014年度)には特例第3段階(年収120万円以下)が設けられた。また、標準6段階をさらに細分化する保険者もあり、最高18段階まで分けている市区町村もある。

65歳以上の第1号被保険者は約3,100万人だが、厚生労働省案では、現行の第1・2段階では5割から3割に、特例第3段階は7.5割から5%に、第3段階は7.5割から7割に、特定第4段階は10割から9割にそれぞれ引き下げになるが、第5段階と第6段階の上位は引き上げになる。

大西秀人委員からは「消費税を確実に充当してもらうとともに、今回の保険料軽減は、新たな公費投入にしてほしい」という要望が出されたほか、「将来的には分離課税されている金融所得も含め『所得』を的確に定義すべき」(結城康博委員)、「消費税引き上げ分は地域格差の調整にまわすべき」(林正義委員・東京大学)、「第2号介護保険料も軽減すべき」(布施光彦委員)などの意見が出された。
第1号介護保険料の軽減については、「介護保険料 低所得高齢者の減額幅拡大へ」(9月22日NHKニュース)、「低所得者の介護保険料、負担軽減へ 厚労省案 」(9月26日読売新聞)などの報道があった。

10月2日の第50回 では、都市部の高齢化対策に関する検討会 (大森彌・座長)の「報告書 」(9月26日公表)をもとに、“地方移住型”特別養護老人ホーム(広域型施設)やサービス付き高齢者向け住宅への「住所地特例」の拡大などが提案される予定だ。(ケアマネジメントオンライン)