あらすじ
魔法少女の疑惑が見え隠れする大迫女史。
そんな彼女に大掃除を口実に家まで招待されたなかよし。
果たして彼女は本当に魔女なのか、そしておセックスは出来るのか。
今回も読書の股間を掴んで離さない内容に目が離せません。
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それは大掃除を前日に控えた職場の昼休み。
いつものようにコーヒー片手にタバコの煙をくゆらせながらアンニュイな気持ちに浸っている時の事だった。
ぼんやりと曇り空を眺めながら明日の事を考えていると、少し離れて座っている同僚の噂話が風に乗って僕の耳に流れ込んでくる。
僕は普段女性が当人抜きで噂話をしている話は極力耳を塞ぐように努めています。
全部が全部でないにしろ、当人がいない場所で話す噂話ほど耳触りがいいものではないからだ。
そんな影響で噂の当事者である本人に変な先入観を持って仕事に支障をきたしたくはないし、知らなくていい情報であればそれが一番であると思ってるんです。
しかも断片的に会話を探るに、今回の槍玉に挙げられたのはどうやら大迫さんのようなんです。
明日会うってのに余計な噂は耳に入れたくないと感じた僕は、吸っていたタバコを揉み消すと静かに腰を上げその場を立ち去ろうとする。
「てか、大迫さんってぶっちゃけ処女らしいよw」
浮いていた腰がピタリと止まる。
「あー、分かるーwなんか男慣れしてない感じしまくりだよねw」
不自然に着席すると、全神経を耳に集中させる。
「なんかー、彼氏と全然続かないんだって、なんでだろー」
ちょっと奥さん聞きました?
大迫さんが…しょ、処女?
22歳という花も恥らい月も顔を隠す乙女が処女、怒涛の勢いで処女。
処女(しょじょ)とは、男性と性交経験がない女性のこと。
また、その女性の状態。バージン、ヴァージン(virginから)とも呼ぶ。(wikipediaより)
まぁあんまりこういう事は言いたくないのですが、それなりに顔も整っている大迫さん。
彼女がまっとうに学生生活に励んでいたのであれば、その手付かずの自然に押し寄せようとした猛者は沢山居たはず。
破瓜を散らすは意中の彼氏?それとも先輩?
はたまた若気の至りであろうか、例え行為自体が行きずりであったとしても処女を失うチャンスはそれなりに多かったと思う。
そんな彼女が…処女?
こいつぁ…とんでもない情報をゲットしちまった。
気分はまるで国家が隠蔽する軍事機密を盗み見たスパイの心境。
果たして僕は優しく出来るだろうか、彼女をクジラのようにイカせられるのだろうか。
まだ見ぬ不安に押し潰されそうになりながらその日を眠れない夜を明かすのであった。
決戦は…明日…ッ!
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そして当日。
西から射す優しい木漏れ日、部屋の輪郭を浮き彫りにする冷気を含んだ空気。
そんな朝の一場面は普段の僕にとってルーチンワークを繰り返す為の出発点であり、陰鬱な気分にさせるだけの光景でしかなかった。
でも今日から生まれ変わる僕にはそれらの全てが新鮮に、そして優しく感じられる。
『おはよう汚れてもいい格好で来てね』
チカチカとライトブルーの点滅を放つ携帯を手に取ると、そこには一通のメールが届いていた。
出会い系以外では二週間ぶりに届くメール、股間をソワソワさせる淫靡な言葉と、いかがしいURLが羅列されるばかりのメールが軒を並べるメールボックスにハートマークが添付されたソレは一際異彩を放っていた。
「こいつぅ、せっかちさんだなぁ」
鼻頭をポリポリ掻くと、早速メールを保護にして余所行き用の衣装に身を包む。
普段はしまむらを好んで着る僕が今日だけは菊池武夫。勿論汚れてもいい格好じゃないのは百も承知だ。
だって今日は彼女の家に初めてお邪魔する日、そして彼女が処女を捨てる日。
言うなれば開国記念日みたいなトコあるよね。
なんてたってHow to sex本(はじめてのエッチ編)に「初めてのエッチはムード作りが大切!服装にも気をつけて!」って書いてたから大丈夫、存分に大人のムード出まくり。何ならコロンだって振りまいちゃう。
まぁそんなこんなで足元に転がったゴミ袋を蹴っ飛ばしながら急いで準備し、彼女の家まで車を走らせる。
サンサンと降り注ぐ太陽、町にはカップルの洪水、みんな手を繋いでとても幸せそうな笑顔でいっぱいだ。
普段の僕ならきっと投石の一つでもくれていだろう、クラクションだって鳴らしていたに違いない。
でも恋をすると人は優しくなれる。
ギリシャ神話に登場するユニコーンが心の清い処女にしか心を開かないように、彼女は数多の男の中から僕を選んだわけ。そう、僕という白馬の王子を。
僕自身は決して馬並みではない、いやむしろサイズ的には鉛筆だけど行為の際には精一杯優しくするかんね!心は開かなくてもいいから股だけは…ッ!なんて事を考えていたらアパートに到着。
もはや掃除とか魔女とかどうでもよくなってきた。
んでまぁそれにしても飲み会以外で彼女の私服を見るのは初めてだなぁと思いつつ、震える手でチャイムを押すわけ、いよいよ彼女との対面、否応無しに足が震えます。
ピンポーン
すると少ししてから
「待ってたよー、結構時間かかったねー」
彼女が僕を笑顔で迎える。
誰?
