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すると
「ひゃっ」
梨煌の身体は、すっぽりと空の腕の中へと収まった。
「お前は俺だけ見てればいいんだよ…っ」
耳元で囁かれ、ゾクゾクした。
昔からこの声に弱い。
それを知っててやってくる空は、私を馬鹿にしてるんだろう…。
捨てたくせに…今さら何?
「いや!離してっ!!」
捨てられたって思うと、拒否りたくなって、思っていた以上に拒否してしまった。
「嫌だね」
空の力は、思っていた以上に強かった。
こんな力、知らない。知らない。空、こんなに力強かった?
強引すぎる空…。
昔は、こんなんじゃなかった…。
空は、変わってしまった…。
抵抗しながらそんなことを考えていると…涙が出ていた。
「うっ…ぐっ、ひっく、ひっく…しょ、らぁ~…」
「っ…!?」
気づくと梨煌が泣いていた。
俺が泣かした!?
怖くなって、梨煌を包んでいた手を、パッと離した。
そして、梨煌の涙を拭き…一言。
「お前は俺だけ見てろ…」
そう言い残して、空は隣の家に入っていった。
「空の考えてること…分かんないよ…」
私はちょっと間、家の前に立ち尽くしていた。
そんな梨煌を、空は自分の部屋から見つめていた。
もう昔みたいに綺麗なままではいられないんだ。
話をしていると、あっという間に家に着いた。
「家ここなの。送ってくれてありがとう」
「いえいえ。また、真咲ちゃん達も誘って遊びに行こうや!」
「うん!ばいばぁい」
来た道を引き返して行く洸祐を見送る。
今日は1日、楽しかった。
捨てられたことなど、もう頭にないくらい。
真咲に合コンに連れて行かれて良かった、と思った。
ふと、隣の家の二階を見る。
電気はついていないから、まだ帰ってきてないのだろう。
空は…。
一方、空は…。
梨煌と洸祐を目撃していた。
ちょうど、二人が梨煌ん家の前にいるのを。
「アイツ…。隣、梨煌の彼氏…?まさかな。アイツは俺だけ見てればいいんだよ…」
拳を強く握った空だった。
そして、梨煌の家の前まで歩き出した。
しかし、隣にいた男は帰って行ってしまい、男を見送る梨煌だけになった。
「梨煌」
「空…」
見つめ合う2人。
「さっきの、誰?」
「空には関係ないでしょ」
梨煌の態度が気にくわない。
「関係ある。教えて」
空の切なそうな表情に、言葉が詰まった梨煌。
「…言わない」
けど、こんな空に騙されたくないから頑として強気の姿勢をとった。
「梨煌…っ」