犬が好きだ。といつも言ってきた。
いつから好きなのかは解らない。
近所にいっつも離れてる犬がいました。
私と、双子の姉はその犬が大好きでいつも遊んでいたそう。
ある日、家の縁側からその犬にパンのミミをあげていた時、
その犬におもいっきり噛まれました。
事故です。
血がいっぱい出ました。
でも、どのくらい痛かったのかは覚えていません。
4歳の頃でした。
その犬の顔も、もう覚えていません。
ただ、幼稚園で着替える時に、セーターに包帯を巻いた手がひっかかって
うまく着替えられなくて、先生が手伝ってくれたことだけ覚えています。
犬が怖いと思った その日から、
私は犬のことをすっかり忘れました。
自分が犬を触れたことも忘れました。
そんな私の家でも、犬を飼った。
名前は クロ
雑種の心優しいオスの犬です。
顔はオオカミみたいに、コワモテだったけど、
すごく、優しい子だった。
何故か、私はこの子の子犬の頃を記憶していない。
ひどいかも知れないけど、気が付いたら居たのだ。
そのくらい犬を恐れていたんだと思う。
クロちゃんは
私が怖がるのを知っていたから、少しでも撫でて欲しくて、触って欲しくて、
尻尾もブンブン振らないように気をつけるくらい、優しい子でした。
頭を低くして、じっとこっちを上目で見るんです。
茶色の瞳のクロちゃん。
私は時々、クロちゃんを撫でた。
そっと近づいて、腕を伸ばして、そーっと。
私も必死だった。
クロちゃんが優しい子だったから、撫でることができたのだ。
時々ね、
「クロちゃん♪いい子いい子ね♪」って私が声を弾ませると
興奮して体を、ぴょんっ♪っと起こしちゃうの。
私は、それが怖くてね。
ビクっと身体を起こしてクロちゃんから離れてしまうの。
そうすると、クロちゃんは
残念そうな顔をして、行かないで。って顔で訴えるの。
しょんぼりして、また同じ姿勢になって私が撫でるの待つの。
ホントに辛抱強くて、優しい子だった。
怖かったけど、私は犬が本当に大好きだった。
図鑑を開いて犬の名前を覚えた。
沢山、犬の絵を描いた。
犬ばかり描いていたら、上手だと褒められるくらい描けるようになった。
クロちゃんは、図鑑には載っていない犬だった。
雑種だったから。
よく、クロちゃんを描いた。
人と違う形の肢体をよく観察させてもらった。
ある朝、
クロちゃんが家からいなくなった。
クロちゃんは番犬として外で飼ってました。
繋がれてた鎖が外されていました。
首輪が外れてもちゃんと戻ってくる犬です。
何日も、 何日経っても、
とうとうクロちゃんが戻って来る日は来ませんでした。
空っぽの犬小屋。
学校から帰ってきて、誰もいない家で待っていてくれたのは
いつもクロちゃんだった。
もっと、撫でてあげれば良かったな。
ぽつりと心に残った後悔が広がって涙が出た。
クロちゃんはお姉ちゃんが可愛がっていた犬でした。
お姉ちゃんが韓国に留学してしまって
お姉ちゃんが居なくて、寂しかっただろうな。
今、どうしてるかな。
たまに思う。
その後、幸せに暮らせたのかな。
怖い顔の クロちゃん。
優しい心の クロちゃん。
保育園の子供たちを心配そうに見つめていた クロちゃん。
毛虫を前足で 恐る恐る つっついて遊んでいた クロちゃん。
お水をあげると、美味しそうにガボガボ ジャブジャブ飲んでた クロちゃん。
私、思ったより
あなたを覚えているんだね。
嬉しいような。寂しいような。
そんな心境です。
もう一度、犬を触れるようししてくれて ありがとう。
もう、クロちゃんを触ってあげることができないけど、
私はまた、犬が大好きになりました。
クロちゃんは 私にとって忘れられない 大切な家族です。