ミラー! (660)引き継ぎ
第2陣の主要隊員がやってきて、引き継ぎを済ませる。そして帰国準備。その前に、いろいろお世話になった方々へあいさつ回り。もちろんフランス軍医にもあいさつへ行った。ここはフランス領なので、なかなか帰国できないであろうと苦笑されていたけれど、第2陣の衛生隊のメンバーについても色々お願いしておいた。第1陣メンバーと違って、フランス語が堪能な物がいない部隊だし…。できる限り英語でよろしくと伝えておいたのだ。その後、連絡先を交換し別れた。
帰るといってもまだまだ復興できない状態のこの場所。本当であればもっといたいけれど、決められた期間があるために、途中だけれど帰国しないといけない。僕だけ残るってことも許されない。他の部下たちにもいろいろ帰国したい事情がある。本当に最近早く帰りたいと愚痴をこぼす隊員が増えてきたのも確かだ。まだまだライフラインが復旧していないし、日々緊張の中での生活だったからしょうがないだろう。
もちろん僕も帰りたいと思ったこともあった。日本においてきた家族のことが心配。特に美里は不安定な時期だし、気になる。何かあったら連絡は入るけれど、と言って帰国できないからね。
そういう思いと同じ隊員もいる。中には期間中に子供が生まれたとの一報が入った者もいた。大好きだったおばあちゃんが亡くなったというものもいた。隊員それぞれの事情があって帰国したい。僕だって愚痴をこぼしたい時もあったけれど、先頭に立っているこの僕ができるわけないよね。ずっと我慢していた。だからかなあ…白髪が増えたような気がするし、ちゃんと食べているけれど、痩せてきたような気がする。でももうその思いからも解放される。
最後の夜、第2陣の隊員たちとともに宴会とは言えないけれど、ちょっとした会食が催された。第2陣のメンバーが差し入れてくれたお酒も入り、みな楽しそうに話していた。
「隊長見てくださいよ!俺の息子です!」
と、第2陣の隊員に託された生まれたばかりの子供の写真を見せる若い隊員。本当にうれしそうだった。
「もうすぐ会えるよね。楽しみだね。」
「マジ楽しみです。休暇貰って相方の実家へ会いに行ってきます。」
とにこにこしていた。ほんと帰国目前で嬉しそうな隊員たち。僕ももちろんうれしい。帰国したらまず子供たちを抱きしめよう。そして美里も抱きしめよう。宴会後の余韻に浸りながら、僕は自分の寝床で眠りに入った。