■横浜市では今年度下半期に個別ケース地域ケア会議を試行実施
7月19日、神奈川県横浜市で、横浜市介護支援専門員連絡協議会が横浜市健康福祉局の職員3名(以下、横浜市)を月例の会議に招き、地域ケア会議についての情報共有と意見交換を行った。会議には横浜市各区の介護支援専門員連絡会等の代表者のほか、横浜市訪問介護連絡協議会、横浜市訪問看護連絡協議会、横浜市地域包括支援センター研究会からも代表者が参加した。

冒頭、横浜市から、2月14日に各都道府県介護保険担当課宛に出された事務連絡、「地域ケア会議」に関するQ&Aの送付について」 が配られ、地域ケア会議についての横浜市の姿勢についての説明があった。

横浜市としては、厚生労働省の考え方に沿いながら、これまで横浜市でやってきたことを踏まえて地域ケア会議に取り組んでいきたいとのこと。地域ケア会議は開催することが目的ではなく、地域包括ケアを進めていくためのツールの一つであり、また、特定の会議を地域ケア会議と呼ぶわけではなく、検討すべき内容に応じて様々なレベルの会議がありうることが改めてアナウンスされた。

そして、今年度上半期で地域ケア会議についての共通理解を深め、下半期に個別ケースについて検討する地域ケア会議を開催できるようにしていきたいとの考えを示した。

■ケアマネからは質問・意見・要望が続々
その後行われた横浜市とケアマネらとのやり取りでは、ケアマネらから次々と質問や意見が発せられ、関心の高さがうかがえた。その主な内容は次のとおり。

●ケアプラン点検の場ではないかという不安がある
特に、居宅介護支援事業所のケアマネにそういう意識が強いとのこと。これにはうなずくケアマネジャーも多かった。この意識が強いため、地域包括支援センター(以下、地域包括)が会議開催を呼びかけてもケアマネが消極的になり、スムーズに開催できないのではないかという意見もあった。

●どういうケースを扱うのか
いろいろなレベルでの会議があり得るということであれば、地域包括、区、市のレベルで扱うのはどのようなケースなのか、それぞれ基準を定めるべきではないか、とのこと。また、誰がケースを出すのかについての質問も出た。地域包括が主催するとなると、予防ケースしか出せないのではないか。もしケアマネから出すのであれば、検討を要するケースがない場合は開催しなくてもよいのか、という質問もあった。

●地域住民に参加してもらうなら、きちんと広報してほしい
地域ケア会議は、検討内容によっては地域住民に参加してもらう場合もある。もしそうなら、ケアマネや介護事業者だけでなく、住民に対してもしっかり広報してほしいとの要望があった。また、地域住民に迷惑が及んでいるケースなど、支援者と住民が同じ意識を持つのが難しいケースもあるという指摘もあった。

●地域包括に地域ケア会議の司会ができるのか
地域ケア会議の概念はわかったが、実際どのように取り組めばいいか、イメージできている地域包括は少ないのではないか。今年度下半期に2回開催するようにということであれば、市としてどのようなやり方でおこなうのかはっきり方針を示してほしいとの要望が示された。また、地域包括に今、多職種連携のネットワークはあるのか、何の基盤もなかったらタイムリーな解決はできないとの指摘もあった。

■方針決定の過程に関わることの意義
これらの質問、意見、要望に対し、横浜市は一つ一つ丁寧に回答していた。しかし、方針はまだ明確ではない。18区に分かれる広い横浜市では、区によっても状況が違い、地域課題も異なる。市としては、今、各区の状況、課題を把握し、それを一つ一つ解決しながら、どういう形で地域ケア会議を行っていけばよいかを検討している段階にあるからだ。現時点で横浜市が示した地域ケア会議の試行に際しての考え方は、以下の通りだ。

●個別ケースを検討する地域ケア会議はケアプラン点検の場ではなく、個別課題の解決と社会基盤の整備を目的として開催する
●検討するケースは、支援者が現在のチームだけでの解決は困難だと感じているケースなど
●個別ケースを検討する地域ケア会議は地域包括が主催で開催する
●会議を何回実施しなければならないという回数のノルマは考えていない

現在進行形で検討を進めていることから、これらも決定事項ではない。また、これはあくまでも横浜市の現時点での考え方であり、他の保険者が横浜市と同じ考え方だとは限らない。

検討過程での意見交換であったため、会議終了後、ケアマネからは「結局、どういう会議なのか、何をやればいいのか漠然としていてよくわからなかった」という声も聞かれた。特に、今年度下半期に個別ケース検討の地域ケア会議を主催しなければならない地域包括の職員には、「ノウハウもわからないのにどう開催すればいいのか」と戸惑う様子が見られた。

それでも、今回、横浜市介護支援専門員連絡協議会が保険者である横浜市に呼びかけて、これから官民協働で取り組むべき課題(=地域ケア会議開催)をめぐって意見交換できたことは非常に意義がある。

介護業界では、国や保険者が決める方針が降りてくるのを待ち、決まったことに不満を漏らしながら従う姿がしばしば見られる。呼びかければ、こうして意見交換のテーブルにつく保険者もあるのに、残念なことである。横浜市の方針が今後どうなっていくかはまだわからない。しかし、今回の意見交換により、地域ケア会議についての情報が共有され、ケアマネ側は要望を直接伝えることができた。少なくとも、地域ケア会議についての検討過程は、全くのブラックボックスではなくなったと言える。知ろうとしなければ状況はわからないし、働きかけなければ何かを変えていくのは難しい。方針決定の過程に積極的に関わっていくほうが、後から不満を訴えるよりはるかに建設的だと言えるだろう。(ケアマネジメントオンライン)