9月23日(日) 毎年恒例のオープンハウス ロンドンに行って来た。今年から3年生のセミナーも受け持つことになって、その準備をするのが嫌だから、逃避でブログばかり書いてしまう。先週日本からの帰国後すぐからオフィスの仕事と大学の仕事の両方に追われ、土曜日は腰痛と疲労で動けなかった。今日になってやっと少し動けるようになったので、ホルボーンにあるガーデンコート・チャンバーズ(イニゴ・ジョーンズ設計及びジョン・ソーン改修) とキングスクロスに新しくできたアガ・カーン・センター(槇アソシエイツ設計)を訪問。永年の経験からオープンハウスで疲労困憊せずに見られるのは2件までと分かったので無理はしなかった。

 

 初めのカーデンコート・チャンバーズはジョン・ソーンの元自宅だったミュージアムが面するリンカーンズ・イン・フィールズの東面にあり、徒歩3分の距離。ソーンが工事監理するには自宅から近くてとても便利だったはず。この日の見学ツアーは現在このチャンバーズに所属する法定弁護士さんがガイドを担当してくれた。彼の話によると、二つのビル(写真1)の設計は当初イニゴ・ジョーンズによるものだったが、途中から彼の部下だった石工ニコラス・ストーンに任された。外観は石造に見えるが実質は煉瓦造にしっくいで石風に化粧したもの(写真2)。160年後、当時の居住者だった首相のスペンサー・パーシバルの依頼でジョン・ソーンが二つのビルを繋ぐ改修をした。当時ソーンは自邸の設計で階高の違うビルを階段室で繋ぐという設計を実践済み。この階段をElectric Stairs と呼んだのは当時電気による吹抜照明は珍しかったから。今見てもこの階段(写真3)は綺麗だと思う。仕上げで隠してあるけれど、階段はブロック壁からの片持梁で支えられ、根本で曲がった手摺は幅広いロングスカートを着ていた使用人に配慮したもので、根本が床に深く刺してあるため、頑丈だとのこと。ガイドの弁護士さんは絵の説明で当時の裁判の様子を一人芝居で再現し、英国での法定弁護士の仕事が役者に近いことを証明してくれた(例えば、ブレア元首相夫人は法定弁護士だが、彼女の父親は有名な俳優だった)。帽子のように鬘も付けてくれたし(写真4)。弁護士のローブは学者のそれに似ているが、背中にポケットがあって、弁護料はそのポケットにこっそり入れる習わしだったとか。

 

写真1:階高が違う2つのビルの絵       写真2:石造風外観

 

写真3:階段室(electric stairs)                   写真4:ガイドの法廷弁護士さん   

 

 一方、アガ・カーン・センターでは建築家 槇文彦のトークが14時から予定されていたので、必見だと思ったのに、道を間違えて13時半の締切に遅れ、トークには入れてもらえずショボーン。仕方なしに見学ツアーの行列に加わったら、結局2時間も待たされた。この建物の特徴は外見からは伺い知れぬアクロバティックな構造と多国籍な材料によるイスラム風庭園の数々。構造的には中央に位置する吹抜廻りに柱を配し四角く囲った梁から突出した片持梁で全床を支えているので建物の外壁周りに柱が無い。これによってイスラム風庭園が柱で囲われないようにできている。さすがに施主の財力の影響で全体的に贅沢な材料が使われているし、図書館に至ってはたった100人に満たない学生が使うだけとか。新築の大学寮も近くにあって、羨ましい限り。2018年10月からは月曜〜木曜 午後3時以降に一般公開するそうなので、興味のある人はセンターのサイトを参照のこと。https://www.agakhancentre.org.uk/

 

 
センターのエントランス     建築家の外観スケッチ(『Aga Khan Centre』p.55より)
 
イスラム庭園
    
バルコニー                       イスラム庭園      中央部の吹抜