これは夢だ。

ムームーは即座に気づいた。

これは僕が魔法使いになった朝の事だ。

いつものように朝ごはんを食べ終え、

町長の所にシロディールの歴史を学びに行くところだ。


通りの向こう側から衛兵が慌しく近づいてくる。

一緒に居た黒いローブを来た一団が自分を指差す。

「居たぞ!プリーストだ!捕まえろ!」

怯えて逃げ出す自分。

追い詰められ、壁を背にした時、

突如黒いローブの集団を頭上から氷塊が襲った。

そして自分を覆う影。

「ここに居たのか。見つけたぞ。」

青いドラゴン。

「レイゲン!貴様!クラリックの分際で!」

「自分が何をしているかわかっているのか!」

口々に叫ぶ黒い集団に、ドラゴンは言った。

「黙れ。貴様らにこの子の気持ちは永遠に解るまい。」





あれから10年の時が経ち、少年は青年になった。

彼は帝国の魔術師ギルドに所属し、皇帝警護も何度か勤めた。

優秀な魔術師である彼は、アルケイン大学からの任務を受ける事になる。


任務の内容は、スカイリム地方の反乱を収める事。

そしてその地に眠るアーティファクトを、

来たる帝国とサルモールの決戦に向けて収集する事。

これが皇帝とアルケインアークメイジから下された極秘任務だった。

今現在、永きに渡りタムリエル全土を支配してきた帝国は、

自治領を持つサルモールから政治的内政干渉を受け、

中央も東部も機関が麻痺している。

200年前に起きたオブリビオンの動乱の後、

ハイエルフを主とするサルモール自治領は、

皇帝に対して武力をちらつかせながら近づいてきたのだ。

スカイリム地方で起きている反乱も、

サルモールに反発する地元のノルドが起こした反乱と見なされている。


ムームーは共に難事に取り組んできた盗賊、

ゼノをスカイリムの馬車に放り込むと、自分は雪深い北東の町、

ウィンターホールドに身を寄せ、魔術大学で秘宝に関する情報を集める事にした。

最初に立ち寄った街、ホワイトランで宮廷魔術師のファレンガーと

意気投合したムームーは、彼にゼノの為の短剣を渡すと、

馬車に乗って一路北上した。


馬車や道行に聞く限りでは、

ヘルゲンをドラゴンが襲い、

帝国が捕らえた反乱の首謀者であるウルフリック・ストームクロークが、

その混乱に乗じて逃げ出してウィンドヘルムの首長の地位に返り咲いた事。

そしてゼノがそれに巻き込まれて死に掛けた事。

各地でドラゴンが復活している事。

凄腕の暗殺者がスカイリムに逃げて来た事。

そういった情報が入ってきた。


大学に着くと、マスターウィザードであるミラベルの案内を受け、

その後に大学の人物一人一人を訪ねて情報を得た。

まずアークメイジであるサボス・アレン。

すべての呪文に長けているという彼は20年以上前からこの大学のアークメイジだそうだ。

破壊魔法のマスターであるファラルダは飄々としているが、目の奥には強い意志がある。

回復魔法のエキスパートであるコレットは学内で嫌がらせを受けているようだ。

幻惑魔法のエリートであるドレビスは隠れる事が好きらしい。

召喚魔法のガーディアンであるフィニスは学内の設備点検も手がけている。

そして変性魔法の使い手であるトルフディル。

彼は、主として新人の教官を務めていた。


トルフディルは訓練だけではない、

魔術の実践を望む新米ウィザード3人とムームーを連れ、

大学近くの遺跡、サールザルの探索を行った。

その結果、ムームーは自分を取り巻く運命に巻き込まれていくのである。



ウィンターホールド大学を出て、寂れた街を通り過ぎ、

一行は雪原地帯を歩いていた。

「ジェイザルゴはこの遺跡で素晴らしい発見が待っていると考えている」

道すがら、キャットマン(カジート)のジェイザルゴが言った。

この尊大な態度の猫は自分に絶対の自信を持っているようだ、

というのが短い時間でムームーが観察した事だった。

「そうかな?どうせ大した遺跡じゃない。きっとスケルトンが山ほど居るんだろうな。」

その隣で肩をすくめるノルドは、オンマンドという名の男だ。

「二人とも、お喋りをやめなさい。私達は実地訓練に出ているのよ!」

そういう本人が一番興奮しているのではないか。

ムームーは声高に二人を注意するダークエルフ、ブレリナを見た。

「みんな、そろそろ着くぞ。

…やれやれ、若き時は斯くも急くものかな。」

注意喚起の後に、小声で独り言をつぶやく老人、トルフディル。

しかしこの老人は決してただの老人ではないのだろう。

マスターウィザードであるミラベルによれば、

「ただの老人ならば、決して変性術のマスタークラスには辿り着けないでしょう」

