介護保険をめぐり、介護予防を国の制度から切り離す議論が進んでいる。21日に閣議決定した社会保障制度改革プログラム法案骨子では、2015年度をめどに軽度の予防段階とされる「要支援」を保険対象から外す方針が示された。現場では「軽度切り」はすでに進行。国の掲げる「予防重視」の看板は色あせる。

 岐阜県各務原市の男性(76)は、介護保険では電動車いすを使えないことが規則だと知ると、ため息をついた。

 足腰が弱った男性は車の運転を断念。このままでは家に引きこもって、ますます足腰が弱るからと、介護保険を申請して電動車いすを借りようとした。買えば数十万円だが、介護保険でレンタルすれば、月々一割の自己負担は二千五百円ほどだ。

 審査の結果は一番軽い要支援1。だが、二〇〇六年の制度改革で、介護予防に重点を置く要支援1、2と、介護が必要でも程度の軽い要介護1では、電動車いすは原則使えなくなっていた。

 「ほとんど寝たきりにならないと使わせないのでは、予防の意味がない」と男性。現在、医師の所見などで例外的に認められる手続きをしている。

 〇六年以降の制度改革で、国は「予防重視」を掲げた。だが、実際は「サービスに頼りすぎると体の機能を衰えさせる」として、要支援など軽度者を対象にしたサービスの切り下げが先行した。

 影響が大きかったのは上体部分が起き上がる介護ベッド(特殊寝台)。立ち歩きはできても、自力で体を起こすことが難しい高齢者も少なくない。だが、二十万人以上がサービス打ち切りに直面した。

 徘徊(はいかい)感知器も、認知症であっても歩き回れる高齢者にこそ必要なもの。だが、自力で立つのが難しくなるレベルの要介護2以上でなければ原則使えなくなった。

 ホームヘルプによる生活援助も、一二年から時間区分が六十分から四十五分になり、利用時間が短縮された。サービス全体の利用限度額も要支援は二~三割削減された。

◆市町村への移管 地域格差拡大も

 今回の議論は、切り下げの進む要支援について、さらに国の制度から切り離し、市町村の判断に基づく事業に移すものだ。逼迫(ひっぱく)する社会保障費全体を見直す事情はあるとはいえ、介護で予防重視を掲げた国が、予防から手を引こうとしている。

 東京都昭島市の保健・福祉・医療関係者らでつくる「あきしま地域福祉ネットワーク」の石田英一郎会長は「権限を市町村に委ねれば、サービスの地域格差が広がるだろう。介護予防が手薄になれば、重度化が進み、結果として介護給付費が増える可能性もある。利用者、事業者、市町村が振り回されるだけなのでは」と話す。

 介護保険政策をウオッチする市民福祉情報オフィス・ハスカップ主宰の小竹雅子さんは「遠距離介護も要支援サービスがあることで成立している。介護が理由の離職者が年十万人いる中、要支援へのサービスが縮小すれば、四十代、五十代の雇用に響く」と指摘。

 「要支援の費用は介護サービス全体の5%ほどだが、対象者は介護認定者総数の四分の一の百五十万人を占める。これだけの人々を切ることで生じる制度不信のダメージは大きい」と話している。(東京新聞)