イ・ビョンホンが出演した「オールイン」の最終回を見て、少し、物足りなさを感じたので、その後のSTORYを創作してみました。
独り勝手気ままな妄想劇場です。
前回までの話はこちら→目次
第41話 チェスの告白
スヨンは、チョンウォンからイナの家の鍵を受け取った。
浮かない表情のスヨンに、チョンウォンは、尋ねた。
「…どうかした…?」
スヨンは、少し間を置いてから、答えた。
「…いえ…。なんとなく嫌な予感がして…具体的には、説明出来ないんです。」
スヨンが、そういうと、チョンウォンは言った。
「…そうか…。そういえば、いつも二人の想いが通じた時に何か問題がおきて、離れ離れになったりした事があったから…。トラウマになっているのかもしれないな。」
「…問題って…?…私達、いつも離れ離れになるって…どういう事ですか…?…」
スヨンは、不安を抑えきれず口走った。
「…それは…一言では説明出来ないな。…ただ、スヨンさんは、イナの運命がいつも悪い方に転がるから、イナの側にいれない。でも、一生愛してる…と僕に言ったよ。」
「…私のせいで、イナさんの運命がいつも悪い方に転がっていったんですか…?」
「…いや、そうじゃないんだ。…信じてくれ。」
チョンウォンは、言えなかった。
…イナの運命が変わる時…
…その側には、スングクがいた…。
…知らなかったとはいえ…
…僕も加害者の一人だ…。
塞ぎ込んだ表情のチョンウォンに、スヨンは言った。
「…私は、イナさんから…運命から逃げません。なにがあっても、変わらずイナさんを愛しています。」
強い意思を持ったスヨンの瞳は、チョンウォンを勇気づけた。
「驚いたな。…スヨンさんは、正直、弱い人なんだと思っていた。だから、僕がいつも守ってあげなければならないと考えていた。…でも、本当は、イナと同じ強い意思を持った人だったんだね。」
「強くなんてありません。…ただ…イナさんが、そんな気持ちにさせてくれるんです…。」
スヨンは、照れたように笑った。
イナは、小さくなっていったチェスの車を追いかけた。
「…おい!どうしたんだ?急にスピードなんか出して!捕まっちまうぞ!?」
チョングは慌てて、助手席のシートベルトに掴まった。
「…チョンエが…チェスと一緒に乗ってたんだ…!」
イナは、タイヤが道路の溝をひろい、ハンドルがぶれるのを抑えつけながら、走っていた。
しかし、車の性能は、限界だった。
白い煙が、モクモクとボンネットから立ち始めた。
さすがにイナも、危険を感じスピードをゆっくりと、緩め路肩に車を停めた。
ボンネットを開け、イナは溜め息をついた。
イナの肩を、チョングは、ポンと軽く叩いた。
「…イナ、チニさんの車だったら、追いつけたかもしれんが、なんせ、軽トラックと外車じゃ車の性能がちがいすぎる。仕方ない。…しかし…、無茶な走りをしなかったら、後、二年は乗れただろうになぁ…。」
慰めとは、思えない言葉をかけた。
「…どうだ?…車は追跡出来ているか?」
テジュンは、署に戻り、オペレータに、声をかけた。
「はい。もちろん。追いかけますか?」
「当たり前だ。俺の車にGPSデータを送信してくれ!」
「わかりました。応援要請はどうしますか?」
オペレータの一言に、テジュンは、慌てふためいた。
「…お…応援?…いや、いい。相手は一人だ…。俺、一人で十分だ…。みんな、それぞれ事件を抱えて、忙しいんだから、声掛けなくていいから!わかったな!?」
テジュンは、そういって念をおすと大急ぎで、車に乗り込み追跡を始めた。
イナ達は、相変わらず立ち往生していた。
「…車も、あんまり通らないし…どうする…?」
チョングは、ヒッチハイクしようと粘ってみたが、車の往来もあまりなく、なかなか思うように、いかなかった。
イナは、電話を切ると、チョングに言った。
「…とりあえず…チニさんには、連絡した。車も取りに来て貰える事になった。…こういう時って、携帯って便利だな。」
イナの言葉に、チョングは、疲れたように言った。
「…何を今更…。ところで、どうやって、帰る?…スヨンさんと約束してたんだろ?歩いたら…、明日になっちまう…。」
そこへ、一台の車が停まった。
「イナ!?こんな所でなにしてるんだ!?」
運転席の窓を開け、テジュンが、声をかけた。
「…助かった…。乗せてくれ!」
イナ達は、急いで後部座席に飛び乗った。
「どうしたんだ?一体…?」
「チョンエとチェスを見掛けて、後を追いかけようとしたら、オーバーヒートしちまった…。」
イナが、そういうと、チョングは、言った。
「デートかもしれないんだから…ムキに追いかけなくても…」
チョングの言葉に、イナとテジュンは、ほぼ同時に言った。
「デートじゃない!」
イナとテジュンは、顔を見合わせた。
「…まぁ…目的は同じか…。じゃ、飛ばすからしっかり掴まってろよ!」
そういうと、テジュンは、サイレンを鳴らし、再び車を走らせた。
「何処にチェスが向かっているのか分かるのか?」
イナは、素朴な疑問をなげかけた。
「…ふっ…警察をなめてもらっちゃ困るな。すべてお見通しさ…。」
テジュンは、そういうと、追跡用のGPSを指差した。
…また、職権乱用か…?