との事だった。


トルフディルの案内で、雪に覆われた遺跡に足を踏み入れた一行。

「そうだな、君達にはこの遺跡の探索の手伝いをしてもらおう。

何か魔力を持つ小物があったらそれを持ってくるように…」

ムームーを含めた4人は、手分けして秘宝を探した。

暫くすると、オンマンドは水銀のピッチャーを見つけたが、

それには何の魔力も無かった。

結局、小さな魔法の指輪が3つ、符術された状態で見つかっただけだった。

「ジェイザルゴはもっと奥に何かある気がする。

そうは思わないか?ムームー。」

猫の案内により、二人はもっと奥へと進んだ。

そのうちムームーが不思議な像の前に来た。

そこにはアミュレット(首飾り)がかかっていた。

「なんだ、これは…」

ムームーが手を伸ばしてそのアミュレットを掴んだ瞬間、

後ろの罠が作動し、入り口が鉄柵で閉じられてしまった。

「しまった!」

慌てて出口を探したが、どこにも無い。

手始めに魔法を鉄柵に撃ってみたが、開きそうに無い。

騒ぎを聞きつけてトルフディルがやってきた。

「君がアミュレットを?もしかしたら君と共鳴しているのかも知れん。

そのアミュレットが反応する場所に魔法を撃ち込むのじゃ!」

老練の魔術師の言葉通り、アミュレットと共鳴する壁に電撃を撃ち込むと、

そこの壁が崩れ、同時に背後の鉄柵が開いた。

「なんと!そこに隠し扉があったとは…

奥に進もう。何が待っているのだろうか。」

授業をそっちのけで老人とムームーは遺跡の深部へと進んだ。


少し行くと、小さな祭壇があった。

トルフディルが遺跡について説明を始めたその時、

突如その言葉が途切れた。

どうしたのだ?

ムームーがそちらを向くと、

トルフディルが固まっている。

「先生?これは…」

その時、目の前に光が炸裂し、突如ローブを纏った一人の男が現れた。

「とうとう封印を解いたな…。

君はこれから来る試練と災厄を食い止めなければならない。

だがその前に、教えておこう。遺跡の奥へと向かうのだ。

運命はもう動き始めている。」

「あなたは…?」

「私はサイジックの僧兵だ。

マグナスの目はもう目覚めてしまった。君は成すべき事を成せ。」

「一体何のことを?」

「青い魔術師、私はすべてを教える時間が無い。とにかく奥へ進め。」

次の瞬間、甲高い音が聞こえ、僧兵は姿を消した。

同時にトルフディルの喋り声が帰ってきた。

「先生。先生!」

ムームーは夢中になって話しているトルフディルの話を止め、

今目の前で起きた事を話した。

最初は話を中断された事に憤慨していた老師だったが、

話がサイジック会に及ぶと目を見開いた。

「サイジック会?まさかそんな。

彼らは伝説の魔術機関だぞ。」

トルフディルが言うには、

サイジック会は移動する別次元に存在していて、

タムリエルではここ100年間姿を見たものが居ないという。

彼らと連絡を取る「窓口」はサマーセットアイランドにあり、

確かに現存はしているが、その内実は明らかではないらしい。


「彼らが何をさせようとしているのか…皆目検討もつかんわい。」

「奴は僕に奥に進めと言っていました。」

「そうか…だが注意しよう。何が待っているかわからんからな。」

トルフディルが言い終わる前に、近くの棺の蓋が開き、

中から古代ノルド人のミイラ、ドラウグルが姿を現した。

ドラウグルは斧を振りかざし、小柄な老人に襲い掛かった。

「先生あぶな…」

ムームーが自分の目の前に出てきたドラウグルに向けて電撃を放つと、

その古い体は吹き飛んだ。

老師は無事かとムームーが目をやると、

そこには身動きも取れないまま固まる複数のドラウグルが居た。

「深く凍結せよ!」

トルフディルは手から次々と氷の矢を降らせ、ドラウグルを吹き飛ばした。

彼は今の一瞬で自身を魔力の鎧で覆い、

迫り来るドラウグルに麻痺の呪文を浴びせたのだ。

その目は先ほどと同じように穏やかだが、奥にわずかに闘志が垣間見えた。

「この程度にはやられんよ。さあ、奥へと進もう。」

二人は次々と罠を解除し、ドラウグルを倒し、最深部へと足を踏み入れた。


そこには、青いエーテルの力を放つ球体が、光り輝いていた。

「これは素晴らしい…待て、ムームー!」

階下に下りたムームーを待ち受けていたのは、

ひときわ強いオーラを持つドラウグルだった。

「この程度なら大丈夫ですよ、先生。」

ムームーは両手からアイススパイクを放った。

だが。

ドラウグルのロードは怯む事なく進んでくる。

「その球体から力を受け取っておるのじゃ!

