「つなごう命~沖縄と被災地をむすぶ会~」主催で、福島大学
准教授の荒木田岳さんに講師をお願いした「ゆんたく学習会」が
2015年11月22日に沖縄県那覇市で開催されました。
「ゆんたく」というのは沖縄の言葉でおしゃべりをすること。
公民館に集まりのんびりした雰囲気で、原発事故後の福島県での
被ばく問題について貴重なお話を伺うことができました。
荒木田さんがつけた講演のタイトルは
『福島原発事故と「脱ひばく」の課題』で、
レジュメ2ページと、福島の地元紙の記事や広告などがたくさん
掲載されたA3資料4枚をこの会のために準備してくださいました。
以下、ブログ主のメモです。
■はじめに
《自己紹介に代えて》
・石川県金沢市出身。新潟大学に進学するが、在学中に新潟県巻町
への原発建設反対運動に成り行きでどっぷり2年間関わることに。
今でも住民運動の経過をまとめたファイルをもっている
参考:住民投票で巻原発を阻止した住民運動
http://daemon.co.jp/~nagai/kenminkaigialles/fujimaki.htm
・父は北陸電力の社員で反原発だった
・「脱ひばく」は行動しないと意味がない。自分が汚染地から逃げる
ことが大事。自分は要するに「火事場から逃げ遅れた人」である
・逃げられなかった一番の理由はローンの返済があったから
(家族で住む家を建てる予定の土地と自身の奨学金)
・妻子は事故直後からすぐ新潟に避難させ自身も住民票は新潟に移転
・今年はこうやって人前で話すのがまだ「3回目」
原発事故による避難や被ばく問題の風化を実感している
《前提として》
原発事故の問題は「エネルギー問題」でも「復興問題」でもなく、
被ばくの問題だということ
ごく簡単な科学や医学の知識で、すでに取り返しのつかない事故が
発生してしまったということ
問いたいこと:
被ばくにメリットはあるのか?
メリットがないなら、なぜその強要を正当化しているのか?
なぜ「被ばくしたくない」という者に科学的な根拠を示せ、
というのか?
■『美味しんぼ』騒動について
・取材を受けたのはマンガが発表される2年前だった
・自分の伝えたことと微妙にずれて掲載されており戸惑ったが、
作者である雁屋哲氏への官民あげてのバッシングが熾烈だった
ためその時は沈黙した
(コミックス版には自分が申し出て訂正された内容が掲載)
・「美味しんぼ」福島の真実編のバッシングに連動して自分には
「公職追放」が起こり、今まで就いていた役職などを失った
・これらを語る荒木田さんの顔にはたとえようもない苦労の跡
が見受けられ、辛い気持ちになった。福島で教員をしながら
「脱ひばく」を訴えることは、針のむしろに居続けるに等しい
ことのように思えた
■現在進行形の被曝~現状~体験的被爆生活
・放射能は「厄介で手に負えないもの」
無用な被曝は避けるに越したことはないものである
・政府が定めた事故前の安全基準を政府の実測データにあてはめると
東日本の広い地域において「人が住めない」ということになるはず
しかし「汚染地」には多くの人々が被ばくに無自覚なまま暮らす
・福島県およびその近隣都県民のほぼ全員が
「自分がどれだけ被曝したか」を知らず
「それがどのような影響(結果)をもたらすか」
についても知らず、裏付け調査すらなされていない状況が続く
ゆえに、今行われている「ここまで安全」という議論には実は
意味がない
・政府は内部被曝を意図的に無視することにより、ガンマ線のみの
空間線量を測り、除染で下がった数値をもとに「住めること」に
するやり方で、汚染の高い地域を安全なことにしている
・放射能汚染というのは外部被曝(外部にある放射性物質から出る
放射線をあびること)よりも空気中にある放射性物質を含んだ
チリを呼吸や皮膚から取り込むことにより大きなリスクがある
・「切り干し大根の放射性物質による二次汚染とその原因」
(加工時の放射性物質の動態)という福島農業総合センター