イナは、苦笑いしながら、GPSを見た。
「動きがないようだが?」
イナの問い掛けに、テジュンは、言った。
「その場所で車を停めたんだろう。ちょうど大きな湖がある辺りだ。」
…湖…?
…なぜ、あの場所にチョンエを…?
イナの考えを見透かしたかのように、チョングは言った。
「…だから…!デートなんだよ。デートコースには、ぴったりだろう?」
テジュンとイナは、
「絶対、違う!」
と、強く言った。
一人、寂しいチョングであった…。
「チョンエ。こっちに来て。」
チェスは、チョンエを助手席から降ろすと、湖の側まで手を引っ張った。
「綺麗…。」
チョンエは、思わずそう言った。
「…寒くないか…?」
チェスは、そういうと、自分の着ていた上着を脱いで、チョンエを包み込むように、肩にかけた。
「…冷えるのは良くない。…着ろよ…。」
「…あ…ありがとう…。」
チョンエは、チェスがかけてくれた上着の襟を引っ張った。
テスとは、違う匂いがした。
「…チョンエに、言わなければならない事がある…。」
チェスは、静かにそう言った。
「…なに…?」
チョンエは、チェスをジッと見つめた。
「知っていると思うが、…俺は今…イナと、この先の開発予定地をめぐって勝負している…。」
「…………」
…そんな事しるわけないじゃない…
そんな表情のチョンエであった。
「…今度の入札には、すべてをかけているんだ…。」
…だから…なんなのよ…!?
と、いいたげなチョンエだったが、次の瞬間、人ごとではなくなった。
「…俺の側にいてくれ…。」
ふいに抱き締められ、チョンエは、その場を動く事が出来なかった。
「今まで、猫かぶって、チョンエに接してきたけど、ちゃんと俺という人間をみてもらいたい…。なぜ、急に俺がテスを探し始めたと思う…?」
チェスの質問にチョンエは、答えなかった。
チェスは、話を続けた。
「…俺は…というより、俺の家は、マフィアだ。親父が死んで、俺がそのまま後を継ぐと思っていた。…ところが、見た事もない兄がいる事を知って、俺は、愕然とした。…今まで俺は、承継者として、厳しく育てられてきたのに、いきなり、兄貴がいるから継げない…と聞かされ、俺は、絶望した。今まで俺のして来た事は、一体、なんだったのか…ってね…。」
チェスは、チョンエから、少し体を離し、遠い目で話を続けた。
「それでも、ファミリーを養わなければならなかった俺は、前々から面識のあったマイケル・チャンがやろうとしていた事に興味を持った。必要なスキルを習得するまで、マイケル・チャンに怪しまれる訳には行かなかった。だから、生き別れた兄貴を探していると話した。…マイケル・チャンは、まんまと俺の話に乗った。…あたかも自分は、居所を知っているような口振りで、俺に手伝うように言って来た。…俺は、マイケル・チャンの話に乗ったフリをして、虎視眈々とチャンスを狙っていた。イナに、偶然出会ったのは、俺に取ってラッキーだった。…兄貴が死んだ事も分かったし…チョンエとも、こうして出会えた…。」
チェスは、真剣なまなざしでチョンエを見たが、チョンエは、顔を背けた。
チェスは、チョンエの頬に手を当て、目をあわせた。
「…そんな顔するなよ…。」
チェスは、チョンエに優しく笑い掛けた。
テスと同じ顔のその表情に、チョンエは、いたたまれなくなっていた。
「…ごめんなさい。…あたしは、チェスを見ても、テスにしか見えない。…だから、チェス自身を愛する事が出来ないわ…。」
その言葉に、チェスは、ショックを隠しきれない様子で、呆然とチョンエを見つめていた。
チョンエは、頬に当てられたチェスの手に、そっと触れた。
「…冷たい手…。あなたは、本当は、いい人なのよ…。今の生活から足を洗って、誰かいい人を見つけて、屋台でもやりなよ。…ねっ…?」
チョンエは、そういうと重ねたチェスの手を、そっと下ろし、手を離した。
「そんなこと…無理だ…。」
押し殺したような声で、チェスは、答えた。
「…なぜ…?」
「…なぜか…って?…チョンエは、何も分かってない。動いている歯車を、どうやって止めるんだ?…俺には、守るべきファミリーがいる。それをみんな捨てろというのか!?」
「…そんな事言って…本当は、一人になるのが、怖いんでしょ?」
「…俺が怖がってるって…?…そんな訳ないだろ!?」
チェスは、いきがってそう言うが、チョンエには、精一杯、強がっているようにしか見えなかった。
「…寂しい人ね…。チェスは、本心では、テスに生きてて欲しかったんじゃないの?」
「なぜ俺が?…兄貴なんていなくたって…!…チョンエ…?」
チョンエは、自分から、チェスを抱き締めていた。
「…可哀想なチェス…。…側にいてあげる…。」
驚いた表情の側で、チョンエは、思わず、そう口走っていた—。