待っておれ、力を吸い取ってやる!」

トルフディルが老人とは思えない身のこなしで球体へと近づき、

自らの変性呪文を球体に浴びせた。


すると、ドラウグルの体を覆っていたオーラが少し薄くなった。

「今じゃ!」

トルフディルの合図で

ムームーは覚えている中でも最大級の呪文、

大奔流の呪文と迫雷撃の呪文を同時に放った。

それをまともに胸で受けたドラウグルは塵となって吹き飛んだ。


二人はその場所を調べることになった。

ムームーはドラウグルの座っていたテーブルから、

不思議なメモを発見した。

一方、トルフディルはこの球体をアークメイジに見せるように提案、

ムームーに彼を遺跡につれてくるよう伝言した。


トルフディルと別れて遺跡を出ようとしたムームーだったが、

ふと、奥の部屋から何かの呼び声を聞いたように思った。

一人で扉を開け、先に進むと、そこには古代の文字が書かれた壁版があった。

「なんだ…これは…心の中に…」

ムームーが近づくと、壁の文字が光り、視界は霞み、

奇妙な音とも言葉ともつかぬ何かが聞こえてきた。


「IIZ」


言葉は心の中に流れ込んできた。

乾いた木が水を吸うように、

それはムームーの体の中に染み渡った。

頭を抑えてムームーが倒れると、声は消えた。

「いったい…なんだったんだ。」

ムームーは謎の言葉の事も気になったが、

アークメイジに遺跡で起きた事を報告するため、急いで遺跡から脱出した。




防人の領域 - 朱雀のたまほめ-悪臭がする下水道、ラットウェイ

ムームーと分かれた後、

俺は順調に仕事を進めた。


ものを手に入れるなら、盗賊ギルドに入るのが手っ取り早い。

上手く行けば正体がわからない「敵」の情報も手に入るかも知れないしな。

そう考えた俺はギルドへの潜入を決意した。

ついでに、いろんな街を回って、本筋の依頼でもある鎧集めを実行。

旅の途中で聞いたが、やはりドラゴンの噂で街は持ちきりだ。

盗賊ギルドの仕事の内訳だが、

今は大した仕事が無く、街々で盗みをしたり、

リフテンの大家であるブラックブライアの仕事を手伝うのが主なようだった。


防人の領域 - 朱雀のたまほめ-やり手の依頼主

やり手の依頼主。俺の主人もこれくらいだといいんだが。


俺は次々と仕事をこなし、あっという間にギルドの信頼を勝ち得た。

暗殺を仕掛けてきた「敵」の事は相変わらずわからなかったが、

どうやら盗賊ギルドにも「敵」がいる事もわかった。

そして、事件の裏で暗躍していたギルドの裏切り者、カーリアを討伐する為に、

ギルドマスターであるメルセル・フレイと二人で、

そいつが潜む「雪帳の聖域」を目指す事になった。


防人の領域 - 朱雀のたまほめ-左がメルセル 右がブリニョルフ

左がメルセル。右がギルドに誘ってくれたブリニョルフだ。

ウィンドヘルムの東にあるその洞窟に着くと、

先についていたメルセルが洞窟の鍵を開けた。

だが洞窟内部に入ると、何か嫌な予感がした。

洞窟奥から吹いてくる風が俺の成分を刺激する。

{俺はオブリビオン出身だから異界のエネルギーを感知出来る}

「奥に進むのか?」

「当然だ、カーリアはそこに居る。」

メルセルはドワーフ製の剣を持って奥へとズンズン進んで行った。


洞窟は、奥に進むにつれて遺跡の体を成して来ていた。

おまけに遺跡を守る古代ノルドのゾンビ、ドラウグルがわんさかいやがる。


防人の領域 - 朱雀のたまほめ-凄腕のメルセル

だがメルセルはあらかじめここをアジトにしていたと自分で言っていたし、

実際やつらの襲撃も二人で居れば大した事なく避ける事が出来た。

{罠も沢山あったがすべて俺の天才的な頭脳で解除した}


ただ、戦いの最中、いくつか気になる事があった。

ひとつが、奴らの喋る奇妙な言葉だ。

それは、あの日俺が処刑される寸前に聞いたドラゴンの叫びと、

全く同じものだったのだ。


防人の領域 - 朱雀のたまほめ-これは…


おまけに、それを食らったメルセルは処刑人と同じく吹き飛んでいった。

ノルドである奴によれば、

一部のノルド人は「声」を鍛える事でそういった技を使えるらしい。

技術なのか魔法なのかはわからないが、俺にも使えるのだろうか?


二つ目はメルセル自身についてだ。

奴は罠の事は知っていたが、それがどんな罠かは知らなかった。

つまり奴とカーリアは完全に敵対関係にある。

にも関わらず、奴はドラウグルの位置は把握していた。

つまり以前にも戦った事がある相手だって事だ。

なら、なぜ俺を一緒に連れてきたのか。

もちろん俺の優秀な頭脳を当てにしてる、といいたい所だが、

実際罠の仕掛けを解くなら一人で行動した方がいいようなものばかり。

どうもひっかかるが、とにかく先に進む事にした。



防人の領域 - 朱雀のたまほめ-謎の扉

進んだ先には、奇妙な扉が待っていた。

メルセルによればこれを開くには「爪」が必要になるらしいが、

この扉の爪は既に破壊されており、更に特殊な仕掛けが施してあるらしい。

そして、その仕掛けの解き方は知っているので、自分に任せろといい、

結局俺の出番は無くその扉は開いてしまった。

扉を開いた先にはやはりドラウグル。

だがそいつらを倒した後、事件は起きた。


防人の領域 - 朱雀のたまほめ-古代文字

部屋の壁に奇妙な文字が浮かび上がっていたのだ。

しかもなにか…頭に語りかけるような呼び声が聞こえる。

俺はゆっくりと文字に近づいた。


防人の領域 - 朱雀のたまほめ-何かが流れ込んできた


すると、なんと文字から力が流れ込んでくるではないか。

まさかこれがムームーの言っていた文字か?


防人の領域 - 朱雀のたまほめ-光は消えた

メルセルが後ろから俺に声をかけてきた。

どうやら彼には文字の光も何も見えなかったらしい。

しかも声も聞こえなかったようだ。

一体この文字は…。

俺はこの遺跡を出たら、一度大学に居るムームーに会いに行く事にした。


そして。

とうとう最後の扉が開いた。

メルセルが俺に先に行くように促す。

俺は細心の注意を払いながら中に入った。

その時だった!

どこからともなく鋭い矢が俺の胸を貫いた。

くそっ、罠か?