の調査結果もあり、福島県は事実を把握している
・行政が環境放射能のモニタリングを地上8mでやっているので
「子どもが生活する地上50㎝でもやってほしい」と頼んだが
なかなか対応してもらえず、やっとやり出したと思ったら数値は
非公開。住民にリスクの実態を知らせようとしない
・東電の安全マニュアルによると「全面マスク」が必要な汚染の
ある場所に100万人以上住んでいる、人類史上初の事態
・現地にとどまって右から左まで「オール福島」で復興という
全体主義になっている
・「オール福島」で脱原発なのに被ばく問題はスルー
・福島県民の生命や健康を心配して活動すると
「余計なことするな!お前が風評被害をつくっている!」
とバッシングされる状況が続いている
・福島県職員の採用試験(H24年度)に「思想調査」の論文課題
「福島県外への人口流出が見られるが、この問題に対し今後どの
ように取り組むべきか、あなたの考えを述べなさい」
⇒流出を防ぐことが県職員の職務と想定した出題とみられる
・福島市では、事故による放射性物質が含まれない県外の食材を
積極的に使ったお店は嫌がらせを受けてほとんど潰れた。
自分の知る範囲では、生き残ったのは広島出身の人が経営する
お好み焼き店のみ
・電通が仕掛けた東北復興アピールのための「東北六魂祭」
東北6県の代表的な祭のパレードや福島県内の伝統芸能などを
紹介するイベントだが、震災も風化するなか費用をかけて復興
アピールを続ける必要もなくなってきて今年は開催が危ぶまれ
たが、山形の熱意で開催が決まった
http://www.rokkon.jp/about/index.html
■何がこの現状をもたらしたか ~避けられた「被曝」
《政府・福島県の対応からわかること》
・原発事故は正確に進捗する性質があるため、対策も細かく決まって
いた。官僚は法律に触らずに「ガイドライン」「指針」などで決まり
を作っていることが多く、原発事故にもそれがあった
・2007年出版 松野 元 (著)
「原子力防災―原子力リスクすべてと正しく向き合うために」に詳しい
・「原子力災害法」により、“予防原則”で対応することが決められていた
にもかかわらず、実際に事故が起きたらそのような対応は取られず
・福島県のモニタリングチームは爆発前にテルル132という核種を検出
メルトダウンが起こっていることを知っていたということ
しかし、住民避難の指示を出さなかった
・2011年4月半ば~ 個人に線量計が届き始めた。みんなが測定を
開始して流れが変わってきた。行政の発表とは全然ちがう数値が出る
ため。複数のメーカーの放射能測定器の数値を比較しながら、福島市
の線量計「はかるくん」は数値低めに出ることがわかった
・原子力安全保安院(現在の原子力規制委員会)によるメルトダウン否定
が意味するもの
⇒福島では政府の救助を待っていたが、政府は福島問題から社会を守る
ために必死だった...。
なるべく被害を小さく見積もるために、大多数の住民を現地に留め
置く選択をした。
福島県はいち早く放射線リスクアドバイザーを招聘し、県内で講演
させた。各種データを隠蔽し、ときにねつ造さえした。
・2011年3月14日 住民のスクリーニングレベル引き上げ
13000cpm ⇒ 100000cpm(使用していた測定器の最高値)
・同時期に、福島県立医大の職員にだけ「ヨウ素剤」配布
この件は福島では直後から明らかになっていたが、現地で黙殺された
(共産党議員に追及を頼んだがやってもらえなかった)
《子どもたちへの対応》
・福島県教育委員会は2011年3月末、線量計測もせずに4月6日~8日
からの授業再開を決定した
・同年4月10日には文部科学省が「年間20ミリシーベルト」基準を
子どもに適用することを決定
・子どもを避難させると親までついていく=親を留め置くには子どもを
留め置く必要があるとの判断からこのような基準が作られた
