ミラー! (690)転属 | 超自己満足的自己表現

ミラー! (690)転属

 転属の準備で忙しい日々。荷物の整理やら、引き継ぎの準備やらで毎日午前様が続いている。転属まであと1週間。本当に家には眠りに帰っているって感じで、朝定時には出勤している。中隊長付の准尉に次来る中隊長のための資料を手渡し、ま、準備完了。当分、民間派遣も午後のみだけど、そのまま続行みたいだ。あと地元医師会の依頼で、人出が足りない子供のための夜間、休日病院の診察も月に1,2度入るみたいだ。ま、こういうところは医者らしいことが残っていてうれしい。良しとしよう。



「中隊長。今度の金曜日、中隊長を見送る会を開くことになりました。」



と、部下の陸曹が声をかけてきた。ま、転属前にはよくある風景。特に僕の場合、ここへ来てまだ1年しかたっていないのに…ずっと一緒にいるように仲がいい。



「じゃあ、楽しみにしておくよ。」



といって僕は場所などがかかれた案内状を受け取り、机へしまった。僕の最終日は、木曜日。金曜日は民間病院が入っているからね。民間病院が終わった後、着替えて会場である西門前の焼き肉屋さんへ向かうことになる。



 最終日、課業が終わりに近づいたころ、僕のデスク周りが騒がしくなった。もちろん部下たちが、花束やら何やらを抱えて僕を取り囲む。



「なんか大袈裟だね。まるで退官するみたいじゃないか?」

「遠藤3佐は、向こうへ行かれたら医官とは全く違うお仕事をされるわけですから…。」

「ま、そうだけど…でも民間派遣はあるよ。」



と笑って見せた。部下の代表から様々な物を受け取る。そして僕は、部下たちへ、最後に一言告げる。部下たちは今までないくらいに真剣な表情でこの僕の話を聞いていた。今まで若い僕に良くしたがってくれた。そして思う通りに動いてくれ、結果を出せた。評価もとてもよかった。最後に僕はみんなへありがとうと告げて、職場を後にした。



 たくさんの荷物を自転車の前かごへ積み、家路へ急ぐ。急いだって誰が待っているわけではないけれどね。でも早く帰って家へ電話をしたかった。だっていつも午前様で、休みの日くらいしか電話ができないからね。とにかく、家へ戻りたかった。子供の声、妻の声を聞きたかった。帰り道なぜか涙があふれた。それはなにを示しているのか僕にもわからない。医官としての仕事ができないからなのか?どうなんだろう。ほんと僕はわからない…。