先週末はロンドン・オープンハウスで到る所で建築物が公開されたので、イースト・ロンドンのWalthamstowにあるウィリアム・モリス・ギャラリーに行った。大学の授業でウィリアム・モリス(1834-96) の家だった「Red House」には行ったことがあるが、このギャラリーは初めて。Red Houseはモリスがジェーンと結婚した後に住んだ家だが、モリス・ギャラリーはモリスが子供時代から大学を出るころまでの時代を過ごした、いわば母の家。たまたま今年は9月から大学二年生の「都市」の講義を受け持つことになり、「都市のイングラストラクチャー」に関する授業もあるため、オープンハウスの物件の検索でも「インフラ」で検索を掛けたところ、偶然このギャラリーがリストに上がってきたのだ。もともとは都市の水道を供給するWater Houseだったとか。2008年頃までギャラリーは財政難に見舞われ、開館時間も制限されるなど、存続も風前の灯だったらしい。しかし、Walthamstow地区の存続運動や、日本で言えば宝くじにあたるナショナル・ロッタリー・ファンドのテコ入れ効果で、2011—12年、ティールームなどを加える大改装が成功。翌年アート・ファンドの美術館賞を受賞した(Youtubeのビデオ参照)。

 美術館の各部屋は多才なアーティストだったモリスの活動を反映している。ギャラリー1はこの家に住んだ頃(1848-56)つまり子供時代から大学卒業までのモリスを紹介。ギャラリー2は大学を出て、ラファエル前派やジョン・ラスキンに影響を受けた時代について。面白い展示としては、初仕事として、卒業したばかりのオックスフォード大学からインテリア壁画作成を依頼されたが、若くて経験不足だったために、下地処理をせず、煉瓦の壁に直接描き上げた後、絵具がボロボロ剥がれてしまい、大失敗だったという。今も大繁華街のオックスフォード・ストリートに開店したインテリアショップ(モリス商会)の見本はギャラリー3に、商品を生産するワークショップについてはギャラリー4に展示。モリスの作品はギャラリー5兼用のショップで今でも販売されている。ギャラリー6ではケルムスコットプレスで出版業界に進出した頃の説明と、美的感覚に優れた装丁の本の数々を展示する。ギャラリー7は晩年社会主義者として活躍したモリスの運動について。ギャラリー8はモリスに影響を受けたデザイナーたちの作品。最後の部屋は美術館設立に貢献したフランク・ウィリアム・ブラングィン(Sir Frank William Brangwyn)の作品を展示。戦時中のポスターが中心だが、彼の油絵では『白鳥』が有名である。そもそもこの美術館は元々モリスの弟子だったブラングィンがコレクションの多くを寄贈したのがきっかけで展示を始めたとか。ブラングィンは松方コレクションのアドバイザーとして日本とも関わりが深い。

 総じてこじんまりとした美術館だが、何しろ裏庭が広大でいろいろな花が咲き乱れ、池や橋などもあって、ロンドンの喧騒から逃れるにはうってつけの場所である。建築的には丸型のファサードがインテリアでは生かされていないのが、気になった。予算が足りなかったのかもしれないが、子供用のワークショップとして隔離してしまっているのは惜しい。

開館は水曜~日曜 午前10時~午後5時。入場無料。www.wmgallery.org.uk


William Morris Gallery, Walthamstow

裏庭全景 裏庭全景

ウィリアム・モリス・ギャラリーの門 ギャラリーの門

有名人が住んでいたことを示すブルー・プラーク 有名人が住んでいたことを示すブルー・プラーク

玄関 玄関