だが矢の飛んできた方向を見ると、それが罠でない事がわかった。

ダークエルフの女が俺めがけて弓矢を放ったのだ。

おそらくあれがカーリアなのだろう。

俺は撃ち返そうと弓に手をかけたが、急に手の力が抜けた。

そして、次に全身の力が抜けて完全に立てなくなった。

矢に毒が塗ってあったか。

俺は神経毒が体を巡るのを感じた。

アルゴニアンの体には毒への耐性がある。

とはいうものの、こいつは相当強力な毒らしい。

今まで受けた中でも最悪だ。


俺が地に伏せていると、後から入ったメルセルがものすごい速さで女に近づいた。

「カーリア!やはりお前か。」


防人の領域 - 朱雀のたまほめ-対峙


二人は言い争っていた。

だが何かひっかかる。

口論が続き、一触即発の空気が漂ったが、

メルセルが剣を抜くと、カーリアは透明薬を飲んで姿を消した。
相手が居なくなったメルセルは、俺に近づいてきた。

「よぉ…悪いが動けない」

俺が言うと、奴はニヤリと笑った。

「そのようだな。お前を連れてきて正解だった。

最後に役に立ってくれたしな。」

メルセルは笑った。

「何?」

「お前のおかげで俺はカーリアの毒を受けずに済んだ。

そして、お前の役目はここで終わりだ。

お前はこの墓地で骸骨共と一緒に眠るんだよ!」

「おい、ちょっと待て。なんの事かわからない。

俺を生かしておいた方が絶対にいいぞ。」

その場凌ぎにもがきながら、俺は必死に毒が回っていない体の部位を探したが、

悲しい事に口と目しか動かせない。

「いいや、駄目だ。お前は頭がキレる。

それに雇い主が他にいるんだろ?あの若い魔術師だよな?」

なんでこいつがそんな事を知ってるんだ?

俺が考えに至るのとメルセルが言うのは同時だった。

「盗賊ギルドに、潜入した奴がいる。

そいつは秘宝を欲しがっていて、そいつの依頼主共々葬って欲しい。

そういう依頼なんでな。

ある程度泳がせた後、始末する予定になってた。

まさかカーリアまで見つけてくれるとは思わなかったがな。」

「貴様…。」

「いいぞ、ゼノ。いい表情だ。

裏切りはこれだからやめられない。

ガルスも殺す時はこんな表情だった。

安心しろ、お前の主人もここで殺してやるから。

ブリニョルフにはよろしく言っておいてやるよ!」


防人の領域 - 朱雀のたまほめ-嫌な予感はしてたんだ


そういうと、奴は剣を俺に向けて振り下ろした。

くそ。ついてない。

鮮血が首から流れていく。

俺は薄れ行く意識の中で、小僧にこう謝った。

すまなかったな、力不足でよ。




次回に続く。


頭に来る!


ゼノはイライラしながらウィンターホールドを出た。

数分前の会話が何度も頭の中をよぎる。


無慈悲で冷徹でくそ真面目なご主人{ムームーの事だ}が、

俺に出した命令はこうだった。

各都市を守備する衛兵の装備を手に入れること。

やつはそれを出来るだけ手を汚さずに、手に入れろと言って来た。

そこで俺は手始めに、バルグルーフ首長に謁見した後、

牢屋を見張っていた間抜けそうな衛兵を一人気絶させ、

そいつの身包みを剥いだ。

こんな事は朝飯前だったし、今までの仕事よりも簡単だ。

次にウィンターホールドでも街につくなり衛兵を殴って気絶させ

そいつから身包みを剥いで、合流場所である魔術大学に入ろうとした。


だがそこで問題が起こった。

「あなた、大学に入るなら呪文の素質があるか見せて頂戴。」

ファラルダとかいうハイエルフが、

どういうわけか俺を入学志願者と勘違いしたらしい。

ハ!俺があんなひょろひょろで陰気な魔術師共になろうとしてるように見えるのか?

俺は別のルートからの侵入を考える事にして、そこを後退しようとした。

すると、いつの間にかムームーの野郎が後ろに居るじゃないか!

「到着が遅かったな、ゼノ。とりあえず宿屋で話そう。」

奴はファラルダに会釈をすると、俺を連れて宿屋に入った。


「これが頼まれてた装備だ。取り急ぎ2つ手に入れたぜ。」

俺の素晴らしい仕事の速さに、奴は感謝も尊敬もせず、こう言った。

「そうか。残り7つも出来るだけ早く集めてくれ。」

奴の顔は無表情だった。

「おい、それだけか?よくやったとか、素晴らしい腕前だなとか、そういった言葉は?」

「いいか、ゼノ。これは単純な仕事じゃないんだ。

お前にはまだやってもらう事がある。」

「待てよ。お前はこの地方の財宝を守るってのが任務なんだろ?

だったらなんで俺に衛兵の装備なんかを集めさせる?」

「それは言えない。」

「言えない尽くしで、しかも俺には慎重に動けだと?

