これは、フィクションです。
「オールイン」の最終回を見て、少し、物足りなさを感じたので、
独り妄想劇場です。

前回までの話はこちら→第1話



第16話 覚醒






チョングは、ナースセンターに声を掛けた。

「すいません。電話は何処にありますか?」
看護婦は、指を差して
「そこです。」
と、無機質に答えた。
「あ!後ろにあったのか!?これは気付かなかったなぁ。」
チョングは、笑いなら礼を言って立ち去ろうとした。
しかし、思い出したように、又、話しかけた。

「あの…お見舞いは、何時まででしょう?」
「本日の面会は終了しました。毎日、午前10時から午後3時までが面会時間となります。ついでを言えば、今は夜の11時です。とっくに消灯時間は過ぎています。どなたの付き添いか知りませんが、お静かにお願いします。」
と、看護婦に注意された。

「…すみません…。」
チョングが、そういうと看護婦は、満足そうに仕事に戻っていった。


チョングは、公衆電話から、チニに電話をした。

「チョングです。詳しい事は、又、後で話します。取り敢えず417号室に入院してます。見舞いは、午前10時から午後3時までです。今日は、イナと一緒に病室に泊まりますから、ジェニー達に心配しないように、伝えて下さい。」
「…分かったわ。イナさんの様子は、どう?」
「…見てるのが辛い程、痛々しいです。だから、ほおっておけない。」
「…そう…。分かったわ。皆には、伝えておきます。チョングさんも、早く休んでね。」
「はい。それじゃ。」
チョングは、そういうと電話を切った。

電話を切ると、ナースセンターの前で、先ほどの看護婦が仁王立ちで、こっちを見ていた。

チョングは、会釈し、いそいそと、417号室に向かった。




「しかし、夜の病院は、怖いなぁ。」
チョングは、辺りをキョロキョロと見渡し、やっと病室を見つけた。

病室のドアをそっと開けると、イナは、スヨンの手を包むように握り、スヨンを愛しそうに見つめていた。


イナは、人の気配に、振り返った。

「…チョング…」
気恥ずかしそうに、イナは、スヨンの手を、パッと離した。

「あ!気にするな。俺は壁だと思ってくれ。」
チョングも、又、照れくさそうに言った。

しばらく気まずい空気が流れた…。


やがて、チョングが口を開いた。
「今の光景の逆を見たな。そういえば…。」
「逆?」
「ほら、ジミーキムが急に倒れて病院に担ぎ込まれた時、スヨンも、そうやってお前の手を握っていたんだ。もっとも、お前は、眠ってたから、知らないだろうけど…話したよな?」
「…ああ。…あの時…。」



イナは、倒れた時の苦しみを思い出していた。

でも、今の方がもっと苦しい…。



「…できる事なら…変わってやりたい。撃たれたのが俺だったら良かったのに…。」
と、イナがつぶやいた。

すると、チョングが言った。
「よしてくれ!お前達の立場が変わった所で、俺達が心配するのは、何も変わらないよ。」
「…あ、そうか…。すまん。」
イナは、笑った。

「チョング、少し眠った方がいい。そこに、簡易ベットがあるから。」
イナは、優しく言った。
「…イナは、どうするんだ?」
チョングが、そう言うと
「俺は…、スヨンが眼を醒ますまで、側にいるよ。」
イナは、優しい瞳でスヨンを見つめた。

「…お前だって、疲れてるだろう?少しぐらい眠った方がいいぞ?」
「…眠れないんだ…」
イナのその言葉に、チョングは、
「…分かった。俺は寝るが、俺を襲うなよ!?」
と、真顔で言った。


「…馬鹿言ってないで、さっさと寝ろ!」
イナは、呆れたように、そう言ったが、チョングの優しさが嬉しかった。

チョングは、簡易ベットに横になったが、なかなか寝付けないでいた。


しかし、何度も寝返りをうつうちに、睡魔が襲ってきたのは、そう遠くはなかった。




チョングは、光を感じて眼を醒ました。

「おお、朝か!」
チョングがそう言うと、イナは、カーテンを閉じた。

「すまない。起こしてしまった…。もうすぐ9時だ。下に食堂があるらしい。食べて来いよ。」
「お前は、何か食べたのか?」
「…いや。腹が減らないんだ。」
「それでも、何か食べた方がいい。何か売店で買ってくるよ。なっ?」
チョングは、そういうと、イナの返事も聞かず、病室を出た。




