▼想定外の事態▼
(前回の続き)
あまりに曲数が多いために、
体が異変を起こし始めたのです!
午前のリハーサルが終わると、
2つのバンドのメンバーは、
本番まで当然「おつかれ~」ですが、
私は2つのバンドで演奏する80曲の確認や、
様々な作業のため、食事も取らず、
ひとりステージ上にいて、
午後からの本番の準備を続けました。
午前のリハで80曲、
この時点でもう、かなりの曲数でしたが、
これから始まる午後からの本番は、
緊張感の中、
さらにもう80曲を弾かなければならないのです。
私もさすがに、これはきついな~と思いつつ、
でもスタミナにはある程度の自身があったので、
なんとかなるか、と思っていました。
▼体に異変が・・・!▼
さて、午後から最初のステージが始まりました。
1曲目、2曲目、3曲目・・・出だしはなかなか順調でした。
しかし、10曲目を過ぎたあたりから、
指に異変が起き始めたのです。
指に力が入らない・・・。
思ったように動かない・・・。
私にとっては驚きの体験でしたが、
とっさに
疲れを減らすテクニックや、
指の力を極力使わないでで演奏するテクニック
を駆使して、なんとかきり抜けていったのでした。
▼まだ続く、アクシデント▼
まだまだ、アクシデントはこれで終わりませんでした。
ある曲が終わって次の曲に移ろうとした時、
次に演奏するはずの曲の楽譜が見あたらない、、、。
あまりに多い曲数のため、
きちんと曲順通りに並べたはずの楽譜が
どこかに紛れてしまっていたのです!!
「ごめん、ちょっとまって!」
などと言える間もなく、
情け容赦なく次の曲が始まりました。
体力的にかなりボロボロの中、さらに
譜面がないという、
これ以上ない追い打ちが待っていたのでした。
しかし、私はこの状況の中、パニックに陥ることなく、
今進行中の音楽に集中しました。
「必ずやれる!」と信じて、聴くことに集中したのです。
イントロのピアノを1コーラス聴き、
それを瞬間耳コピし、2コーラス目から弾き始めました。
そして周りの音を聴きながら、
反射的にアジャストさせ続けていったのです。
結果、その曲は弾き切ることができました。
▼これは悪夢か・・?▼
でも、これでも、まだ終わりじゃなかったんです。
長時間強い照明にさらされ続ける中、
極度の集中で譜面を読み続けたために、
今度は視力が低下し、譜面がよく読めなくなってきたのです。
もはや、譜面=目も頼れなくなりました。
私はここでも、「音をよく聴く」ことに集中しました。
そうすることで、
地獄のステージの前半をなんとか終了することができたのです。
▼あれ?何この感覚!!▼
しかし、さらに後半のステージ=40曲が待っています。
もう、体力的なことでいえば、
とっくに限界は超えてしまっていたでしょう。
私は最後のステージの前に、
自分に言い聞かせました。
「必ず、やれる」
この時私のメンタルが弱ければ、
きっと次のラウンドのゴングがなってもコーナーから
立ち上がれないボクサーのように、
うなだれたまま終わっていたことでしょう。
しかし、私はプロとして、当然やり抜くと思っていたので、
もちろん自分を完全に信じてステージに上がったのです。
・
・
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するとどうでしょう。
前のステージであれだけ苦しかったのが、
嘘のようにクリアになり、
逆にパワーが溢れ出してきたのです!
まるでエヴァンゲリオンの覚醒モードに入ったように、
気がつけば疲れはどこかに吹っ飛び、
とにかくひたすら楽しいのです。
焦りや不安も全くありません。
すべてが余裕ある中で、
自分の出したい音が出せました。
譜面も軽~く眺めるだけ、
耳と指だけの感覚で、
心地よく楽しく演奏ができたのです。
音楽と一体となったような感覚でした。
いいフレーズがどんどん指から溢れ出してきました。
感じたこと、歌ったことが
ベースからそのままダイレクトに音となっていく感覚です。
楽しい時間のまま、ステージは終了しました。
楽しい時間が終わってしまった感覚にとらわれました。
もしかしたら、
これを「ゾーン」とか、「フロー」とか呼ぶのかもしれません。
これは、前のステージまでに極限状況を経験し、
それを自分を信じて全力で立ち向かったからこそ、
与えられたギフトだったのだと思います。
少々アツい話でしたが、
肉体の限界を超えたその向こうにある世界の話でした。