イ・ビョンホンが出演した「オールイン」の最終回を見て、少し、物足りなさを感じたので、その後のSTORYを創作してみました。
独り勝手気ままな妄想劇場です。
前回までの話はこちら→目次
第39話 愛しい人
入札の結果が後2日で出る。
オアシスグループと、シーワールドグループが手を組んでの入札なだけに、問題なく選ばれるだろう…。
しかし、問題は、チェスの行動だ…
必ず何かをしかけてくるに違いない。
イナは、チェスが何をするのか考えていた。
マフィアだと表立ってやる訳がないから、恐らくマイケル・チャンの作ったlSlCのような外資系の名前を語り、何か既に活動を始めているに違いない。
「イナ。わかったぞ。」
チョンウォンは、チェスが代表を務める会社を探り当てた。
「そのままlSlCと言う名前を使っている。…それから…代表者の名前は、ジミー・キムになっている。」
チョンウォンがそういうと、イナは、呟くように言った。
「…ぶっつぶしてから辞めれば良かった…。」
イナが、代表を務めていたlSlCは、すこぶる評判が良かった。
だが、イナは、マイケル・チャンの資金の流れを知り、突然、勝負を降りた。
そのまま会社自体は、無傷だったため、マイケル・チャンは、そのままlSlCを使っていたに違いない。
「…しかし、代表がジミー・キムだなんて、嫌な感じだ。イナの顔を知ってる奴には、狐につままれた感じなんじゃないのか…?」
後から来たチョングが事情を知り、イナに言った。
「…だから…あのポーカーのワールドシリーズで、わざわざジミー・キムの名を語り、優勝する必要があったんだ…。」
イナが、そういうと、
「随分と、手が混んだ事するのね。」
と、チニは呟やいた。
「…それで…ISlCの動きは掴んでいるのか…?」
イナが、そういうと、チョンウォンは、
「もちろんだ。」
と、答え地図を広げた。
「開発予定地に近いこの辺りまで土地を買いあさっている。しかも、地上げ同然にやっているという噂だ。」
チョンウォンは、開発予定地の場所を中心に、ぐるりと指で円を描いた。
「…何か建てるつもりなのか…?」
チョングが、地図を見ながら言うと、イナは、何か閃いたように
「…もしかしたら、城を作るのかもしれないな…。」
と、呟いた。
「…城だって…?」
チョングが、聞き返すと、イナは、
「ここに綺麗な湖がある。」
と、地図の湖の場所を指差した。
「さっき、チョンウォンが買い漁っていると言ったのは、この軌道だ…。ちようど、湖があるライン…つまり、ここをぐるりと湖のようにし、回りを塀で囲い、外と中を全く別の世界に見せる為なんじゃないか?」
イナの読みに
「まさか…そんな思い切った事を…?」
と、チョンウォンがそういうと、チニも
「…イナさんって…突拍子もない事を思い付くのね。」
と、驚いた表情をみせた。
「…でも、イナの仮説が正しいとしたら、かなりの大規模事業だな…」
チョングが、そういうと、イナは、言った。
「恐らくそれが狙いなんだろう。…万が一、事業所算定に洩れたとしても、予定地外のこのまわりをぐるりと囲まれたら結果は同じだ。」
「…工事されたら、終わりって事ね…?…」
チニが、そういうと、イナは頷いた。
「…多分、今の外観を変えられたら、今回、考えたプランとは、全く逆になる。…勝ち目がなくなるかもしれない。」
イナの言葉に、
「…なんとか工事の差し止めは出来ないかしら…?…」
と、チニは言った。
「チョンウォン…この湖の管理は、何処がやっているか、わかるか?」
「いや。それはまだ…」
チョンウォンが、そう言いかけた時
「わかるわよ。」
と、ジェニーが答えた。
「…その湖は、市の管理みたい。さっき会って湖の使用許可をもらって来たって、報告に来たんだけれど…。」
「…市の管理か…。それは、よかった。」
イナは、心底そう思っていた。個人所有だとしたら、今頃、どんな目に合わされているかわからない。
もっとも、私有地だったら、イナ達も湖を見る事は出来なかっただろう。
「…ところで、湖の使用許可を取ったというのは…準備が出来たという事かな?」
チョンウォンが、ジェニーに尋ねると
「ええ。もちろん。」
と、頷いた。
「…随分と早く準備が出来たんだな。昨日の今日だろう…?」
イナが、そういうと、ジェニーは、
「…スヨンさんは、この企画に、かなり力をいれています。必要なものは、全て自分で手配をされてました。記憶がないなんて…とても、信じられません…。」
と、スヨンを褒めた。
イナは、なんだか自分が褒められているようで、心の中がくすぐったかった。
「…そうか…。」
そういったイナの脳裏には、スヨンの顔が浮かんでいた。
会いたい…!
