一面記事の価値とは | 中原徹のブログ

一面記事の価値とは

本日の大阪版の朝刊で、産経新聞と毎日新聞が大阪府の教育について一面で記事にしました。記事の内容は全く異なる内容です。

産経新聞の記事
http://sankei.jp.msn.com/west/west_affairs/news/130919/waf13091907030003-n1.htm

毎日新聞の記事
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130919-00000009-mai-soci

産経新聞では、大阪府教委が英語の4技能を重視して政策を進めていることが書かれていました。具体的な施策の内容は然るべき手続きを経てからお知らせして参りますが、大阪府教委では、今後も英語の4技能のレベルを高めようと努めて参ります。

2020年には東京オリンピックが開催されます。日本の代表の皆さんの英語やフランス語でのスピーチが人々の心を打ったことは記憶に新しいところですが、これから益々英語を始めとする外国語でのコミュニケーションが重視される時代ですので、この記事が一面で取り上げられるのは大変ありがたいことだと思っています。

一方の毎日新聞の方は、「またか・・・」という気持ちです。しかも、この記事を一面に持ってくる編集の意図がよく理解できません。

大阪では、公務員が卒業式・入学式で起立し斉唱する条例が成立し、これを教育委員会の職務命令で執行してきました。これまでも、公務員の斉唱を目視で確認するような指示が府教委から学校長に出されていましたが、ことさらに歌っているかを凝視するのは気持ちの悪いことですし、大多数の府民の皆さんからすれば、「ことさらに歌っているかを凝視して欲しいのでは全くない。誠意をもって卒業式・入学式に臨む姿勢・態度が公務員から見られればよい」ということなのだと思います。

それゆえ、9月に入学式がある府立高校に対して、斉唱の確認は「公務員として誠意ある態度か否か」という観点で行うことを9月4日に伝えました。同日、すべての府立学校長が集まる場がありましたので、その席でもその趣旨を説明させていただきました。

府民の皆さんからすれば、少し起立するのが遅れたとか、起立の姿勢が悪いとか、どの程度の大きな声で歌っているだとか、どれだけ口を動かしているかという点に関心があるわけではなく、厳粛な卒業式等で真摯な態度・姿勢を公務員が見せているかという点を重視されるのだと思います。

例えば、感極まって歌えていない場面があったからといって、それを見た生徒や保護者の方々が「誠意がない」とは決して思わないと考えます。ことさらに歌っているかを凝視するのではなく、全体を見渡したときに、明らかに「誠意がない」姿勢や態度を示す公務員がいるかどうかを確認するのが趣旨であると、全学校長に対し、上記の例などを示しながら説明しました。

これが9月4日の出来事です。その後、約2週間経過した17日(一昨日)、共同通信の記者さんから別件の取材を受けた時に、上記の起立斉唱の話になりました。それをその記者さんが18日(昨日)に配信しました。この配信を受けた毎日新聞の記者さんが、私に何の取材もなしに、記事を書き、一面で取り上げました。どうして取材をしなかったのですかと本日尋ねると、昨日私が出張でいなかったから、ということですが、9月4日にすべての学校長に伝えていますので、いくらでも取材の時間はあったはずです。また、昨日取材の依頼もありませんでした。

以前校長時代にブログでも書きました(http://ameblo.jp/nakahara-toru/entry-11248551587.html
)ように、国旗国歌については、感情的になる方も少なくないので、学校長にも十分趣旨を理解いただき、合理的な対応をしていただきと思い、時間を取って全学校長に説明させていただきました。

9月4日以降、現場から、「教育長の説明がおかしい、よく分からない」という声は聞いておらず、現場の学校長の理解は得られていると認識しています。実際に、起立斉唱をしない公務員は、卒業式ごとに10名程度ですから、全体からすると、ごくごくわずかです。

条例が好きか嫌いか、個人の考えは別として、公務員としての任務を果たされている先生がほとんどすべての中で、私としては、この件は重要論点ではなく、他に、児童生徒の安心・安全を図る環境作り、学力の向上・進路保障、支援学校の整備、英語教育の発展など、府民の皆さんが期待なさる事項に力を注いで行きたいと考えております。国旗・国歌などイデオロギーに関わる度合いが強い項目についても、以前のブログで書きましたように、バランスよく生徒に情報を与え、自分で”思考”していただく教育(正解がひとつでない問題に触れる機会を増やす教育)を目指しています。

今回の斉唱の取扱いは、非公開の会議で、教育委員で話し合って決めた結果です。行政機関である教育委員会が、適式に成立した条例を執行するのは当然ですし、この職務命令は最高裁でも合憲とされています。

おそらく、毎日新聞社は、そもそもこの条例が嫌いなのだと思いますし、最高裁の判決にも異論があるのでしょう・・・しかし、条例が嫌いなのであれば条例を作った議会に文句を言うべきであるし、判決に異論があるならばそれを批判されたらよいと思います。しかし、9月4日以降何の取材もせずに、共同通信の配信をベースに一面記事を掲載するという仕事の仕方には大いに改善の余地があると思います。

ネットの普及により新聞の売れ行きが落ちてきていると言われる中、新聞を読むメリットとして、「記事の位置(編集)をみて新聞社がそれぞれのニュースにどの程度の重要度を見出しているかが分かる」という点があげられると聞きますが、今回の2社の一面記事を見て、各新聞社の考え方・仕事の仕方を学びました。