LSDが示す世界 | 不思議旅行案内 長吉秀夫

LSDが示す世界

アップリンクからリリースされたDVD「PROBLEM CHILD AND WORLD DRUG」を観た。

バックパッカーをしていた若い友人の仲間たちが作ったDVDなのだが、彼に頼んで1枚購入した。

LSDの発見者である化学者のアルバート・ホフマン博士の100歳の誕生日を祝い、2006年に開かれた国際LSDシンポジウムの模様を収めたものだ。ホフマン博士をはじめとする科学者や医師、アーティストやコンピュータープログラマーたちが語る講演やインタビューなどを収録している内容なのだが、登場するすべての人が理知的でありながら的確にサイケデリックの本質と、太古から21世紀そして未来へ繋がる精神世界の歴史を語っている。一見飾り気が無く、たんたんと展開されてゆく映像の中で、シンプルかつセンスよく表現してゆく制作スタッフの心意気にも気持ちを高揚された。

LSDやシロシビンなどを通して垣間見たサイケデリックな風景は、その後のビジョンや生き方に大きな影響を与える。それは、世界中の宗教や祭りの中で繰り返し行われてきた。もちろん日本も例外ではない。

錬金術を母体として19世紀に生まれた科学主義は、20世紀に入ると神と決別し、新大陸の中で巨大な力となって世界を席巻してゆく。精神世界を探究してゆくために生まれた科学はその根底に流れる呪術の力をアルバート・ホフマン博士の体に宿し、偶然にもLSDを発見する。1960年代の多くのアメリカやイギリスの若者たちはLSDによるサイケデリックな体験を通して、様々なムーヴメントを展開してゆく。現在、表面的に伝えられているサイケデリックムーヴメントと呼ばれるこの運動は、ロックカルチャーをコアとした音楽やファッションだけではなく、反戦、平和、自由民権、女性解放、セクシャルマイノリティ解放、環境問題への提言、そしてコンピュータネットワークの基本思想など、僕たちが暮らす21世紀のガイドラインになっている具体的な思想を、わずか15年足らずの間に創造していった。

一方、LSDはアメリカCIAによって徹底的に研究され、その秘められた力ゆえにアメリカ連邦政府によって全面的に禁止され、20世紀の輝かしいリーダーであったアメリカ政府に追随するように世界中でLSDは禁止されていった。20世紀中盤から力を持ち始めたアメリカ保守派はヘロインやコカインなどの常習性の強いドラッグとは一線を画すLSDや大麻を、アンダーグラウンドへと封印していった。ある意味で、アメリカ連邦政府は、人々がインナートリップによって獲得したビジョンが、いかに現実社会を改革してゆくかということを最も理解している組織であると言っていいだろう。

しかし、アンダーグラウンド、カウンターカルチャーとして歩み始めたそれらのインナービジョンは、ロックミュージックやビート・テクノミュージックやあるいはレゲエや様々な民族音楽と融合しながら若者たちにバトンタッチされ再生しながら、21世紀の今も生き続けている。

LSDが伝えてくれたサイケデリックなビジョンと文化は、21世紀を生きる僕たちのための大切な羅針盤ともいえるだろう。