介護スタッフの採用教育支援事業を行うアンビシャス株式会社は、4月7日、あたご研究所代表の後藤佳苗氏を講師に迎え、「介護職のための病気と薬の基礎講座」を開催した。加齢による心身機能の変化とバイタルサインについての講義に続き、後半では、高齢者に多い疾病とケアのポイント、薬剤の基礎知識についての講義が行われた。

■高齢者ならではのケアのポイントが。精神的なサポートも

まず、ごく一般的な病気でも高齢者ならではケアのポイントがあることが説明された。

「膝などの痛みで消炎鎮痛剤を飲んでいることが多い高齢者は、風邪をひいても熱が出にくく、見過ごされてしまいがち。何となく元気がない時は、食事の量や尿の量などを観察し、脈をとるなどをして看護職に報告することが大切です」。

インフルエンザで療養している場合、高齢者はとくに体力や免疫力が低下しやすいのでタンパク質の摂取が必要だが、「何よりも食べて栄養を摂ることが大切。消化のいいおかゆに卵を入れるなど工夫してください」と知識偏重にならないようにとの説明があった。

高齢者に多い疾病では、循環器疾患や骨や関節の病気、認知症などについて幅広く解説された。以下、ケアに関連して印象的だったことを取り上げる。

・介護保険の特定疾患に指定されている慢性閉塞性肺疾患(COPD)は呼吸機能が低下する疾患で、せきやたんなどの症状があり、完治することはない。患者は「呼吸が止まるかも」という不安を常に抱えているため、精神的なサポートが必要になり、ケアスタッフが果たす役割は大きい。

・狭心症など循環器疾患では、階段の昇り降りなど負荷の大きい動作は厳禁。意外に知られていないのが、布団の上げ下ろし。下を向いて上を向くという動作は、それだけで負荷になることを知っておきたい。

・高齢者の感染・発症が多いノロウィルスにはアルコールは効かず、加熱と次亜塩素酸ナトリウムが有効だが、未だにアルコールで消毒している施設もあり、ケアの現場に正しい知識が行き届いていない現実がある。

■ケアの場で出会いやすい服薬行動と対処法を解説

薬剤についてのカリキュラムは、高齢者の服薬の行動など、ケアの現場で出会いやすいケースに焦点を当てた具体的な内容となった。

まず、高齢者支援の現場で実際にあった事例として、「『薬を飲む時痛い』と訴えていた高齢者が、ヒート包装ごと飲んでいたことが発覚した」「吸入薬後のうがいを実施せず、口の中にカビが生えた」「座薬を内服していた」などがあげられ、生活を援助する介護職だから気づいたこととして、受講者の関心をひきつけた。

また、利用者から服薬に関する質問を受けた場合、自分ならどうするかをグループで語り合うワークも行われた。

・「朝薬を飲み忘れたが、昼に2回分まとめて飲んでもいいか」と質問された場合
・「血圧の薬を飲むと歯茎が腫れてごはんが食べられないが、薬を飲み続けている」という発言を聞いた場合
・一包化されていない薬の介助を頼まれた場合

ワークでは、「ひとり暮らしの人に薬の介助を頼まれたら断りにくい」などの声も。その後、服薬についての講義が行われ、自己判断は危険なので主治医に問い合わせること、介護職は一包化していない薬の介助はできないことを前提に、服薬に関する注意点について解説がなされた。

在宅療養や医療連携が推進される中、介護職も医療と関わる機会が増え、判断に迷うケースも想定されるが、後藤氏の説明は、「介護スタッフの役割は、医療知識を持つことで医療連携をスムーズにすること。医療知識は危険を察知するアンテナだと理解して」と明快。「高齢者は、医師や看護師に苦手意識を持ちやすく、生活の支援をしてくれるヘルパーにからだの不安を伝えることも」。日頃の気づきを高め、よりよいケアをするために、病気や薬の知識をもつことの大切さとケアに生かす姿勢を学ぶことができた一日だった。(ケアマネジメントオンライン)