って思った。
本気で部屋を間違えたかと思った。
だって彼女ゴスロリ着てた。
税金を納めてる社会人女性が見舞うごと無きゴスロリ、しかも眉毛をどっかに落っことしてた。
「ささ、まぁ入って入って!」
恋人の事故を突然知らされた人みたいに愕然とする僕を捲し立てるように家にあげる彼女。
「え…あの…ちょっと待って…大迫さん…ですか…?」
「…?ん?なに言ってるの?」
え、いやいや。
っていうかお前が何言ってるのなんですけど。
さも当然のように振舞われてもこっちが困るんですけど。
会社の人じゃなかったら「お、お前誰だーッ!」って絶叫してる。
まず最初にどうしてそんな格好してるのか小一時間問い詰めたいんですけど、これがね、無理なの。
これが出オチならいくらでもツッコミます、それが優しさっていうものだから。
でも彼女から明らかに触れてはいけない空気出てる、物凄く痛い子のオーラ出てる。
…よし、見なかった事にしよう。
当初の予定と全く違うものの、心の中でそう決意し、非常にシュールな空気を纏ったまま部屋に入るんですけど入口早々玄関がマジですげぇ事になってるのな。
マリオで例えるなら1-1からクッパみたいな感じ、火ぃ吹き過ぎみたいな難易度。
だって女の子って大抵、「ごめんね、部屋ちらかっちゃってて…」ってはにかみながら言ったりして、実際に部屋にあがるとメチャクチャ綺麗で否が応にも好感度アップってのがあるじゃないですか。
それがね、全然無い、この人ゴスロリのくせして萌えという事を全く理解してない。
比喩抜きでゴミ屋敷、ゴミが地層みたいになってて大迫さんの時代背景が伺える。
あぁこの人は一時期どん兵衛にハマッてたんだな、みたいな。
いやね、まずどんだけ凄いってアンタ。
玄関にお洒落のアクセントとして置かれたであろうサボテンが枯れてるんですよ。
砂漠という劣悪な環境でも必死に咲き誇るサボテンが日本の隅っこで黒い消し炭みたいになってるの。
最初見た時はマジで何か分からなくてモロッとチンコが生えてるのかと思った。
「えへへ、ビックリしたでしょ」
はにかみながらバツが悪そうな顔をする彼女。
おいおーい、突っ込むトコそこじゃないぞー、もうちょっと前だぞー
口から溢れそうになる言葉を寸での所で飲み込みます。
「…じゃあもうチャッチャッとやっちゃおうか」
とにかく一刻も早くここを出ねばならない。
さっきまで愛がどうこう、ユニコーンがどうのこうのとかのたまってた自分を殺したい。
やっぱり世の中は危険でいっぱい、うまい話に裏はツキモノなんて過去の偉人はよく言ったもんです。
「それもそうだね、あ、でも掃除するから汚れてもいい格好で来てって言ったのに…それじゃ掃除しにくいし汚れちゃうよ^^」
そう言いながら不思議そうな顔をする彼女。
いやね、なんていうか
お 前 が 言 う な
って思った。
え?これはアレか?
ワザと?ワザとだよね?ちょっと殴ってもいいかな?
「はは…そうだね…ごめんごめん…」
もう既に乾いた笑いしか出ないのですが、とにかく掃除さえ終われば家に帰れるのです。
この非日常から日常へ戻る為にはまず掃除、ナニは無くともまず掃除。
思わずうまい事言えましたけどそれ以上は求む事無かれ。
「じゃあなかよし君は居間をお願い、私は寝室を掃除するから^^」
そう言い残すと彼女は寝室へと消えていきました。
「よし…始めるか…」
気を引き締め、改めて居間を一望すると部屋の汚い事汚い事。
これがただ汚いだけならまだ許せるのだけど、やっぱり彼女もまだまだ乙女なのか部屋が微妙にファンシーなんですよね。
あれ、これってサンリオっていうんですか?
