2012年度介護報酬改定では、幾つかのサービスで、提供時間の区切りの時間が見直される。時間が短くなるケースでは、これまでよりも介護報酬が減額されることになり、事業所経営に大きな影響を与える。それだけでなく、サービスの時間が変わることによって職員の働き方、利用者の生活などにも影響を及ぼしかねない。通所介護、訪問看護、訪問介護の3つのサービスで、時間区分見直しによる影響を探る。(外川慎一朗)

 介護保険の居宅サービスの中で最も市場規模が大きい通所介護。このうち、最も利用者が多いのが「6-8時間」のサービスだ。算定割合は実に85%。12年度改定で、厚生労働省はここにメスを入れた。

 通所介護の現行の時間区分は、「3-4時間」「4-6時間」「6-8時間」の刻みで設定されている。これが改定後は、「3-5時間」「5-7時間」「7-9時間」に再編される。例えば、通所規模型(月利用者301-750人)の事業所の6-8時間の現行報酬は、要介護度に応じて677-1125単位。改定後に5-7時間に移行すれば602-1026単位と減る一方、7-9時間では690-1188単位と増額される。

 事業所の収入面では、どのような影響が出るのか。キャリアブレインが一定の条件の下でシミュレーションした(要支援を除く)。現行報酬では、利用者(延べ700人と仮定)の全員が6-8時間のサービスを利用している事業所の1か月間の基本報酬は約582万円(58万2092単位)。もし4月以降、全利用者が5-7時間のサービスに移行すれば約523万円(52万3796単位)と、約10%の減収となる一方、全利用者が7-9時間に移行すれば約602万円(60万2210単位)と、3.5%の増収となる。これまで通りの収入を維持するためには、利用者の4分の3以上が、7-9時間サービスへと移行することが必要。事業所にとってはまさに、できるだけ多くの利用者に、7-9時間への移行を選んでもらうことが生き残りのカギになる。

 それでは、6-8時間のサービスを提供している通所介護事業者は、4月以降にどのような対応を取るのか。東京都内で通所介護事業所を展開するケアサービス(大田区)は、利用者や家族へのアンケート調査の結果を踏まえ、原則として7-9時間サービスに移行してもらう方針を決めた。無論、最終的には利用者や家族、担当ケアマネジャーらと協議した上で個別に決定することになるが、同社事業企画部の菅谷俊彦・グループマネージャーは、「企業である以上、事業の継続と従業員の処遇改善のため、売り上げを確保しなければならない。5-7時間では減収になることを考えると、他社も同じような対応を取るのではないか」とみている。

 ただ、7-9時間への移行は、利用者にとっては帰宅時間が遅くなったり、自己負担額が増えたりすることを意味する。そこでケアサービスでは、家族介護者の支援、機能訓練の充実などの取り組みをこれまで以上に進める方向だ。菅谷氏は、「ただ時間を延長するだけではなく、時間を延長してでも受けたいと思ってもらえるような、付加価値のあるサービスを提供しなければいけない」と話している。

 時間区分の変更により、労務管理上の見直しが必要になるケースも想定される。社会保険労務士の中山伸雄氏(中山社会保険労務士・FP事務所代表)は、「事業者の中には、職員の所定労働時間を延ばす必要があるところや、労働契約書を整備していない場合に、『所定時間外労働の有無』の項目を『有』と明記するなどの見直しが必要なところが出てくるだろう」と指摘する。特に中・小規模の事業者に、事務的な負担がのし掛かってくる可能性があるという。

■個別機能訓練加算も影響
 通所介護事業所が考慮すべきは基本報酬だけではない。理学療法士などのリハビリテーション専門職を手厚く配置した場合に算定できる「個別機能訓練加算」が、12年度改定で再編されることも、事業経営面に大きな影響を与えそうだ。

 現行の個別機能訓練加算は、1日120分以上リハビリ専門職を配置するなどの条件を満たせば算定できる1(27単位/日)と、常勤・専従のリハビリ専門職の配置が求められる2(42単位/日)の2段階。改定後は、現在の1が基本報酬に包括される形で姿を消し、現在の2が新たな1に改称される。その上で、専従のリハビリ専門職を配置し、利用者個別の心身の状況を重視した機能訓練を直接行った場合に算定できる新たな2(50単位/日)が設けられる。

 機能訓練重視の通所介護事業所を運営する「ぽかぽかライフケア」(東京都町田市)の石井和彦社長は、「通所介護事業所にとって、現行の1がなくなる影響は非常に大きい」と指摘する。事実、サービスの利用者が1日30人と仮定すれば、8100円(810単位)の減収。週6日営業、年間50週で計算すると、合計243万円(24万3000単位)の売り上げ減になる。石井氏は、「生活相談員の人員基準が常勤換算方式に変わって緩やかになる分、常勤のリハビリ専門職を採用して新しい1を取得したり、常勤職員の配置が求められない見通しの新しい2を取得したりと、事業所運営を機能訓練重視に切り替えることも必要になってくるのではないか」と話している。

■「利益の源泉はコスト削減」
 機能訓練重視の通所介護事業所「nagomi」を展開するイー・ライフ・グループ(東京都豊島区)も、報酬改定による減収を見込んでいる。同社の通所介護事業所は、3-4時間のサービスを提供。時間区分が3-5時間に見直されることで多少の増収効果はある一方、要支援者の報酬減、個別機能訓練加算1の基本報酬への包括化などにより、事業所全体としては減収になるという。

 しかし、同社の小川義行社長は「想定していたほどの報酬減ではなかった。この程度ならば、特にビジネスモデルを変える必要はない」と言う。
 それは同社が「徹底したコスト削減を実施している」(小川氏)ため。事業所の開設コスト、いすなどの備品、送迎車のリース費用…。ありとあらゆる分野でコストを抑え、職員に対する教育・研修費や賃金に回すことで、離職率の低下、採用コストの低減にもつながっているという。
 「利益の源泉は売り上げではなく、コストを低く抑えること。売り上げは増えない可能性があるが、コスト削減は今すぐ始められる。事業者は、介護報酬が大きく上がるとは考えづらい中でも、利益を生み出せる仕組みをつくらなければならない」(同)

 12年度介護報酬改定は、コスト削減の面で他業界の後塵を拝していた介護業界に、一石を投じるきっかけになるかもしれない。(CBニュース)