武蔵野不思議話 | 不思議旅行案内 長吉秀夫

武蔵野不思議話

夕方、知人宅へ伺うために国分寺へ行った。少し早くついてしまったので周辺を散歩してみた。



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近くを流れる野川

小さな川だが、これでも一級河川の武蔵野では有名な川である。上流から流れてきた桜の花びらが美しい。


もう8年以上前だったが、気に入った坂があったので、久し振りにいってみた。


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写真ではわかりづらいが、結構急坂である。左右を竹藪に覆われた、異次元のような雰囲気の薄暗い坂道だったが、今は残念ながらマンションが建っていた。風景はあっという間に変わっていく。

しかし、坂の途中にあるお稲荷さんはまだ鎮座していた。


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社の後ろには、まだ、竹林の名残りがある


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 以前、この坂で不思議な出来事に出会った。

 先輩と先輩の奥さんと3人で、この坂を上っていた時のことだ。時間は22時位だっただろうか。

 ここの地形は、ちょっとした谷合になっており、谷底に野川が流れている。

 僕らは野川に架かる橋を渡り、こちら側の頂上を目指してこの坂を上っていた。

 すると、僕らの背後から「ウーー」というサイレンの音が聞こえてきた。その音はどんどん大きくなり、複数のサイレン音が重なり合っていった。

 竹藪に阻まれて背後にある野川の対岸は全く見えない。

 僕ら3人は大きな火事かなにかが起きたのかとおもい、見晴らしのいい頂上へ一目散に走って行った。

 その間もサイレン音はどんどん大きくなっていく。

 しかも、その音量は度を越して谷の周囲をぐるぐる回るように鳴り響いている。尋常な音ではない。

 やっと、谷全体を見渡せる頂上へたどりついて僕らは、思い切って振りかえった。

 いや、最後の数メーターは、こらえきれずに頂上の手前から後ろ向きに小走りに走っていたかもしれない。

 今まで聞いたこともない大きさのサイレンが、こんな住宅街の谷合に、こんな時間に響き渡っていること自体が非日常的である。冗談ではなく、ゴジラでも出てきそうな雰囲気のサイレンだった。

しかし、僕ら三人は谷全体を眺めながら唖然とした。

 なぜなら、そこには、いつもと同じ、静かな住宅地しか見えなかったからだ。しかも、どの家も、いつもと変わらぬ団欒の明かりが灯されていて、誰一人として家の外へは出てこない。

 相変わらず鳴り響くサイレン音は、あっけにとられている僕らのまわりを大きく数周すると、徐々に音色を変えながら音量を落としていく。そして最後には、男性とも女性とも或いはケモノとも判断がつかない、大きなため息のような「うぅぅぅぅ~」といううめき声のような音に変わると、空に向かって複数の方向に消えていった。

 3人は顔を見合せて首をかしげたが何が何だかわからない。翌日、周囲の消防関係や警察、防衛施設を調べてみたがそのような事実はなく、前述の知人たちもそんな音は聞かなかったという。

 まるでキツネにつままれたような出来事だった…


 しかし、今日この坂をのぼり、稲荷社をお参りした瞬間、その音の主がだれなのか解ったような気がした。