・保護者が心配し声を上げてから学校は放射能測定を開始
《除染について》
・放射能を心配する親たちが自主的に除染を始めるようになった
2011年5月~6月ごろまでは大学のトラックを使って除染
していると「無用に市民の不安を煽るから除染はやめろ」と
大学にクレームが来た。クレーム対応した上司は白血病で入院
したまま
・2011年夏ごろから「除染すれば住める」として除染を推奨する
ように変化し、秋から「官製除染」が始まった
《給食の問題》
・牛乳問題⇒「給食で使用して安全をアピール」というやり方が
農協会長や市議会議員などによって推進されるようになる
・産品の一部、しかもセシウムの数値のみ測定した数値が事故後に
跳ね上がった基準値より相対的に低いことによって「安全」とする
手法がとられる。事故前の生乳は検出されても「0.01ベクレル」
程度の汚染だったことを考えると、20ベクレルでも2000倍
■福島をめぐる議論の非対称性 ~「復興」を問う
・多様な考え方を抑圧する「復興」論
議論も、お金も、その他の支援策も、福島への「帰還」、福島は安全、
食べて応援…という方へと向かう。
cf.研究費も…(福島大学は空前の研究費バブルが起きている)
・「死の町」「美味しんぼ」…と「冷温停止状態」
「完全にコントロール」
の対比で考える各種の印象操作
⇒一方には官民あげての猛烈なバッシング、
後者の「嘘」はおとがめなし
・体験的「自主避難」
避難者への非難、「隠れ避難者」問題
⇒福島市は、県外へ避難した児童へ広域保育の依頼を出して
くれなかったが、その対応で住民票を移す人が増えた結果
出すようになった
・帰還問題を考える
人の動き:2011年と2013年の比較で/土地の線引き
→新たな「自主避難者」
・匿名の調査をすると「今からでも避難したい」という人が
1/3いる
■脱被曝を実現するために
・「脱被曝」とはどういうことか?(おおよそ「はじめに」で確認済み)
・なぜ「みんなの」脱被曝なのか?
食べて応援、産地偽装、ガレキの広域処理… すべて現地に人々が
とどめ置かれていることに端を発している
・「風評被害」??
政府のセシウム安全基準値100Bq/kgは、刈羽原発ではドラム缶に
入れて管理する「放射性廃棄物」(朝日、2012/04/20)
・対岸の火事ではない
沖縄における問題…「食べて応援」「産地偽装」「外食産業」問題etc.
原発事故前から、福島産米の主要な販売先であったこと
・沖縄の方がもともと持っている弱い立場の人を思いやる優しい気持ち
「ちばりよ 東日本!」という気持ちが自らの内部被曝をもたらした
(※2015年現在も沖縄食糧の独自安全基準値は30ベクレル)
http://www.okishoku.co.jp/kensa_taisei.html
・「食べて応援」は内部被曝と引き換えに東電の賠償を減らす応援の形
キャンペーンが必要なのは汚染地帯で生産されたものを消費者が避けて
競争力が下がっているから
・「産地偽装」に対する罰金は1回につき30万円であり、儲けが大きい
業者にはたいした額ではない
・「生産物のセシウム汚染さえなければいいのか」という問い
買う人がいて売り上げがあれば賠償請求もできず、汚染地からの退避に
取り組むきっかけもなくなる。農民の被ばく労働についての想像力を
もってほしい
■おわりに
・福島原発事故は、東日本に未曾有の「環境汚染」をもたらしたもの
何よりもまず、人々が被曝し続けている現状を変えていかなければ
ならない
cf.オール福島で復興
・甲状腺癌の状況~問題提起に代えて 放射線由来とそうでないとを
問わず実態究明と対策が必要(静かに広がる動揺)
・福島大学の同僚は50代で急死。静かに人が死んでいっている
・ 一緒に「脱被ばく」を!
沖縄の方へ:
福島(放射能汚染の高い地域)に避難者を返さない/帰りたくない人の
サポートをお願いしたい