社会保障審議会介護給付費分科会(分科会長=大森彌・東大名誉教授)の議論の取りまとめとして了承された「2012年度介護報酬改定に関する審議報告」では、改定に向けた基本的な考え方として、▽地域包括ケアシステムの基盤強化▽医療と介護の役割分担・連携強化▽認知症にふさわしいサービスの提供▽質の高い介護サービスの確保―を提示。その上で、各サービスの報酬や基準の見直し案を示している。

 サービスごとの見直しのポイントは次の通り。

■処遇改善交付金の継続策、「報酬で対応」
 介護職員処遇改善交付金が12年3月末で終了することを受けた処遇改善の継続策については、「介護報酬において対応することが望ましい」と提言。継続策を職員の処遇改善に直結させるために、「必要な対応を講ずることはやむを得ない」としている。また、「(必要な対応は)介護職員処遇改善交付金相当分を介護報酬に円滑に移行するために、例外的かつ経過的な取り扱いとして設けるもの」とした。

■地域区分を7区分に
 地域区分を国家公務員の地域手当に応じた7区分に見直す。それに伴う報酬単価の大幅な変更を緩和するため、14年度まで経過措置などを設定する。

■介護予防支援の委託制限を廃止―居宅介護支援
 居宅介護支援事業所については、特定事業所加算による質の高い事業所への評価を継続。サービス担当者会議やモニタリングを適切に実施するため、運営基準減算に対する評価の見直しを行うほか、医療連携加算や退院・退所加算についても、算定要件と評価を見直す。在宅患者緊急時等カンファレンスにケアマネジャーが参加した場合も報酬上で評価する。なお、介護予防支援については、地域包括支援センターの居宅介護支援事業所への委託制限(1人8件)を廃止する。

■訪問介護の生活援助、45分区分が基本に―訪問介護
 訪問介護の生活援助について、基本となる時間区分を60分から45分に変更。身体介護には、新たに短時間区分を設ける。また、訪問リハビリテーション実施時、サービス提供責任者とリハビリ専門職が同時に利用者宅を訪れ、協働で訪問介護計画を作成することを報酬上で評価する。

■サ責の任用要件を変更―訪問介護
 サービス提供責任者の任用要件のうち、「(訪問介護員)2級課程の研修を修了した者であって、3年以上介護等の業務に従事した者」を段階的に廃止する。これに伴う介護報酬上の減算や人員基準の見直しについては、経過措置を設ける。

■時間区分ごとの報酬・基準を見直し―訪問看護
 短時間で頻繁なニーズに対応できるサービス提供の実現を目指すため、時間区分ごとの報酬や基準を見直す。併せて訪問看護ステーションの理学療法士などによる訪問看護についても、時間区分と評価を見直す。さらに、患者の入院中に訪問看護ステーションの看護師が、医療機関と協働して訪問看護計画を策定した場合や、初回の訪問看護の提供を評価。さらに、特別管理加算と緊急時訪問看護加算は、区分支給限度額の算定対象から外す。

■医師による診察頻度を緩和―訪問リハ
 訪問リハビリの指示を出す医師の診察頻度を緩和。介護老人保健施設(老健)が提供する訪問リハビリの要件を、病院・診療所からのリハビリと同じレベルまで緩和する。リハビリ専門職が訪問介護のサービス提供責任者と利用者宅を同時に訪問し、指導・助言を行うことを報酬上で評価する。このほか、サテライト型訪問リハビリ事業所の設置を可能とする。

■職種や居住場所別の評価を見直し―居宅療養管理指導
 医療保険との整合性を図るため、居宅療養管理指導を行う職種や、利用者の居住場所別の評価について見直しを行う。医師、歯科医師、薬剤師が居宅療養管理指導を行った場合、ケアマネジャーらへの情報提供を必須とする。小規模の薬局については、緊急時など対応が困難な場合のみ、あらかじめ連携している別の薬局の薬剤師によるサービス提供を可能とする見直しを行う。看護職員による指導については、算定要件を緩和する。

■同じ建物内へのサービス提供、評価を適正化-訪問系サービス
 居宅療養管理指導を除く訪問系サービスについては、事業所と同じ建物(集合住宅)に住む一定数以上の利用者にサービスを提供した場合、報酬上の評価を適正化する。小規模多機能型居宅介護についても同様の見直しを実施する。

■「自立」の観点で在り方見直し―介護予防訪問介護
 自立を促すサービスの重点的・効果的な提供という観点で在り方を見直す。サービス提供責任者とリハビリ専門職との協働による訪問介護計画の作成に対する評価や、サービス提供責任者の任用要件、人員配置基準に関する見直しは、訪問介護と同様とする。

