《Iori Side》
 
 
 
12月5日、夜。
今日は朝からやけに忙しかったが、普段よりも賑やかな一日だったと、手元に広がっている誕生日プレゼントたちを見つめながらしみじみと思う。
 
 
 
この歳になってみると「自分がひとつ歳を重ねる」ということに、別段特別な感情を抱く機会も無くなってくるのだが、やはり見知った仲間たちに「誕生日おめでとう」と言ってもらえるというのは、何といっても嬉しいものだ。
 
 
しかも少し前から、何が欲しいかとみんなに問われるたびに、「気持ちだけで十分」と伝えていたにも関わらず、今日の務めの後には、マフラーや香合など、丁度新調しなければと思っていたものばかりをプレゼントされ、とても驚いた。
きっと私のことを考えてこのプレゼントを選んでくれたのだろうと思うと、嬉しい気持ちがこみ上げるとともに、大切に扱わなければという気持ちにさせられる。
 
 
 
そういえば、つい先ほど実桜様から頂いたプレゼントの中身は何なのだろう?
務めの後に共に家へと帰る道すがら、「とっておきのプレゼントを用意した」と楽しそうに話していた彼女の様子を思い返しながら、文机の上でピンク色の箱を開ける。
 
 
中に入っていた厚みのある紙の束をゆっくり取り出すと、その一枚一枚に手書きの文字で「肩たたき券」と書かれているのが見えた。
ざっと数えて30枚以上はあるだろう券の量には驚かされたが、きっとこれは「たくさん使って欲しい」という彼女の気持ちの表れ。ここ数日の実桜様の様子から見て、恐らく、私に何をプレゼントしようかと悩みに悩んだ末に辿り着いた答えが、この可愛らしく飾りつけされた「肩たたき券」なのだろうと思うと、自然と笑みが零れてしまう。
 
 
 
北野家の当主である実桜様の手を、側人である私の肩をたたくためだけに煩わせてしまうというのは、何だか少し申し訳ないような気もするが、せっかく用意してくれたプレゼントだ。ありがたく受け取っておくことにしよう。
肩たたき券を汚したり、失くしたりしてしまわないように大切に箱にしまうと、私は実桜様にお礼を伝えに行くべく立ち上がり、自室を後にした。