チョングは、売店の場所を聞こうと、昨日のナースセンターに行った。
「すいません…。」
チョングが声を掛けると一人の看護婦が振り返った。

「はい。なんですか?」
と、応えたのは、昨日の看護婦だった。

「また、貴方ですか!?今度は、なんですか?」
ピリピリした様子の看護婦に、ちょっとチョングは、尻込みした。

「あの…売店の場所は何処でしょう?」
「地下の食堂の前にあります。他には?」
「いえ。結構です。ありがとうございました。」
チョングは、礼を言い、立ち去った。

立ち去り際、つい
「ちきしょう。なんて態度だ。こっちは、(見舞い)客だぞ。」
と、ぼやいてしまった。

「今、何か言いました!?」
看護婦の耳の良さに、ビビりながら、
「なんでもないです。」
と、チョングは、走り去った。

背後から、
「こら!廊下は走るな!」
と、看護婦の注意する声が聞こえたが、チョングは、振り返らなかった。




チョングは地下の売店でパンと牛乳を買い、急いで、病室に戻った。

チョングは、そっと病室に入った。


眼を醒まさないスヨンをイナは、見つめていた。


このまま、もしも眼を醒まさなかったら、俺は、どうしたらいい?



イナは、ピクリとも動かないスヨンを見つめていた。



そんな様子を黙って見ていたチョングだったが、今戻ったばかりのように、振る舞った。
「買ってきたぞ。」
チョングは、イナにパンと牛乳を渡して、言った。
「お前の好みがわからないから、適当に買って来た。食えよ。」
「食べたくないんだ。」
「ダメだ。今、お前が倒れたら、誰がスヨンを守るんだ。いいから食え。」
イナは、そう言われ少しずつ食べ始めた。


やがて、イナがポツリと言った。
「…今日だったんだ。」
「何が?」
「本当だったら、今日、結婚式をやる予定だったんだ。」
「そういえば、その為に来たんだもんな。俺達…。」
「…結局、無駄足にさせて済まなかった。」
「いや、お前に会えただけでも俺は、嬉しいぞ?」
「…ありがとう。」


その時、誰かがノックをした。
「あ、俺が出る。ジェニーかな?」
チョングが嬉しそうにドアを開けた。


「遅くなってすまなかった。」
見舞客は、テジュンとチョンウォンだった。

「取り調べに時間が掛かった。スヨンの具合はどうだ?」
テジュンが病室に入ってくるなり、イナに言った。
「…傷口が塞がれば、退院出来るそうだ。」
「それは良かった!スヨンを刺した犯人だが、やはり、スソン組の残党だった。チョンウォンの事を良く思っていない奴が他にもいるらしい。気をつけた方がいい。」
「…そんな事は、今はどうでもいい。」

イナが、そういうと、チョンウォンが口を開いた。

「…すまない。こんな事になってしまって…。スヨンさんまで、巻き込みたくなかったのに。」
「…いや、気にするな。チョンウォンのせいじゃない。近くにいたのに、守れなかった俺の責任だ。」
イナは、チョンウォンに言った。

「でも、良かったな。傷口が塞がれば、すぐ退院出来るんだろ?」

テジュンが、そういうと、チョングが言った。

「…後遺症がなければね…。」
「後遺症!?どういう事だ?」
「頭をぶつけて内出血したのが原因らしい。」
「…そんな事って…。」

テジュンがよろめいた。チョンウォンは、言葉を発する事も出来なかった。



イナは、黙ってスヨンを見つめていた。



その時、スヨンの指先がピクリと動いた気がした。

とっさに、イナはスヨンの手を掴み、
「スヨン!」
と、呼び掛けた。


すると、スヨンは、ゆっくりと眼を開けた。


「スヨン!良かった。気がついたか?」
イナは、嬉しそうにスヨンに語った。

スヨンは体をゆっくりと起こそうとしたが、イナは、スヨンの肩にそっと手を置き、優しく言った。

「まだ、起きちゃダメだ。傷口が開くといけないから。今、医者に知らせるから。」

スヨンは、イナをじっと見つめていたが…





やがて、口を開いた。



















「…あなたは、誰……?」



イナの表情は、凍り付いた。









まあ、こういう展開になると、多分、多くの方が想像した事でしょう。
・・・ま、定番ってことで・・・。