会社のデスクにもありましたけどキティーちゃんとかが部屋中に所狭しと置かれてて凄く部屋がピンクなのな。
しかも要所要所にロザリオとか散りばめられてるから一瞬も気が抜けない感じになってる。
ただ惜しむらくは部屋が汚すぎてどう見てもキティーちゃんがゴミ溜めに遭難してるようにしか見えない。
んでなんだかんだ言いながら一生懸命掃除しましたよ。
わっせわっせとゴミを分別するとゴスロリ関連の雑誌やアイテムが出るわ出るわ、その量たるや尋常じゃない。
どうしてここまでハマるのか僕にはまるで理解できず、一冊のゴスロリ雑誌を手にとってページをペラペラとめくると気になる見出しが僕の目を捉えました。
女の子はいつだって心のどこかで変身願望を持っている。
現実の自分とは違う自分になりたい。
これは女の子に限らず、人間なら誰しも持っていると思います。
勿論僕だってそう、ネットの中でそこそこ有名になって皆さんに応援されているというパワーは本当に有難い事です。これも言うなればネットの中の「なかよし」がいるからこそ、現実で一生懸命になれるという証明に他ならないのです。
そしてそんな思いは大迫さんにもあっただろう。
多忙を極める仕事に追われ、いつしか仕事の出来るキャリアウーマンとして周りに誤解されたまま毅然に務める事を余儀なくされる生活、本当の自分を放出出来ないストレスは相当なものだったのかもしれない。
そんな溜まりに溜まったストレスはいつしか臨界点を超え、そして溢れ出した。
彼女にとっての変身願望を最も分かり易い形で体現出来るものはきっとゴスロリなのだ。
その捌け口がブログであるか、ゴスロリであるかなんて大した差ではない。
きっと察するにこの趣味は今に始まった事ではないのだろう。
彼氏と続かない要素の一因、それは恐らく一般の人にはまだまだ受容が難しいゴスロリの部分にあるのだと思う。
大好きな人に趣味を理解されず、自分の許から去っていく苦しみ。想像するだけで胸が締め付けられる。
ストレスを無くす為に始めた趣味が更なるストレスを呼び込んでしまう。
そんなジレンマに彼女は苦しめられていたのかもしれません。
今にして思えば職場にロザリオを持ち込んだりしてしまったのも、自分を落ち着かせる為の安定剤として一役買っていたとも考えられます。
ゴミに埋もれた居間で雑誌を手に取りながら自分自身の愚かしさを深く反省する。
「…人間なら少しくらい変わった一面は持ってるもんな」
ドッスンバッタンと騒音がする寝室を眺めながら、ただ一言「ごめん」と彼女に謝る。
もう大迫さんを魔女だなんて呼んだりしない、処女だなんて思ったりしないよという心からの気持ちを込めて。
「よし、残りを終わらせちゃおう」
そう言って掃除を再開する僕、決意を改めた所為もあるのか心成しかやる気がメキメキと沸いてくる。
「…ん?あれ?なんかあるな…」
掃除を初めてしばらく経っただろうか。
部屋自体もかなり綺麗になり、最後に手付かずだったソファーの清掃にかかっていた時の事。
黒地のソファーには似つかわしくない何かがソファーのずっと奥に挟まっている。
少し気になったので何とか手を伸ばしてキャッチ。
そしたら
なんか出てきた。
なんだこれは。
手にとってマジマジと眺めるもさっぱりわからない。
何ともファンシーな物を見つけてしまったと困惑するのですけど、
手元に「ON/OFF」と書いてあったので試しにONにしてみる事にする。
ヴヴヴヴヴヴヴッ!
すると突然ピンク色のステッキは激しく震え出すではないか。
登頂付近に勇ましく鎮座するキティーちゃんが思わず二人に見えます。
それにしてもまさかこれって…
いや…
そんな…
魔法のステッキ…?
魔法の少女=ファンシー
ファンシー=ステッキ
ステッキ=魔法の少女
お分かりいただけたでしょうか。
やっぱり大迫さんは魔法の少女だった。
彼女達は決して空想の世界の生き物ではないという何よりの証明だと思います。
僕の部署には魔法少女がいる、まぁ処女(しょうじょ)じゃないけどな。
(これが言いたかった)