南日高の楽古岳に突き上げる、コイボクシュメナシュンベツ沢に行ってきました。
ここはこの辺りの山域では入門的な沢、らしいです。
メンツは、agoおじさんとぬっきーと人妻。
最近は大抵このメンバーですね。
日高とは言え、最初のうちは普通の川原。
秋の木漏れ日の中、ぴょんぴょんと石の間を飛びながら進みます。
ちょこちょこと滝も出てくるけど、下流部のコたちは序の口。
脇を登ってみたり…
気合いでへつる人もいたり。
Co600を越えた辺りからガラっと雰囲気が変わって、沢の両岸は切り立ち、足場はガレガレしてきます。
入門コースとはいえ、この両岸が迫ってくる感覚。やっぱり日高です。
Co770二股の後からが、この沢の核心部。
数百メートルひたすら連続する滝を登り続けて、一気に標高を上げていきます。
所々テラス状になってて気持ち休むコトはできますが、手を離してしまえばそれまで。
一歩一歩を踏みしめて、
岩に草に手を伸ばして、
必死で自分の命を支える。
そんな一瞬一瞬にある、生きてる実感。
きっとこれくらいが、今の自分の精一杯レベル。
絶え間なく背筋がゾクゾクする、
ギリギリの緊張感。
登るコトに集中してたからか、
滝だから当然に標高が上がったからか、
長い長いと思ってた核心部の滝も気が付けば終わりを告げて、色づき始めた高山帯に入ります。
どこまでも青い青い空。
登るたびにどんどん広がる視界。
だって振り返って見れば、この切り立ったままどこまでも続く稜線。
「やっぱ日高ですねー」
と、応えずにはいられないです。
また冬には、白く切り立ったこの稜線を歩きたい。
そんなコトを話しながら、楽古岳頂上へ。
さて。
頂上に着いてからは、本日のお楽しみセレブ・ランチ☆
こんなトコロを登っては来ましたが、ランチ用に一人一品以上をちゃんと担ぎ上げてます。笑
agoおじさん提案で、一品のグレードは各人に委ねられていましたが、結果予想以上に豪華です。笑
セレブ・サンドイッチ完成☆
こんな山の頂上で、こんなセレブな瞬間。
なんて贅沢なひとときでしょう。
登って来た沢も、
見渡す限りの山々も、
少し海の匂いが混じる南日高の風も、
そんな全部をひっくるめて、今日も一日完璧な日。
また来ようね。
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というコトで、今日は何事もなく帰るはずでした、が。
降りてた尾根の、すぐ左手から、がさがさと何かが…。
「ぎゅお゛ーーん」
「ぎゅお゛ぉーーーん」
・・・
「ぎゅお゛ぉーーーーん!」
さらに右手前方からも、
「ぐお゛ーん」
「ぐお゛ぉーーん」
凍りついて顔を見合わせる私たち。
えぇ。
左手にいらっしゃるのは、きっとお母様。
右手前方にいらっしゃるのは、声からしてお子様。
秋の食欲旺盛なこの時期に、しかも親子の対角線上に入ってしまった私たち。
じっとしててもどうしようもなくて、
でも今さら来た道を登り返すわけにもいかず、
ゆっくりと、ゆっくりと歩を進めました。
日高なんだから、当然いらっしゃるコトは想定していたのに…
無事頂上に着いたあとで、緊張の糸を切ってしまっていたのか。
笛もあまり吹かず、不用意に進んでいた感は否めません。
油断、していました。
擦り切れるくらい繰り返し観た、星野道夫のインタビュー映像がフラッシュバックします。
「熊が一番すごいのは何かって言うと、一撃で人間を倒せるからだと思うんですよね。
僕はなにかそういう記事を見ると、ほっとする部分もあるわけです。
それは、やっぱりまだ、熊に人間が殺されるような自然が残っているっていうことだと思うんですよね。
熊がどこかにいて、もしかした ら自分がやられるかも知れないという感覚は、いろんなことにすごく敏感な気持ちに させてくれるんです。」
(地球交響曲第三番)
その時はその通りだと思ったけど…
でも彼自身もカムチャッカで熊にやられてしまったわけだし、また自分にも今まさにその危険が迫ってるとき、そんなコトを悠長に考えてる余裕はありませんでした。
だって直面しているのは、今そこにある危機。
星野道夫よりも、1970年の福岡大ワンゲルの事故 のほうがリアルでした。
結局残り2時間弱の道のりを、何とか無事に帰れたわけですが…。
いつ黒い影が飛び出して来るかわからない。
いざ飛び出てきたら、人間なんて振り下ろし一撃で殺されてしまう恐怖に押しつぶされそうになりながらの下山。
例えば崖で、手を滑らしたら真っ逆さまでサヨウナラとか、
例えば細い尾根上を歩いてて、足が一歩でももつれたらサヨウナラとか、
そういうのは、自分自身のコントロールで何とかなるって意味で、恐怖じゃなく緊張なんです。
それに対して今回のは、いつ彼らが飛び出して来てその手を振り降ろしてくるかもしれないという、自分の力じゃどうしようもない事態。
後ろからその熊がついて来てるんじゃないかとか、
脇から突然飛び出してくるんじゃないかとか、
そしてその時にどうあがいても自分は死ぬイメージしかできなくて、
その事実に対する純然たる恐怖を感じ続けていました。
そんなわけで。
命からがら無事生きて帰ってこれたコトだし、ちょっとのあいだ山はお休み。
雪が積もって彼らが冬眠に入った頃にまた登り始めたいと思います。
代わりに直近は、下界でこれまで以上にアクティブにいかなければっ。