■個別の状況を重視した機能訓練を評価―通所介護
 適切な体制の下、利用者個別の心身の状況を重視し、生活機能向上を目的とした機能訓練を実施した場合、報酬上で評価する。小規模型通所介護については、スケールメリットに着目した報酬設定は維持しつつ、評価を適正化する。家族介護者への支援を促進するため、サービス提供の時間区分を見直すとともに、12時間までの延長加算を認め、長時間のサービス提供をより評価する。療養通所介護については、利用定員を見直す。

■医療ニーズの高い利用者受け入れを評価―通所リハ
 リハビリテーションマネジメント加算や個別リハビリテーション実施加算の算定要件や評価を見直す。また、要介護4か5である上、手厚い医療も必要な利用者の受け入れを報酬上で評価する。

■複数プログラムの実施を評価-介護予防通所介護など
 介護予防通所介護や介護予防通所リハビリについては、選択的なサービスのうち、複数のプログラムを組み合わせて実施した場合の評価を創設。また、通所介護、通所リハビリと同様に、基本サービス費を適正化するほか、事業者と同一建物に居住する利用者の報酬については、送迎分を適正化する。特に介護予防通所介護については、アクティビティ実施加算を見直し、新たに生活行為向上プログラムを評価する。

■空床確保を評価―短期入所生活介護
 緊急短期入所ネットワーク加算を廃止する一方、一定割合の空床を確保している事業所の体制や、居宅サービス計画に位置付けられていない緊急の利用者を受け入れた場合を評価する。ただし、常に空床がある事業所は算定しない仕組みにする。

■老健でも重度療養管理を評価―短期入所療養介護
 医療ニーズの高い入所者を受け入れた場合に算定できる重度療養管理について、老健でも病院・診療所と同様に評価する。また、緊急短期入所ネットワーク加算を廃止する代わりに、緊急時の受け入れを評価する。

■空室活用のショートステイ可能に―特定施設入居者生活介護
 空室を活用した短期利用(ショートステイ)を可能にする。また、看取り対応を強化するため、配置看護師による看取り介護を行った場合を評価する。

■個別サービス計画の作成を義務付け―福祉用具貸与
 福祉用具専門相談員が利用者ごとの個別サービス計画を作成することを義務付ける。

■訪問介護員は常時1人以上配置―定期巡回・随時対応型訪問介護看護
 12年4月からスタートする定期巡回・随時対応型訪問介護看護(24時間訪問サービス)の介護報酬については、要介護度別、月単位の定額報酬を設定する。通所系サービスや短期入所系サービスの利用時は、報酬を日割り計算する。
 人員基準については、訪問介護員とオペレーターを常時1人以上、看護職員を常勤換算で2.5人以上配置することを求める。訪問介護や夜間対応型訪問介護、訪問看護の各事業所と一体的に運営される場合は、職員の兼務が可能。オペレーターの任用要件については、夜間対応型訪問介護と同様の有資格者を1人以上配置することとするが、この有資格者が配置されていない時間帯は、訪問介護のサービス提供責任者として3年以上の経験がある人の配置も認める。介護老人福祉施設や老健で従事する夜勤職員が、入所者の処遇に影響のない範囲内で、オペレーターなどと兼務することも可能。
 このほか、集合住宅と同一建物に併設する事業所が、その住宅の利用者にサービスを提供する場合、地域へのサービス展開に努める必要がある。

■看護職員の人員基準は2.5人―複合型サービス
 12年4月からスタートする複合型サービスの介護報酬については、要介護度別、月単位の定額報酬を設定する。人員基準に関しては、▽看護職員は2.5人(うち1人は看護師か保健師)を基準とし、看護職員が24時間対応できる体制を確保している場合を高く評価する▽泊まりサービスの看護職員については、夜勤・宿直の配置の限定をせず、必要に応じて対応できる体制の確保を基準とする▽訪問看護事業所と一体的に運営している場合の兼務を認める▽管理者については、認知症の利用者に対する3年以上の介護経験を持ち研修を修了した人、または、訪問看護の知識・技能をもつ保健師か看護師で、常勤・専従とする―などとした。設備や施設については、小規模多機能型居宅介護と訪問看護に準じた基準にする。このほか、小規模多機能型居宅介護と同様に、15年3月末までは事業開始時支援加算を算定できる。