何が相手かも知らずに仕事をしろってのか?」

「ゼノ。」

ムームーは明らかに苛立った様子で言った。

「お前は僕と契約を結んでいる。

もし破ればお前をオブリビオンの門の向こう側に送り返す事も出来る。

僕はお前の主人だ。それを忘れるな。」

「いっそ送ってくれた方がよほど楽になれる。」

俺はそう強がった。駆け引きは大事だ。

「いいか小僧。俺はお前の依頼主、

皇帝だろうと大臣だろうと上級王だろうと知ったこっちゃないが、

とにかくそいつの命令の為に命を張るつもりなんざこれっぽっちもない。

だから目的を教えろ。さもなきゃお前を殺すぞ。」

「出来ないね。お前には。僕が死んだらお前はオブリビオンに送還される。」

「だがお前を道連れには出来るさ。」

俺は目をぎらつかせ、舌なめずりをした。

奴は少し驚いたようで{残念ながら怯えなかった。}

辺りを見回すと、グラスワインを飲み干して言った。

「仕方ない。お前に装備を集めてもらっているのは、各都市にスパイを潜入させるためだ。」

「スパイ?」

「僕の本当の任務は、この地方で起きている動乱を出来るだけ早く収束させ、

尚且つそれが中央の脅威にならないようにする事だ。」

「ならウルフリックを殺せばいい。それで十分だろ。」

「それがそうもいかないんだ。

依頼主はウルフリックを生かした状態で出来るだけ早く混乱を収めろと言って来てる。

しかもドラゴンも問題なんだ。ドラゴンの復活については深く知る必要がある…。」

奴の深刻そうな顔を見て俺は言った。

「いいか、考えるのは勝手だがな、目的に向かって行動しなきゃ、

どんな素晴らしい計画があっても役に立たないぜ。

しかもお前は体は弱いただの魔術師だろ。ドラゴンなんて倒せない。」

「それはそうだ。」

奴は珍しく同意した。

「だから秘宝がいるのさ。少なくともドラゴンに対抗できる強さの。」

「そんなものは…」

「ある。」

奴の目が光った。

「ドラゴンについて大学で僕は少し調べたんだ。

それと、この地方に眠る秘宝についても。」

「それで?」

「まず、シロディールと同じように、この地にもデイドラの秘宝がある。」

「ああ、あの秘宝か。」


デイドラの秘宝ってのは、俺達の世界じゃ有名だ。

200年前にタムリエル全土を脅かした

「オブリビオンの動乱」

こいつを引き起こしたのが、デイドラの王子、メイエールンズ・デイゴンって奴だ。

デイドラは俺達の世界とは別の、

オブリビオンと呼ばれる次元に住んでる。

オブリビオンとこの世の大きな違いは、

時間の概念と存在の概念だろう。

タムリエルには時間が流れている。

あらゆる生物は老いて朽ち、そしてまた生まれていく。

だがオブリビオンにそれはない。

物事は永遠。存在が消滅する{厳密に言うと俺達を構成する元素が分散する}か、

タムリエルで殺されない限りは、永遠に生きられる。

存在もあやふやだ。

オブリビオンでは物体はいろんな形をしており、

いわゆる「気体」の状態に近い形をとるのが普通だ。

もちろん固体にもなるが、基本的にどんな形で居てもいい。

まぁ、ここらへんは人間の読者諸君にはわかりづらいかも知れないな。

{ちなみに俺もオブリビオンから呼ばれたクチだ。

誰にって?そりゃ決まってるだろ。

おかげさまでやりたくもない汚い仕事を次から次へと…}

デイゴンの奴は、そんなオブリビオンの世界に飽きたらしい。

奴を信奉する「深遠の暁」っていう名の集団を扇動し、

皇帝とその跡継ぎを次々に暗殺して「門」を開いてタムリエルの世界に進攻してきた。

ま、その後どうなったかは歴史が示してる。

マーティンっていう若い皇帝が命をかけてドラゴンに変身し、

名もなき英雄{そう呼ばれてる英雄が居るんだ}と一緒に門を閉じたのさ。


まぁそんなわけでデイドラはろくなもんじゃない。

基本的にオブリビオンにいる連中を信仰してるって事だからな。

あんなとこに長く居たらまともな神経を持ってるなら気が狂う。

その連中が使っている、もしくは力の一部を授けたもの、

それがデイドラの秘宝だ。


「あれを使うってのか?」

俺が言うと、小僧は顔を振った。

「いや、デイドラは不安定だ。

それに代償に何を要求してくるかわからない。取引は危険だ…。」

{奴の言ってる事は概ね正しい。概ねってのは、不安定以外に対してって意味だ}

「じゃあ何を使う?」

「文字だ。いや言葉か。今調べてる途中だが、

この地方にはシロディールにない奇妙な遺跡があるんだ。」

「文字?魔法を封じ込めたものか?」

「まぁ、そのようなものだ。」

小僧は震えていた。

「僕はさっき、サールザルという遺跡に入ってきたんだ。」

「へえ。」

「そこで文字を見た。」

「ほう。」

「でも、ただの文字じゃなかったんだ…。

僕の中に、流れ込んできて、言葉が聞こえるんだ。」

「そいつは大学の魔術師に治療してもらった方がいいんじゃないか?」

「ゼノ。僕は真面目に話してるんだ。

…ヘルゲンを襲ったドラゴンの事を覚えてるか?」

「ああ、あの黒いドラゴンか。」

「あれも、火を吐く時に、何か言っていた気がするんだ。

僕が見た、というか聞いた文字、というか言葉はあれに似てる。」

こいつは驚いた。俺のご主人はマジに古代の言葉とやらを信じてるらしい。

俺は震えている奴の肩に手を置いた。

「なぁ、ムームー、落ち着け。

俺は残りの装備を取ってくる。

お前はスパイの報告を待って、皇帝に援軍を送ってもらえ。

それで今回は終わりだ。な?」

奴は黙っていたが、首を振った。

「いや、この謎は解き明かさなきゃならない。

それに他にもマジックアイテムはあるはずなんだ。」

奴の決意は固かった。

それからは俺がどんなに言っても首を縦に振らない。

おまけに、最後には怒り出してこう言った。

「いいか、ゼノ7つの鎧を集めると共に、マジックアイテムを手に入れるんだ。

どんなものでもいい。必ずだ!いいな!」

あまりにデカい声で奴が言ったので、酒場中の客がこっちを見た。

だが次の瞬間には元の喧騒が戻っていた。

奴が魅了の呪文を使ったに違いない。

なにせ隣の酔っ払いはカジートの首筋の毛が気持ちいいなんて抜かしてたからな。

俺は怒れる若き魔術師に追い立てられながら、

吹雪いた外を、徒歩で、ウィンドヘルムの街を目指す事になったんだ。




防人の領域 - 朱雀のたまほめ-反乱軍の街、ウィンドヘルム

俺はウィンドヘルムでも素早い仕事をした。

砦の上に居た衛兵をぐっすり眠らせ、軽く装備を拝借した。

これなら楽チンだな…そう思っていた時だった。

すぐ頭の隣を矢が掠めた。

他の衛兵に見つかったのか?