無性にそう思っていた。
「イナ。準備の様子を見に行こうか?」
チョンウォンが、イナの気持ちを知ってか知らずか声をかけた。
イナは、
「ああ。行こう。」
と頷き、立ち上がった。
チニ達もチョンウォンの車に乗り込むと、シーワールドホテルにむかった。
「では、当日は、今の段取りで間違いなくお願いします。」
スヨンが、チームのスタッフに、そういうと、
「頑張りましょう」
と、口々にスタッフの間からやる気の声が聞こえた。
スヨンには、その気持ちが嬉しかった。
そこへ、チョンウォン達が現れた。
「…準備の方は順調かい?」
チョンウォンが尋ねると、スヨンは
「…はい。出来れば、その前に…」
言いかけたその時、スヨンの視界にイナの姿が映り込んだ。
スヨンは、イナから視線が外せなかった。
「…スヨンさん?どうかしましたか?」
チョンウォンのその声に、はっと我に返ったスヨンは
「…あ…えっと…」
と、しどろもどろになった。
チョンウォンが、
「…その前に…って…?」
と、聞きただすと、思い出したように、話し出した。
「…その前に…当日、湖でいきなりやるのは、危険なので、同じ大きさの湖を探して、テストをしたいのですが、何処かありますでしょうか?」
「ああ。そうだね。すぐに何処か探しておくよ。」
チョンウォンが、そう答えると、スヨンは
「ありがとうございます。」
と答えた。
そのまま部屋を出て行こうとしたスヨンの手を誰かが掴んだ。
スヨンが驚いてふりかえった視線の先にはイナがいた。
「話がある。」
イナは、そう言った。
しかし、スヨンは、全てを知った今、イナとどんな顔で話せばいいのか分からなかった。
「…今は、忙しいので無理です…。」
「じゃあ、手伝うよ。その後ならいいだろう?言っておくけど、今日は、話を聞いてくれるまで、この手を離すつもりはないけど、それでもいい?」
イナは、スヨンの手を握り締め、強い意志を持ったまなざしでスヨンを見つめていた。
スヨンは、それでも「無理」だと、拒否をしたが、イナは、一歩も引く事はなかった。
スヨンは、小さく溜め息をついた。
「…わかりました。」
観念したようにスヨンが言うと、イナは、
「じゃあ、外で話そう。」
と、スヨンの手を強く引っぱっていた。
スヨンは、いつもとは違うイナの強引さに驚いていた。
又、驚くと同時にイナの頼もしい背中に、ドキドキしていた。
イナは、中庭までスヨンを引っ張ってくると、ようやく足を止めた。
「…ここならいいか…。」
突然、くるりと背中を向けて歩いていたイナが、スヨンの方に体を向き直した。
スヨンは、何をイナが言い出すのか、緊張していた。
イナは、言った。
「チョンウォンから、スヨンに本当の事を話したと聞いたけど、スヨンは、それを聞いて嫌だった?」
思ってもいなかったイナの言葉に、スヨンは、戸惑った。
「…嫌だなんて…思ってません。」
スヨンが、そういうと、
「…じゃあ…嬉しかった?」
イナは、スヨンにストレートに聞いた。
「……。」
スヨンは、すぐに答えなかった。
頭の中が、真っ白でうまい言葉が見つからなかった。
言いたい事は沢山あるのに、口に出す勇気も出なかった。
すると、イナは、ゆっくりと静かな声で言った。
「…俺は…スヨンが俺の事をどう思おうが…俺の気持ちは変わらないって、伝えたかったんだ。引き止めてごめんな。」
イナは、そういうと、くるりとスヨンに背中を向けた。
スヨンは、遠ざかろうとするイナの背中に抱き付いた。
「…行かないで…!!」
スヨンは、絞り出すような声でイナに言った。
「…ごめんなさい。イナさん。行かないで…。」
スヨンが、そういうと、イナは、スヨンの方に体の向きを変え、そっとスヨンを抱き締めた。
「…どこにも、行かないよ…。スヨンの側にずっといるから…。」
イナは、スヨンにそう言った。
スヨンは、その腕の中で、安らぎを感じていた。
しかし、その一方では、イナに対して深い罪悪感を感じていた。
「…イナさん…、友達だって言って、ごめんなさい…。」
「…もう、いいよ。」
イナは、優しくスヨンに語りかけた。
「…傷つけてごめんなさい…。」
そういったスヨンの瞳には、涙が溢れだしていた。
「…もう、いいから。気にするな。」
イナは、スヨンを抱き締める手に、いつの間にか力を込めていた。
「…私、嘘ついていた。自分が傷つきたくなかったの…。」
「…もういいから。謝るな…。」
「…でも…」
スヨンが、ふっと顔を上げ、イナを見上げた時だった。
イナは、スヨンを更にきつく抱き締め、スヨンの言葉をキスで塞いだ。
スヨンは、再び頭の中が真っ白になった。
それは、まさに頭の芯まで痺れるような衝撃的な出来事だった。
…これは夢…!?
スヨンには、何がなんだか分からなかったが、でも、イナが、今、ここにいる事実がスヨンの全てだった。
…愛してます…
スヨンは、頭の中で何度も魔法のように、その言葉を繰り返していた。
「やれやれ…なんとかなるもんだな…。」
チョンウォンは、二人の行動を二階の窓辺から、そっと見守っていた。
「…のぞき…?嫌な趣味ね…。」
チニが、そういうと
「…僕のせいだから、心配だったんだよ…!」
と、チョンウォンは、言った。
「分かってるわよ。そんな事。」
チニは、ふふっと笑うと、チョンウォンに抱き付いた。
「みんな、幸せになるといいね。」
「…ああ。そうだね。」
チョンウォンは、そういうとチニを抱き締めた。
イナは、思っていた。
この先もずっと、スヨンと一緒にいたいと—。