全国老人福祉施設協議会は、9月12日、厚生労働省に介護保険制度の見直しについての意見書を提出した。(ケアマネジメントオンライン)

意見書は、8月21日に閣議決定した社会保障制度改革プログラム法案を受けてのもので、とりわけ特別養護老人ホームの入居を中重度者以上とする案については、介護者不在や住居問題などで軽度の要介護者が入所している実情などを理由に、強く反対を表明している。

意見書の主な内容は以下の通り。

■介護予防給付の地域支援事業への移行について
・地域の実情や市町村格差を考慮したうえで、市町村の体制整備や利用者への周知などに支障が生じないよう、移行期間を設けるべき。同時に、当面の間財政面のみならず、相談支援や連携のあり方を含めた国からの協力体系を整えることが不可欠である。

・日常生活圏域ニーズ調査で得られた情報について、個人情報保護に配慮しつつも地域の高齢者の安否確認、見守りなど地域などでの生活支援を推進するため、地域包括支援センターなどを介しての情報共有化の基準作りが望まれる。

・介護予防事業を地域支援事業に移行するにあたっては、介護予防の理念に立ち戻り、事後評価の徹底についての認識の共有が必要である。

・「新しい地域支援事業」として再構築するにあたっては、介護の必要性のみならず自立した生活を支援する総合的な観点からのソーシャルワーク・コミュニティワーク的な体制づくりが必要である。

■一定以上の所得を有する者の利用者負担の見直し
・「一定以上の所得」の基準・考え方について、医療保険・介護保険その他社会保障・社会福祉制度間で共通のルールにしていく必要がある。

・その上で、国民の負担に対する理解と納得を得られる透明性の確保や広報・窓口体制の構築、激変緩和策などを検討すべきである。

■補足給付の支給の要件に資産を勘案するなどの見直し
生活保護に至らない低所得者・低年金者に対し、現状では補足給付以外の所得補てんの仕組みはない。見直しにあたっては以下について検討し、十分な配慮をいただきたい。

・低所得者・低年金者等に対する何らかの補てん措置を行う判断基準については、すべての福祉的援助に共通するものにしていくべきである。

・補足給付対象者の決定において考慮すべき資産要件については、公平性の観点に基づく議論が必要である。


■特別養護老人ホームに係る施設介護サービス費の支給対象の見直し
特養ホームでは、都道府県・指定都市ごとに行政と老人福祉施設協議会が協議して「入所判定基準」を策定し、客観的入所判定を行っている。その結果重度者優先の入所判定が進んでおり、各施設の平均要介護度も年々重度化している実態がある。
これを踏まえ、特養ホームに係る施設介護サービス費の支給対象の見直しについて以下のように考える。

・軽度要介護者(要介護1・2)の入所については、地域の事情によりセーフティネットとしての役割を果たすべく、相応の判断があって行われている。したがって入所判定は事業者の主体性に任せるべきであり、一律に重度要介護者のみに入所制限することは、介護保険法第2条3に定める選択の自由にそぐわないものであって強く反対する。実態に応じた裁量的施策を講じるよう検討を求める。

〔軽度要介護者が入所している主な理由〕
介護者不在・介護困難、住居問題など
認知症のBPSDその他の理由による判断力の低下・喪失
虐待・介護放棄などの措置入所
行政から期間を限定した緊急入所依頼を受ける

・ 軽度要介護者には、認知症の精神症状に問題を有するケースが多く含まれており、支援の内容は多面的かつ専門性を必要とすることはこれまでの緊急措置入所の実績からも明らかである。現行の要介護認定の判定基準では、「身体介護」と「認知症」を一律に軽度要介護者の区分で取り扱われることから、最も支援を必要とする時期の認知症の人にとって大きな不利益となり、サービスの選択肢を著しく損なうことが予想される。

・重度者が増加している実態に対し、特養ホームの運営基準上の医療体制は「健康管理」のまま置き去りになっている。実態に合わせた重度要介護対応型の運営体制・報酬体系など、これからの特養ホームのあり方について議論が急務である。

・特養ホームにおける入所基準のみを重度に制限することは、他の介護保険施設・在宅給付のカテゴリーにありながらも実態として入所施設であるグループホームとの整合性に矛盾が生じることになり、介護保険サービス体系のあり方からきちんとした検証を行うべきである。

・「指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準」第43 条2において、ユニットの運営基準として、「入居者の日常生活における家事を、入居者がその心身の状況などに応じて、それぞれの役割を持って行うよう適切に支援しなければならない」と定められており、本規定と「中重度者への重点化」については矛盾が生じる。
さらに、「小規模生活単位型・地域密着型」の居住型施設については、人員配置の上でも必ずしも効率的とはいえない基準であるため、人材確保が困難な中、中重度化への重点化によってより困難が生じることが考えられることから、実態に則した整理が必要である。

■低所得の第一号被保険者の介護保険料の負担軽減
低所得者への対応については、制度の網目からもれることのないよう、社会的包摂の観点に立ち、一層の配慮をもって施策を進めてもらいたい。

■その他、総論として
社会保障費の抑制が大きなテーマになるなかで、介護保険給付の効率化は避けて通ることのできない課題である。国民が改革を根拠に基づく必然のものとして明快に理解できるよう、要支援の除外などそれぞれの改革案による抑制の効果がどの程度のものなのか個別具体的に示すべきである。