社会保障審議会介護給付費分科会の大森彌分科会長(東大名誉教授)は10月8日、東京都内で講演し、今年の介護事業経営実態調査(介護実調)の結果で収支差率が黒字のサービスが多かったことなどを挙げ、「今回の実調の結果は、プラス改定する必要がないと読める」との見方を示した。保健・医療・福祉サービス研究会が主催した「社会保障改革と報酬同時改定シンポジウム」で述べた。

 大森氏は、賃金や物価の動向について「だいたいマイナス2%」と指摘。今年度末で終了する介護職員処遇改善交付金を介護報酬に組み込んだ場合に必要な金額も約2%分であることから、「改定(はプラスマイナス)ゼロ。これで済むなら御の字」と述べた。さらに、2012年度介護報酬改定の基礎資料となる今年の介護実調の結果について、「ほとんどプラスで、なかなかいい経営状態。唯一ケアマネ(居宅介護支援事業所)はマイナスだが、(1人当たりのケアマネジャーが)扱っている件数が少ないからにすぎず、1人30件になれば黒字になる」と述べた上で、「事業規模や地域によって相当ばらつきがあるので軽々には言えないが、全体を見ると今回の実調結果は、特段にプラス改定する必要はないと読める」との見方を示した。

 さらに、同分科会が特別養護老人ホームの居室定員基準を、現行の4人以下から1人に見直す方針を決めたことに関しては、「今後4人部屋をつくるときに補助金は出さない。個人的な意見を言えば、4人部屋に対する報酬を維持しながら減らす方向に向かうと思う。個室ユニット(の報酬)を上げることは明白だ」と述べた。

 このほか、来年度からスタートする新サービス「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」(24時間訪問サービス)の介護報酬の体系として提案されている月額包括報酬の仕組みに対しては、「(1日)30回と1回で報酬が同じでいいのか」と疑問を呈し、「要介護度に応じて、定期巡回(サービス)の回数を一定以上やれと言わなければいけない」と、事業者による同サービスの提供回数に下限を設けるべきとの考えを示した。

■24時間訪問「ケアマネの役割重要」―立教大・服部教授
 この日は「社会保障改革と2012年診療・介護報酬同時改定への対応策を探る」をテーマとした討論会も行われた。立教大コミュニティ福祉学部の服部万里子教授は、24時間訪問サービスが成功するためには、通所介護やショートステイといった他の介護保険サービスや、介護保険外の地域資源などを活用できるケアマネジャーが重要な役割を果たすと指摘した。
 また、小濱介護経営事務所の小濱道博代表は、来年度から一定の研修を受けた介護職員らがたん吸引などの医行為を実施できるようになることに触れ、「医行為ができる事業所でなければ、ケアプランから外され、他に取って代わられる。すべての事業所が、医行為ができるようになる必要がある」と呼び掛けた。(CBニュース)