私は牛丼はあまり好まない。牛丼チェーンなるものを一度も利用したことがない。かといって夕食で出されても食べないわけではない。丼物ならカツ丼、天丼のほうが好きだ。


牛丼

写真は某サービスエリアの牛丼


武田泰淳の『快楽(けらく)』という小説に牛飯(ぎゅうめし)のことがでていた。舞台は東大正門の界隈のいわゆる学生街でである。


「工事人夫はがっしりした胸の前に、牛飯の丼をかかえこんで、むさぼるように白米の塊をのみこんでいた。ときどき柳の方へ視線を向けた。そのギュウメシは、どこかの料理屋の冷えた残飯をもらいうけ、飯屋のおやじがふかしなおした上におかみさんが牛肉の煮汁をぶっかけたものだった。学生時代の柳は、金がなくなると、いつもそのとびきり安いギュウメシを食べることにしていた。肉のミはほとんど見かけないが、肉の匂いのする煮汁だけでも充分にうまかったのだ」


私はこの作品はあまり好きではないが、この描写は鮮明に記憶している。