声
もう、とうの昔に忘れていたと思っていた
胸が痛くなるほど、人を愛しいと思う気持ちなど
毎日の喧騒の中
目先の「やるべきこと」に紛れて
あなたを、何を捨てても守ろうと誓った日の事など
忘れたかのような錯覚に、鈍く浸っていた
突然それはよみがえった
ほんの何気ないあなたの一言で
それは、深い淵の底に垂らされた
一本の蜘蛛の糸のように美しく光り
私の目前ではかなげに揺れていた
しかし私は、今しっかとその糸をつかみ
静かに、その導きのままにぬかるみの地を離れようとしている
懐かしい涙と、深い自責の思いと共に
あなたは、その声で私を
永い眠りから覚まし、呼び戻してくれた
何と美しい声であったろう
私に信仰があるとすれば
それはあなたへの、変わらぬ愛の力のみによって息づく
私は母であった
あなたを、世界のどこまでも愛し続ける
それが私を力強く励まし、生かしてくれる
もう忘れまい
この先何が起ころうとも
私は、母なのだ