■サテライト型事業所を創設―小規模多機能型居宅介護
 サテライト型の小規模多機能型居宅介護事業所を創設する。開設できるのは、医療・介護・福祉サービスに3年以上の実績がある法人で、本体事業所が安定してサービスを提供している場合に限定する。12年3月末までとしている事業開始時支援加算については、要件を見直した上で、15年3月末まで継続する。看護職員に対する評価については、複合型サービスの状況を踏まえ、次期改定で必要な対応を取る。

■「フラット型」基本報酬体系見直し―認知症対応型共同生活介護
 要介護度が高くなっても報酬の増加幅が緩やかな「フラット型」の基本報酬体系を見直すとともに、運営ユニット数別に報酬を設定する。また、看取りへの対応強化を目指して、看取り介護加算の評価を見直すほか、夜間の安全確保強化に向けて、夜勤職員の配置基準や夜間ケア加算を見直す。このほか、空床を活用した短期利用共同生活介護(ショートステイ)などの要件として設定されている「開設後3年以上」の規定を緩和する。

■報酬は「ユニット個室、従来個室、多床室」の順―特養
 介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)のユニット型個室の整備を推進するため、介護報酬の水準をユニット型個室、従来型個室、多床室の順になるよう適正化するほか、第3段階(市町村民税世帯非課税、本人の年金収入が80万円超211万円未満)のユニット型個室入所者の負担軽減を検討する。12年4月1日より前に整備された多床室の報酬については当面、同日以降に新設されるものより「配慮」した取り扱いとする。また、施設での看取り対応強化に向けて、終末期の外部医師によるターミナルケアを推進する。

■在宅復帰状況などを指標とした報酬体系に―老健
 老健の介護報酬については、在宅復帰状況やベッド回転率を指標とした体系に見直すほか、在宅復帰支援機能加算の算定要件を見直す。また、入所中に状態が悪化し、医療機関に短期間入院した後、再入所した場合の集中的なリハビリを評価する一方、別の老健に転所した場合の取り扱いを適正化する。
 このほか、▽入所前に入所者の居宅を訪問し、早期退所に向けた施設サービス計画を策定し、診療方針を決定した場合▽地域連携診療計画に基づいて、医療機関から利用者を受け入れた場合▽肺炎や尿路感染症などの軽症の疾病に対して、施設内で対応した場合▽認知症の症状が悪化し、在宅での対応が困難となった場合の受け入れや、在宅復帰を目指したケア―なども評価する。ターミナルケア加算の算定要件や評価の見直しも行う。

■医療ニーズ高い入所者の割合を評価指標に―転換老健
 介護療養型老人保健施設(転換老健)の報酬体系を見直し、▽たんの吸引や経管栄養を実施している利用者の割合▽認知症高齢者の日常生活自立度―に関する要件を満たした施設に高い報酬を設定する。看取りを強化するため、ターミナルケア加算の算定要件や評価の見直しも行う。有床診療所を併設して転換する場合、増床が可能になるようにする。
 介護療養型医療施設については、認知症の症状が悪化し、在宅での対応が困難になった場合の受け入れを評価する。

■経口移行・維持、口腔機能向上の取り組みを評価
 介護保険施設の経口維持加算については、歯科医師と連携する場合の算定要件を見直す。また、経口維持加算と経口移行加算について、言語聴覚士との連携を強化する。
 口腔機能維持管理加算については、歯科衛生士が介護保険施設の入所者に、直接口腔ケアを行った場合を評価する。

■介護職のたん吸引、特養や訪問介護の体制を評価
 12年4月から一定の研修を受けた介護職員らがたん吸引などを実施できるようになることに伴い、重度者が一定以上いる場合に算定できる介護老人福祉施設と訪問介護の加算の要件を見直し、たん吸引などを実施する事業所も加算を算定できるようにする。また、訪問介護事業所と連携し、利用者に関する計画作成の支援などを行う訪問看護事業所に対する評価も行う。

■今後の課題、認知症やサービスの質評価など
 次期介護報酬改定までに検討を進める事項として、▽認知症にふさわしいサービス▽介護サービスの質向上に向けた具体的な評価手法の確立や、利用者の状態を改善させる取り組みを促す報酬上の評価の在り方▽ケアプランやケアマネジメントについての評価・検証の手法、ケアマネジャーの養成・研修課程や資格の在り方▽集合住宅での訪問系サービスの提供の在り方▽サービス付き高齢者向け住宅や24時間訪問サービス、複合型サービスの実施状況▽介護事業所や介護施設での医師・看護師の配置の在り方▽リハビリの提供の在り方や、リハビリの効果に関する評価手法▽効果が高い予防給付サービスの提供の在り方―などを盛り込んでいる。(CBニュース)