交通事故 ~ 弁護士に委任するタイミングについて ~ との比較で、相続について弁護士に相談や委任するタイミングを考えてみました。


1 被相続人の生前に相続問題を処理する場合

 被相続人(相続される人)が生前に、特定の相続人に財産を厚めに相続させたいと思ったケース等です。

 このケースでは、被相続人が思い立った時点で弁護士に相談するのがベストです。相続税の問題が発生するような場合には税理士とも相談してプランを考えた方が良いでしょう。

 また、被相続人の意向を遺言書等の書面で残しておかないと、後日、かなりの割合で紛糾することになります。 とりあえず弁護士と相談して計画を練っておくのがベストです。

 複数の相続人に財産を相続させる場合で、かつ特定の相続人が文句を言ってきそうな場合、弁護士を遺言執行者に指定しておくとよいでしょう。遺言執行者とは、遺言の中身を実行する人のことです。対立しがちな親族の間に第三者を介入させることで、親族間の争いが緩和できることが期待できます。


2 被相続人の死後に相続問題(遺産分割)を処理する場合

 被相続人がどんなに心の中で特定の相続人に厚めに相続させてやりたいと思っていても、遺言等がなければ原則として相続は民法に定められた基準(相続割合)によって処理されます。若干、貢献に応じて色をつけてもらえるという程度に思ってください。

 したがって、被相続人が特定の相続人に報いたいと思った場合は、生前に弁護士等と相談して、自分の気持ちを書面に残すなりしておいてください。


 さて、遺産分割を行う場合、一番重要なのが、相続人間でもめているかどうかです。身も蓋も無い話ですが、相続人全員が納得していれば、紛争にはなりません。

 それでは、相続人間で紛争になっている場合について説明します。相続人間で遺産分割の話し合いを行ったが、全員の納得が得られない場合は、遺産分割調停を行うことになるでしょう。

 交通事故の場合、被害者と損害保険会社の示談の話し合いがうまくいかないため、弁護士が介入して示談解決し、訴訟まで行わない例が多いです。しかし、遺産分割の場合は、弁護士が入って話し合いを行っても、当事者同士の話し合いは、うまくいかず調停等により解決を図らざるを得ない例が多いと感じています。当事者の数が多いことや感情のもつれが原因かと思います。

 遺産分割調停は、関係機関への資料の取り寄せ等、結構、手続が複雑でややこしいです。率直なところ、誰も弁護士に委任していないため、進行もないまま惰性的に月1回の調停が開かれている事例もかなりあります(このような場合、特定の相続人による相続財産の取り込みが発生しており、相続財産の範囲に争いがある事例が多いようです)。

 したがって、相続人間で話し合いをしたが、解決する見込みがなさそうだと感じた場合、弁護士に依頼することをお勧めいたします。


 相続の問題と交通事故との違いは、紛争が発生する前に法的な対応が取れるかどうかという点です。交通事故は起こらないかもしれませんが、相続は必ず発生します。相続人に泥沼のケンカをさせたくないというお気持ちがあるなら、生前のうちに対策をとっておきましょう。