素数ゼミ調査 ~in Missouri~ | "学者への道" in Arizona

素数ゼミ調査 ~in Missouri~

ただいま、アリゾナ州からミズーリ州に向かう飛行機の中。

初めてのお使いならぬ、初めての出張(笑)

といっても、セミを捕まえる昆虫採集です( ´艸`)



去年の学会で出会った日本の研究者の方から、

一緒にセミを捕まえにいかないかというお誘いを受けました。

ご存知の方も多いですが、Dr.Tは大の昆虫好き(笑)

プロの方と昆虫採集に行けて、交通費、日当までだしてくれるなんて、こんなにうれしいことはない。

自分の研究(ネズミ)には直接関係ないですが、この11日間の調査を前々から楽しみにしてきました。



まず一緒に調査に行く先生方をご紹介。


Y先生
今回の調査のリーダー。コロンビア大学研究員、インペリアルカレッジ個体群生物学センター研究員などを経て、現在は静岡大学教授およびニューヨーク州立大学併任教授、千葉大学客員教授というビッグな先生。専門は数理生態学で1987年の環境不確定性の論文が有名な雑誌、Natureのレビューに引用され、欧米で一躍注目を集めた日本を代表する進化学者の一人。


他には、京都大学教授で、オサムシなど地表性甲虫を用いた系統進化学などが専門のS先生。日本昆虫学会賞(2001年、2005年)などを獲得、一般著書も数多い。多くの学生を抱える指導者でありながら自ら実験などもこなす研究者の鏡です。


また信州大学准教授で、カタツムリの種分化などを研究されているA先生。バージニア大学で博士を取得し、ヘビとカタツムリの共進化でNatureにも掲載されました。自分と似た境遇を体験している上、かなり熱い方です。


また森林総合研究所の特別研究員で、地表性昆虫、ヒラタシデムシ、ミミズの生態学、進化学が専門のI先生。今年からジョージア州でUSDA Forest Serviceの研究員になられます。 すごく優しく、謙虚で、科学をわかりやすく説明してくれます。



さてさて、こんなゴージャスなメンバーとただのムシ好きである自分の11日間の調査目的は、13年周期ゼミ(通称:素数ゼミ)を採集すること。

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素数ゼミとは、13年(17年もいます)に一度、アメリカで大発生するセミです。ワールドカップやオリンピックより頻度が低いので、今年を逃すと次回お目にかかれるのは2024年、自分が おっさん(38歳)になっているころです。

日本のアブラゼミの幼虫も6~8年土の中で過ごし、木の根っこのジュースを飲んで過ごす。この木のジュースほとんど栄養がないから大人になるまでこんなにも時間がかかる。大人になると、土からでて、羽化して、交尾して、一生を終える。日本の夏に見ているのはこの羽化した大人です。

ところが、素数ゼミというのはアメリカに棲息する13年と17年おきに大発生するセミのこと。なんでこんな半端な周期で大発生するのか長いことミステリーです。でもその謎に挑んでいるのが、Y先生。

昔々、素数ゼミの祖先は、周期もなんにもない、毎年発生するただのセミでした。ところが、氷河期に入り寒くなると、幼虫が成長するのに余計な時間がかかったり(ただでさえ長いのにw)、木も枯れたから、土からでても交尾する相手もいないし、ほとんどのセミは死んじゃいました。ちゃんちゃん。ってここで終わりません(笑)

幸運にもリフュージアと呼ばれる、氷河期でも木がわずかに残った避難所がアメリカには多く残っていました。リフュージアで羽化したごくわずかなアダムとイブ(もちろんセミです)が、子孫を残しました。

アダムとイブの子孫は数が少ないし、成長にもばらつきがあるから、土からでる年をミスると、交尾相手を見つけられず死亡。土からでたとき、周りに交尾相手がいるかどうかは運任せです。

そこで登場するのが、羽化する年数を一定にした突然変異の素数ゼミくん(ちゃんかもしれない)。この突然変異をもっていると土からでたとき交尾相手に困ることがないから、この突然変異遺伝子は瞬く間に子孫の間に広まった。これが「周期性の獲得」

こうして周期性をもったいろんな突然変異のセミたちがいたに違いない(12年~18年など)。しかし、問題発生!異なる周期性のセミたちが交尾すると、その子供は親の周期と異なる周期で発生する。

例えば、15年周期ゼミと18年周期ゼミが交尾すると、子供はみんな15年周期(時計遺伝子では一般に短い方が遺伝的に優性だから)。そうすると、18年周期のセミの数はどんどん減っちゃって、絶滅。だから異なる周期と交尾すればするほど、周期のバリエーションが減っちゃう

言い換えると、自分と異なる周期のセミと出会わなければ、自分の周期を維持できる。どんな数字なら他の数字と出会わない?

みなさん最小公倍数って覚えていますか?最小公倍数が大きければ大きいほど滅多にほかの数字と出会わないですよね。

これでなぜ13年、17年って今生き残っているのが素数なのか気づきました?最小公倍数がもっとも大きいのは、「素数」。だって1と自分の数でしか割れないから(めったに他の周期のセミと出会わない)。だから、11、13、17、19年など素数の周期を持つセミが、理論上集団を維持し続けることができる。


というのがY先生の考えですが、これを立証するにはまだまだデータ、実験が足りません。そこで調査団を率いてアメリカに乗り込んできたというわけです。


この調査に自分が誘われた理由は、ドライバーと英語通訳というだけかもしれませんが、それだけじゃ帰れません。

この調査では、

1. コネをつくり、将来の就職に役立てる。
2. 日本の大学事情を知る。
3. 学者として成功する要素を盗む。

これだけ業績がある人たちには何か共通点があるはず。ものごとの考え方がそんじょそこらの人とは違うはず。絶対にいいところを盗んでやろうと意気込んでます。

ミスタードーナッツでのバイト時代に培った社交性+昆虫と進化学が大好きな情熱で、実りある調査にしてみせまーす。

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