ようやく大学の講義が一段落ついたので、昨年11月に訪れた、パリのフォンダシオン ルイ・ヴィトン(ルイ・ヴィトン財団美術館)の記事をアップロードする。

 建築の仕事をしていて良かったと思わせてくれる建物がパリには多い。ポンピドゥー・センター(特にエスカレーター)、アラブ世界研究所、ル・コルビュジェ財団などなど。2014年10月に開館したルイ・ヴィトン財団美術館もその一つ。英国人の友人からパリに行くなら絶対に見ておくべき建物だと聞いていたし、Wallpaper誌で外観写真は見ていたのだが、実物は想像以上に巨大で豪華客船のようだった。入口には吹き抜け、迷路のような展示空間、内と外ははっきり区切られているものの、被膜であるガラスの翼がランダムに配置されているので、屋上では雨が吹き込んでくるところもある。しかし、3Dプリンターなしには把握できないような造形はこれまで経験したことのない空間を生み出し、予想外に気持ちが良い。晴れて太陽が照っていたら、もっとすばらしかっただろうと思う。

 とはいえ元々フランク・ゲーリーのデザインはそれほど好みではなかった。Los Angelesにある初期の作品、Chiat—Day広告代理店オフィス横には巨大な双眼鏡(クレス・オルデンバーグ作)。日本での作品といえば神戸のフィッシュダンスホール横で跳ねている巨大な魚(注1)など、どちらかというと、意味が分からない、ゲテモノ的作品を創る建築家の印象が強かった。しかし、ドイツのヴィトラ・デザイン・ミュージアムあたりから、殊に3Dプリンターが利用可能になってからか、気になる建築家の一人になっていった。スペインのグッゲンハイム美術館はビルバオの街の在り方を一変させるほどパワフルなデザインだし、ロンドンのサーペンタインギャラリーは一年間だけのテンポラリー・ビルだったが、ヒノキらしき木の香が漂う気持ち良い建物で、階段状の内部空間で子供たちが叫びながら走り回って遊んでいたのが印象に残っている。子供が喜ぶ空間は名建築の指標のひとつだと思う。そして、ルイ・ヴィトン財団美術館は「文化の都パリに登場した有名ブランドの建物」として、言わば建築家としての「二打席連続ホームラン」だった。かつて、「カラトラヴァ設計の橋がうちにも欲しい」と、世界各地の地方自治体からランドマークとして建設依頼が多いと聞いたことがあるが、今やザハ・ハディドと並んでゲーリーの作品もそうした立場にあるのだろう。

 さて、美術館は深い森の中にあって、地下鉄で行くと迷って所謂赤線地帯に入ってしまうそうなので、分かりやすい行き方を説明する。凱旋門傍のメトロ駅Charles de Gaulle Etolleで2番の出口を出るとFriedland通りで、2つ目のバス停(写真)がルイ・ヴィトン財団美術館直行のシャトルバス専用。小ぶりのバスは15分間隔、乗車時に1ユーロを支払う。ただしメトロ一日券は不可。バスの内部に設置してあるテレビでは常時美術館の全景を映したビデオを流し続けている。「凱旋門近辺でテロ予告があったので、帰りのバスはありません」と着いた途端に入館チェック係の警備員に注意されたが、実際帰りの際はシャトルバスが動いており、受付係は「そんな予告は聞いてない」としらばっくれていた(如何にもフランス人らしい対応)。

 ちなみにWallpaper誌によれば、20年後に美術館はルイ・ヴィトン財団から公共に移管されるそうだ。

注1)Linder, Mark, (2004) "Dumby Building: Frank Gehry's Architectural Identity" in Nothing Less Than Literal: Architecture after Minimalism, Cambridge Mass. MIT Press 参照

width="220"
シャトルバス停留所
width="220"
美術館入口
width="220"
シャトルバス到着
width="220"
地下空間も面白い
width="220"
エントランス吹抜