俺が視線を街の外、馬屋の方に向けると、3人組の男がこちらに向かってきていた。

人相が悪く、筋骨隆々。

間違いない。こいつらは俺を狙ってる。

警告なしの攻撃がその証拠だった。


衛兵の手を借りるわけにはいかない。色々聞かれるだろうからな。

俺は砦の上から奴らに飛び掛り、持ち前の業を如何なく発揮した。



防人の領域 - 朱雀のたまほめ-俺の刃が光るね


防人の領域 - 朱雀のたまほめ-シャー!


まったく、なんなんだ。

本当なら捕まえるつもりだったが、

あまりに奴らが死に物狂いだった上に、

俺の硬い鱗を傷つけたもんだから、

生け捕りにする余裕が無かった。

俺はここに着たばかりで、街にもまともに寄っちゃ居ない。

なのにいきなり3人の手練の戦士を送り込んでくるなんざ、

普通の敵じゃなさそうだ。

俺は奴らの懐を探り、書状を見つけ出した。



防人の領域 - 朱雀のたまほめ-見えない敵

こいつらの持ってた書状によれば、

依頼主は狡猾かつ残忍な性格だ。

俺の始末をほのめかしながら、金を十分に支払い、

その上で自分の正体は明かしていない。

おそらくは俺の主人の敵か。いやしかしなぜ?


その時、俺はウィンターホールドの鎧を奴に返していない事に気づいた。

まったくやってられん。

そう思いながら鎧を背中のザックに入れようとした時だった。

鎧の内側に隠しポケットが見えた。

なんだこいつは?

慎重にポケットをあけると、そこには見たこともない印が書かれていた。

ダイヤに目?

それに書状がひとつ。

「あの中央から来たウィザードは危険だ。

トカゲを見つけたら始末しろ。奴の遣いに違いない。

我々は盗賊ギルドのMにあの秘宝を探らせている。

ウィザードよりも先に手に入れろ。」


どうやら俺のご主人はこの土地のなんらかの組織を敵に回したらしい。

それがなんなのかはわからないが、

暗殺に強盗となると、普通の相手じゃなさそうだ。

おまけに衛兵まで取り込むとはね。

もっとも、その点じゃ俺のご主人と考えは同じようだが。

俺は苦笑しながら馬屋へと向かった。



次回へ続く。




「ゼノ!おいゼノ!」

「なんだよムームー。」

俺の名前はゼノ。

シロディールで盗賊をやってる。

さっきから階下で大声を上げてるのは、

俺の雇用主で魔術師の、ムームーだ。

やろう、また俺を使い走りに出すつもりだな…?

俺は体を起こすと、奴が居る一階へと降りた。

が、次の瞬間だった。

強烈な眩暈と吐き気を感じ、俺は意識を失った。



なんだ、揺れてるな…。

地面の揺れを感じて俺は身を起こした。

ここはどこだ?ムームーの奴は?

辺りを見回すと、どうも馬車に乗せられているようだ。


猿轡をされた男に、しょぼくれた男、

それに俺の隣には金髪で屈強な男…ノルド人だろうな、

彼らが一緒の馬車に乗っていた。


周囲を見回そうとしたその時、両手に不便さを感じた。

クソッ!なんてこった。

どうも固く縛られていて、手が使えない。

俺は縄抜けの名人{シロディールじゃそれなりの盗賊だった}

だが、この縛り方はよくない。

なにより、どうも馬車はこの一台じゃない上に、

前後にもありがたくない縄をもらった連中が護送されてるらしい。


縄と静かに格闘した後、俺は諦めて周囲に気を配る事にした。

馬車での話を総合すると、

この地方、スカイリムでは現在戦争が行われている…まぁこれは俺の仕事が楽になるな。

しかしスカイリムか…肌寒い北の地方に俺は縁がないからな。

おまけになんだ、今一緒に馬車に乗ってる猿轡をしたこの男、

ウルフリック・ストームクロークが、その戦争の発端らしい。

おまけに「声」で人を殺したって?冗談みたいな話だな。

{まぁ、俺の雇い主も似たようなもんだな。

え?何?報告を続けろって?わかってるよ。}

そうこうしてるうちに、馬車は街の中に入り、俺達は順々に降ろされた。

どいつもこいつも嫌な目線で見てきやがる。

{なんだか嫌な予感はしてたんだ}

肌に嫌な乾燥を感じた。俺の自慢の青い髪がカサカサだ。

レイロフ、さっき一緒に馬車に乗ってた奴が追い越しざまに耳打ちしてきた。

「希望を捨てるな」

ふん、別に言われなくてもわかっている。

それにシロディールに居た時だって、

俺や俺のご主人は何度も危機を潜り抜けてきた。

縄抜けは無理だったが…何か策があるはずだ。


そんな事を考えていたら、他の囚人が逃げ出した。

こりゃチャンスだ、この混乱に乗じて…

と思っていたが、奴は残念な事に半歩もいかないうちに、

矢だるまになっちまった。本当に残念だ。

逃げるのは今じゃないな…と思っていたら、

目の前すぐに断頭台があるじゃないか。

俺の前に居た囚人が一瞬で首を落とされた。

「次、そこのトカゲ!」

レッドガードの女兵が俺に急かす。

くそ、今日は最悪だ。

トカゲ呼ばわりされるし、俺のご主人は見当たらない。

おまけに人生がここで終わろうとしてる!

