トリコロール本店で歓談を楽しんでいた僕たちでしたが、そろそろ昼食の時間が近付いてきました
そろそろ移動したいなと思っていたのですが、刺客が存外にこの店が気に入ったらしく
「こういう雰囲気落ち着くなあ」としきりに嘆息しているので

「そういや、コーヒーの味そのものならもう少し特徴のある店があってさ、これは大正の作家達が大好きでよく随筆なんかに出てくるんだ」と、ちょっとした噂話として紹介したところ
彼のコーヒーに対する興味は僕の想像を超えていたらしく
「そこ、俺が持つからもう一軒行かないか」と言い始め

「おまえが京都に来てすぐタクシー乗りたがるわけが分かったぜ。滅多に来ないから、多少金が要っても悔いの無いようにしたいって、いや、全くそりゃ真理だな」と今更ながら感心している刺客を連れて、もう一軒喫茶店をハシゴすることになりました


喫茶パウリスタは、神戸一刀斎お気に入りの一軒であり、宇野浩二、広津和郎など大正期を代表する作家連に愛された銀座のカフェです
一度、彼に「いくら無風流なおまえでもここのコーヒーの旨さは分かるだろう」という口上と共に連れてこられ、確かに特徴的な味わいだと感心した覚えがあるので、刺客との会話で名前を出してみたのです

確かに喫茶店としては申し分なく、僕自身もう一度訪ねてみたい気持ちはあったのですが、飽くまで銀座の目的は昼までの時間繋ぎにあったので
既にその目的は果たしたが、と困惑しながらも、相手が出してくれるというのだから別段反対する理由もなく、パウリスタの扉を開けました



この店は、トリコロールのような豪奢な雰囲気はなく、古き良き喫茶店とも言うべき素朴な店構えで、店内も結構ゴミゴミしています
そういった意味でも、インパクトの点で最初トリコロールを選んだのですが、久しぶりに来てみるとパウリスタも、独特の雰囲気を放っていて、こういう飾らない活気もいいものだとなかなかいい気分になりました

パウリスタのコーヒーは、香りが特徴的で、酸味も強めに出ていて、僕にとって親しみ深い味わいですが
刺客は、再びコーヒーカップを子細に点検した後、一口飲むや「うーん、うまいがトリコロールのほうがいいぞ」とコメントしていました
結局、彼のコーヒーに対する趣味はよく分からないまま終わったのでした


独特な雰囲気に酔ったのか、先ほど以上に会話が弾み始め、まあランチタイムギリギリに入ればいいかという気分になって、僕も大いに喋り始めましたが
途中から、懐旧談や文学談義、食の情報交換の段階を過ぎて、いつの間にか話題は刺客の最近凝っているバス釣りの話に及び

「東京の奴らにも、バス釣りの面白さを教えてやろうと思ってさ、奥多摩の湖に友達五人くらいを連れてったんだけど、結構サバイバルなところで、崖とかよじ登って死ぬ思いしたぜ」
「しかも、ブラックバスは、寒いとき動きが殆ど無くなって冬眠みたいにしてて、全然餌に反応しねえんだ。お蔭で、一日ブルブル震えながら釣り針垂れてさ、魚は見えてんのに一匹もかかんなくて、全く俺の面目丸潰れだぜ」

などという彼の話に笑い転げている内に、江戸情緒も忘れ去った二人が、ふと腕時計を見ると、かなり急がないとランチタイムに間に合わない時間になっていて
彼の失敗談へのコメントもそこそこに、新橋駅を目指して駆け出すことになったのでした



・カフェーパウリスタ
東京都中央区銀座8-9-16 長崎センタービル 1F
最寄り駅:銀座




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