10月7日に開催された第81回社会保障審議会介護給付費分科会では、国際医療福祉総合研究所所長の武藤正樹氏から、「介護サービスの質の評価について」報告が行われた。

これによると、平成22年度調査では、介護保健施設(老健、特養)に対する調査を実施し、これまで介護報酬で評価されていない27のストラクチャー・プロセス指標と8のアウトカム指標について、介護報酬で評価することに関する意向をアンケート調査するとともに、12のアウトカム指標について入所者別に調査し、老健では3か月、5ヶ月の間で、特養では5ヶ月の間でどの程度の変化があったのか、把握した。

まず、27のストラクチャー・プロセス評価のうち、評価対象として「有効である」との回答が多かったのは、職員のキャリア開発に向けた支援や、認知症ケアの技術向上、介護技術の習得、施設内事故の防止など。逆に、居室、食堂、トイレ、浴室などの生活スペースの環境整備、地域包括支援センターの運営協議会への参加は、「有効ではない」が約2割を占めた。

8つのアウトカム指標のうち、「有効である」「やや有効である」と回答した割合が多かったのは、「褥瘡の重症度が改善した者の割合」。一方で、転倒が発生した件数、身体拘束を行った件数については、「有効ではない」「あまり有効ではない」の割合が大きかった。


次に、利用者の状況変化の調査で採用したアウトカムは、次の12種類。
 ・要介護度
 ・認知症高齢者の日常生活自立度
 ・障害高齢者の日常生活自立度
 ・内服薬の種類数
 ・医療的ケアの種類数
 ・えん下
 ・食事摂取
 ・排尿
 ・排便
 ・褥瘡
 ・転倒の発生回数
 ・身体抑制の発生回数

 個々のアウトカム指標の維持・改善状況を、個人要因(性別、年齢、調査時の医療介護度など)と施設要因(定員数、定員あたりの医療職数・介護職数など)とで分析したところ、アウトカムに影響を与えていたのは年齢や心身の状況などの個人要因で、施設要因の影響は限定的だった。
施設要因のうち、最も影響が見られたのは、「平均在所日数」。ただし、武藤氏は、「あくまでも傾向ですが…」と慎重な意見を示し、アウトカム指標の変化を、介護報酬上のインセンティブと直接結びつけるには課題も多く、引き続き検討が必要と説明した。

こうした報告を受けて、池田省三委員(地域ケア政策ネットワーク研究主幹)は、「海外の事例(ナーシングホームにおける質の評価制度)は、質の低いところを淘汰するという面がある」と指摘。これに対し武藤氏は、「海外でも報酬にリンクさせるのはまだ実験的な段階。データベースができて、正確なデータが取れるようになったら、その時点で検討すべき」と考えを述べた。
介護サービスの質の評価のあり方に係る検討委員会の委員でもある田中滋委員(慶應義塾大学大学院教授)は、「質の低い、市場から退出すべきものを見つけるのは容易だが、質の高いものを見つける指標は難しい。ただし、難しいということがわかったのも一つの成果。さらに研究を進め、検討していく」と補足説明した。

また、三上裕司委員(日本医師会常任理事)は、「非常にフェアな報告書」と評価した上で、「個人要因がアウトカムに反映するということは、利用者の選別にもつながるので、『(報酬に結びつけるのは)慎重に』というのは確かにありがたい」と述べた。

この日は、このほか、中央社会保険医療協議会と介護給付費分科会の打ち合わせ会に関して、大森彌分科会長(東京大学名誉教授)から説明があり、今月21日に、中医協の森田会長と大森分科会長を中心に少数メンバーで行われること、物事を決定する場ではないが公開で行われることなどが伝えられた。(ケアマネジメントオンライン)