その時、わずかに遠くで妙な音が聞こえた。山が木霊するような。

「なあ、あんた、考え直さないか。」

皆が気を取られている隙に、俺は女兵長に出来るだけ丁寧に話しかけた。

「俺はまだスカイリムに来たばっかりでここで処刑されるのは何かの手違いだ。

俺の主人のムームーを呼んでくれ。シロディールで宮廷魔術師をしてる。

あいつは帝国からすればそれなりに偉いんだ。奴ならきっと…」

だまれトカゲ野郎!その沼くさい息をこれ以上吹きかけるな!」

女兵長は俺のすばらしい弁舌を途中で打ち切り、

後ろに回って俺のしなやかな尻尾を鉄のブーツで蹴り付けた。

突然の事に俺は前のめりにつんのめり、

そのまま処刑台に突っ伏した。

ああ、このままじゃまずい。

処刑人の斧が振り上げられた。

その時だった。


防人の領域 - 朱雀のたまほめ-黒いドラゴン

Fus Ro Dah!

咆哮とも叫びともつかない声が聞こえた。

と、同時に、処刑人が吹っ飛んでいた。

なんだなんだ。

顔を上げると、近くの見張り塔の上になにやら黒い翼を持った…

ありゃドラゴンだ。

ドラゴンが居た。

{俺はシロディールの南で青いドラゴンに会った事があるんだ。

だがそれはまた別の時に話そう}

そこからは一瞬で大混乱になった。

辺り一体は火の海になるし、帝国兵はドラゴンに矢を射掛けるのに必死だ。

まぁいくら射掛けようとありゃ無理だな。

俺がどこから逃げようか辺りを見回していると、

さっきの囚人、レイロフが手招きしていたので、そいつが居た塔に飛び込んだ。


「酋長!あれがドラゴンですか。我々は終末の伝説に会ってしまったのでしょうか。」

「伝説は村人を焼き払ったりしない。」

レイロフがウルフリックに質問してる間に、俺はさっさとその場から離れた。

だが、ドラゴンの野郎が俺の行く先々に現れては火を噴いて行ったせいで

自慢の髪が焼ける所だったぜ。

防人の領域 - 朱雀のたまほめ-レイロフ右とハドバル左

結局、逃げた先でレイロフと帝国兵のハドバルとかいう奴が言い争っていたので、

レイロフについて帝国の獄舎に逃げ込んだ。

「ここまで来れば大丈夫だ。

…ん?なんだ?手かせが取れないのか?俺が解いてやる。」

{ちなみにちょうど解けるところだった。念のため。}

レイロフが言うには、どうもあのドラゴン襲来は予想外の事で、

とにかくこの場から脱出し、酋長と合流するのがこいつの目的らしい。

俺はどうしようか思案した。

仕事で下水道を抜けた事もある。

あの誠実面したご主人様と一緒に戦地から逃げた事もある。

なら、ここもこの男にある程度ついて行った後…。

と、そこで俺の思考が途絶えた。

なぜなら、俺の視界の端に、黒い犬が見えたからだ。


「やあゼノ、元気だったか。」

犬、いや俺のご主人が喋った。

{補足しとこう。俺のご主人はアニマ体質でな。詳しい説明は省くが。

よーするに都合のいい時はこの黒い犬になれる。}

「君をここに送り込んだのはいくつか理由がある。だから話を…おい、危ないだろ!」

俺はご主人の話を無視して近場の手斧を拾って奴目掛けて投げた。

{かわいそうなレイロフはおそらく俺のご主人の幻惑魔法が直撃したんだろう。で、目が虚ろだ。}

「いいや聞かないね。あともう少しで殺されるところだったんだぞ!」

「縄は緩めにしといたはずだ!」

「ドラゴンにも焼かれるところだった!」

俺が怒鳴ると、奴も少し申し訳なさそうにした。

「それは…手違いだったんだ。

まさかドラゴンがくるとは…しかしまぁ、おかげで逃げられたろ?」

「すると何か。俺が首を斬られるかドラゴンに焼かれるかは大した問題じゃないと?」

「だから話を聞けよゼノ。

お前を眠らせてここに送り込んだのは、お前にしか出来ない仕事があるからだ。」

{俺の主人は、大抵の魔術師よろしく、

自分の目的の為には誰がどうなろうが知った事ではない、

というスタンスで物事に臨んでる。

ま、少しは他のよりマシな時もあるが、一事が万事ってわけにはいかない。}

奴は俺の反論も聞かずに一方的にこう言い放った。

「今、ここスカイリムじゃ帝国とストームクロークの内乱が起きてる。

だがそこは大した問題じゃない。僕達にとっては。

問題はこの戦いでこの地方の大切な遺産が失われることなんだ!

オブリビオンの動乱をせっかく生き延びたアーティファクト達が、

野蛮な連中に破壊されるのは我慢できない!」

「で、そのお宝を「保護」しろっていうのか?」

「そうだ。」

「俺が?」

「君が。」

「報酬は?」

「オブリビオンからの遺産…魂捕らえの短剣をやる。」

「少ないな。」

「なら、30000ゴールドもつけよう。」

「本当か?気前がいいな。前金はいくらだ。」

「…15000ゴールドだ。」

「オーケー、乗った。いいだろう。ただし条件がある。」

「なんだ?」

「どうせ保護した宝のその中に依頼主が欲しがってるものがあるんだろ?

