ミラー! (663)ややこしい身内
ホテルのバンケットルームにて、お偉いさんの話やら、防衛協会のお偉いさんの話を聞く。そして僕からも少し話をして、解散式のようなものを行った。もちろん政府からの評価も高く、お偉いさんからお褒めの言葉をいただいた。
そしてやっとのことで家族と直に会う。なんかここまで嵐の前の静けさのように何もなかったけれど、ここからが問題だ。僕の身内ばかりのところへ行く。子供たちはいなかったけれど、美里、養母、お祖母ちゃん、春斗、そして大叔父さんである元統幕長。
「春希君、本当に一番若いのによく頑張ったね。」
と、ねぎらいの言葉をかけてくれた。各方面隊衛生派遣部隊の中で一番若いこの僕。指揮官として何とか手探りだけれども、やってこれたのは部下たちが頑張っていたから。そして、お母さんが僕を抱きしめる。本当に昔から養子の僕を実の子供のように可愛がってくれたお母さん。よかったよかったって涙ぐんだ。
そして機嫌が悪そうなお祖母ちゃんの登場だ。なぜ春斗がついてきたのか、大叔父さんが来てくれたのか…。それはこのお祖母ちゃんを何とかできるかもしれないからだ。
「お祖母ちゃん…?」
と声をかけてみる。すると僕を睨みつけてこう言い放つ。
「春希!前回の海外派遣のあといったわよね?弐條の人間が、遠藤の跡継ぎが、そんな危ないところへ行く必要はない!って。いくら人のためとはいえ、日本にいてもできることがあるでしょ?あなたは医者になるために生まれてきたんじゃないのよ?他に大切な人のためにできることがあるはず!早く自衛隊などやめて、春斗のように政治家の修行をなさい!」
もちろんこの一角だけこういう会話をしているから、皆の注目の的。
「ひかりさん、いつまでもこの状態なら、春希を弐條へ返していただきます!春希を養子に行かせたのは、政治の為です!春希には弐條の血だけではありません。政治家家系の高橋家の血も入っているのですよ!高橋に政治家がいない今、春希は大切な高橋の血を受け継ぐ人材です。それは高橋家のご令嬢であったひかりさんがいちばんご存じでしょ?」
「伯母様!」
「いい?ひかりさん。あなたの旦那さんに孝博の血が入ってなければ、決して春希を養子に出さなかったわ。大切な孫の春希をとても危険なところへ行かせるなんて!信じられません!」
もちろん僕は黙っているわけにはいかなかった。お祖母ちゃんに対して何か言おうとした時、春斗がお祖母ちゃんとお母さんの前に出た。
「ちょっとばあちゃん、いい加減にしろよ。孝博爺ちゃん言ってたやろ。春希は春希の好きなことさせたらええって。ずっと爺ちゃん、春希が医官になるって言ったときから応援してたやん。俺は春希が遠藤へ行ったのは政治の道具やって思ってへん。父さん言ってた。春希の体の為やって。体が弱かった春希の為やって。なんでばあちゃんはそんなことばっか言ってんねん。政治政治って。ちゃんと俺が弐條の人間として政界へ行くって言ってるやん。春希だっていつか政界へ行くって言ってるやん。今春希は、頑張ってるんやから応援してやれよ。こうして無事に帰ってきたんやから、喜んでやるのが筋やろ。ほんまばあちゃんは空気読まれへんな。」
ま、その場は、大叔父さんの出る幕はなく、春斗の言葉でおさまっていたけれど、お祖母ちゃんのことだからこれでは済まないだろうなあ…って思うわけだ。