その名前を聞いておきたい。」

「いや、それはだめだ。少なくとも、今はまだ。」

「なぜだ。」

「僕の仲間が今目的の財宝の行方を探っているが、難航しているんだ…。

もちろんすぐに見つけ出すだろうが…、それにドラゴンだ。ドラゴンはまずい。」

小僧、ムームーの奴は珍しく困り顔だ。

「ドラゴンスレイヤーくらい知り合いにいるんだろ?」

「確かに優れた傭兵は居る。或いは彼女なら…だがとにかく今はまずいんだ。」

「おいおい、それじゃ俺は一体どうするんだ?

忠実な部下を眠らせて縛って処刑台に向かわせた挙句、

何もないってのはおかしいぜ?」

「わかっている。手始めに各街の衛兵の装備を手に入れて欲しい。

装備が手に入ったら、そうだな、

この洞窟を出てずっと北に行った街、ウィンターホールドに大学がある。

そこに行けば自動的に受け渡せるようになってるから、

まずはスカイリム地方の9つの要塞の傭兵から装備をもらうんだ。」

「手段は?」

「…問わない。だがあまり殺すのは…。」

「わかってるさ、お前はあまり好きじゃないんだったな。

だが、手に入れるんだろ?上手くやるさ。」

「頼むぞ、ゼノ。僕もドラゴンについて調べなきゃならない。

ああ、それと、ホワイトランという街についたら、

宮廷魔術師のファレンガーにこれを渡してくれ。

そうすれば君の助けになってくれるだろう。」

そういうと奴は、俺に小さなスクロールを渡した。

「なんだこれは?」

「少々複雑な呪文を練りこんだ巻物さ。間違っても使うなよ。」

「使わないね。ファレンガーだな?」

「ああ、そうだ。それじゃあ僕はもう行く。」

そう言うと小僧は犬の姿のまま、牢屋を通り抜けていった。


俺はレイロフを助け起こすと、気付けにワインを渡して目を覚まさせた。

その後、二人で洞窟を抜けて

{割愛するが俺はここでも素晴らしい働きをした。

蜘蛛を突き刺し熊を射殺し民間人を拷問していた帝国兵を焼き払ったり…}

川岸の屋外に出た後、近隣の小村・リバーウッドで会う約束をして別れた。


川沿いに行くと、確かに小さな村があった。

そこのジャルデュルというのはレイロフの親族で、

俺はヘルゲン、ドラゴンに襲われた砦での出来事を話した後、

薬や食事、それに一晩の宿を頂いた。

小僧との約束さえなければもう少しゆっくりするところだったが、

ホワイトランにドラゴン対策の救援を要請しに行ってくれ、

と、言われてしまったので、任務がてら、王宮に寄る事にした。

どの道ファレンガーという奴もそこに居るんだろうしな。


村を出て半日もたたない内にその街、ホワイトランには着いた。

小高い丘に作られたその街はヘルゲンでの異変を受けて警戒中だったが、

駄目元で衛兵にドラゴンの旨で来たと伝えると、あっさり中へ。

ついでに俺はうち一人に眠ってもらって、一式の装備を手に入れた。

俺は宮廷魔術師、ファレンガーに会う為に街の上層部、

王宮がある区域に向かった。

なんで上層部かわかったって?

魔術師や為政者ってのは大抵高い所が好きだ。

逆に地下に篭りたがるのは変人か気が触れた連中だけさ。


「ん?誰だ君は?何のようだ?」

ファレンガーという暗そうな男は、王宮の部屋を借りて研究をしていた。

俺の主人と同じでフードを被り、魂石や符術用のメモが辺りには散乱している。

「ムームーの使いで来た。これを。」

最初はいぶかしんでいた男も、巻物を渡すと目の色を変えた。

「これは…おお!やはりそうか。ありがたい!」

「お役に立てたか?」

「ああ!もちろんだとも。そうだ、報酬を渡すように言われていたんだ。これを。」

男は小さな包みを俺に渡した。

俺はその重さに驚きながら封を開けた。

すると、そこにあったのは二丁のダガーだった。

「この地方で取れる鉄から作ったダガーだ。

オーダー通り、エンチャントはしていない。

ムームーによろしく伝えてくれ。それじゃ、また。」

ファレンガーは巻物に夢中で、こちらを見ようともしない。

その時、俺の背中に冷たい魔力の感触が走った。

「動くな。何のようでここに来た。」

後ろから女の声が聞こえる。

俺は反撃の隙を窺いながら、答えた。

「ジャルデュルからドラゴンの件で酋長に話がある。」

「ドラゴン…そうか、だから衛兵が通したのか。

来い、酋長が話しがあるそうだ。」

女はそういうと剣を収めた。


俺は酋長であるバルグリーフに状況を説明し、

ファレンガーと相談してドラゴンストーンなる石を手に入れて来いといわれた。

が、真っ平御免だ。

なぜなら俺はドラゴンと戦いたくはないし、

この国の人間がどうなろうと知った事じゃない。

面倒ごとには関わらない。金にならない頼み事は引き受けない。

これが人生を長く生きる秘訣だ。

俺は引き受ける振りをしながら、街を出て馬車に乗ると、

ムームーが待つウィンターホールドへと向かった。



次回へ続く。