これは夢だ。
ムームーは即座に気づいた。
これは僕が魔法使いになった朝の事だ。
いつものように朝ごはんを食べ終え、
町長の所にシロディールの歴史を学びに行くところだ。
通りの向こう側から衛兵が慌しく近づいてくる。
一緒に居た黒いローブを来た一団が自分を指差す。
「居たぞ!プリーストだ!捕まえろ!」
怯えて逃げ出す自分。
追い詰められ、壁を背にした時、
突如黒いローブの集団を頭上から氷塊が襲った。
そして自分を覆う影。
「ここに居たのか。見つけたぞ。」
青いドラゴン。
「レイゲン!貴様!クラリックの分際で!」
「自分が何をしているかわかっているのか!」
口々に叫ぶ黒い集団に、ドラゴンは言った。
「黙れ。貴様らにこの子の気持ちは永遠に解るまい。」
あれから10年の時が経ち、少年は青年になった。
彼は帝国の魔術師ギルドに所属し、皇帝警護も何度か勤めた。
優秀な魔術師である彼は、アルケイン大学からの任務を受ける事になる。
任務の内容は、スカイリム地方の反乱を収める事。
そしてその地に眠るアーティファクトを、
来たる帝国とサルモールの決戦に向けて収集する事。
これが皇帝とアルケインアークメイジから下された極秘任務だった。
今現在、永きに渡りタムリエル全土を支配してきた帝国は、
自治領を持つサルモールから政治的内政干渉を受け、
中央も東部も機関が麻痺している。
200年前に起きたオブリビオンの動乱の後、
ハイエルフを主とするサルモール自治領は、
皇帝に対して武力をちらつかせながら近づいてきたのだ。
スカイリム地方で起きている反乱も、
サルモールに反発する地元のノルドが起こした反乱と見なされている。
ムームーは共に難事に取り組んできた盗賊、
ゼノをスカイリムの馬車に放り込むと、自分は雪深い北東の町、
ウィンターホールドに身を寄せ、魔術大学で秘宝に関する情報を集める事にした。
最初に立ち寄った街、ホワイトランで宮廷魔術師のファレンガーと
意気投合したムームーは、彼にゼノの為の短剣を渡すと、
馬車に乗って一路北上した。
馬車や道行に聞く限りでは、
ヘルゲンをドラゴンが襲い、
帝国が捕らえた反乱の首謀者であるウルフリック・ストームクロークが、
その混乱に乗じて逃げ出してウィンドヘルムの首長の地位に返り咲いた事。
そしてゼノがそれに巻き込まれて死に掛けた事。
各地でドラゴンが復活している事。
凄腕の暗殺者がスカイリムに逃げて来た事。
そういった情報が入ってきた。
大学に着くと、マスターウィザードであるミラベルの案内を受け、
その後に大学の人物一人一人を訪ねて情報を得た。
まずアークメイジであるサボス・アレン。
すべての呪文に長けているという彼は20年以上前からこの大学のアークメイジだそうだ。
破壊魔法のマスターであるファラルダは飄々としているが、目の奥には強い意志がある。
回復魔法のエキスパートであるコレットは学内で嫌がらせを受けているようだ。
幻惑魔法のエリートであるドレビスは隠れる事が好きらしい。
召喚魔法のガーディアンであるフィニスは学内の設備点検も手がけている。
そして変性魔法の使い手であるトルフディル。
彼は、主として新人の教官を務めていた。
トルフディルは訓練だけではない、
魔術の実践を望む新米ウィザード3人とムームーを連れ、
大学近くの遺跡、サールザルの探索を行った。
その結果、ムームーは自分を取り巻く運命に巻き込まれていくのである。
ウィンターホールド大学を出て、寂れた街を通り過ぎ、
一行は雪原地帯を歩いていた。
「ジェイザルゴはこの遺跡で素晴らしい発見が待っていると考えている」
道すがら、キャットマン(カジート)のジェイザルゴが言った。
この尊大な態度の猫は自分に絶対の自信を持っているようだ、
というのが短い時間でムームーが観察した事だった。
「そうかな?どうせ大した遺跡じゃない。きっとスケルトンが山ほど居るんだろうな。」
その隣で肩をすくめるノルドは、オンマンドという名の男だ。
「二人とも、お喋りをやめなさい。私達は実地訓練に出ているのよ!」
そういう本人が一番興奮しているのではないか。
ムームーは声高に二人を注意するダークエルフ、ブレリナを見た。
「みんな、そろそろ着くぞ。
…やれやれ、若き時は斯くも急くものかな。」
注意喚起の後に、小声で独り言をつぶやく老人、トルフディル。
しかしこの老人は決してただの老人ではないのだろう。
マスターウィザードであるミラベルによれば、
「ただの老人ならば、決して変性術のマスタークラスには辿り着けないでしょう」
との事だった。
トルフディルの案内で、雪に覆われた遺跡に足を踏み入れた一行。
「そうだな、君達にはこの遺跡の探索の手伝いをしてもらおう。
何か魔力を持つ小物があったらそれを持ってくるように…」
ムームーを含めた4人は、手分けして秘宝を探した。
暫くすると、オンマンドは水銀のピッチャーを見つけたが、
それには何の魔力も無かった。
結局、小さな魔法の指輪が3つ、符術された状態で見つかっただけだった。
「ジェイザルゴはもっと奥に何かある気がする。
そうは思わないか?ムームー。」
猫の案内により、二人はもっと奥へと進んだ。
そのうちムームーが不思議な像の前に来た。
そこにはアミュレット(首飾り)がかかっていた。
「なんだ、これは…」
ムームーが手を伸ばしてそのアミュレットを掴んだ瞬間、
後ろの罠が作動し、入り口が鉄柵で閉じられてしまった。
「しまった!」
慌てて出口を探したが、どこにも無い。
手始めに魔法を鉄柵に撃ってみたが、開きそうに無い。
騒ぎを聞きつけてトルフディルがやってきた。
「君がアミュレットを?もしかしたら君と共鳴しているのかも知れん。
そのアミュレットが反応する場所に魔法を撃ち込むのじゃ!」
老練の魔術師の言葉通り、アミュレットと共鳴する壁に電撃を撃ち込むと、
そこの壁が崩れ、同時に背後の鉄柵が開いた。
「なんと!そこに隠し扉があったとは…
奥に進もう。何が待っているのだろうか。」
授業をそっちのけで老人とムームーは遺跡の深部へと進んだ。
少し行くと、小さな祭壇があった。
トルフディルが遺跡について説明を始めたその時、
突如その言葉が途切れた。
どうしたのだ?
ムームーがそちらを向くと、
トルフディルが固まっている。
「先生?これは…」
その時、目の前に光が炸裂し、突如ローブを纏った一人の男が現れた。
「とうとう封印を解いたな…。
君はこれから来る試練と災厄を食い止めなければならない。
だがその前に、教えておこう。遺跡の奥へと向かうのだ。
運命はもう動き始めている。」
「あなたは…?」
「私はサイジックの僧兵だ。
マグナスの目はもう目覚めてしまった。君は成すべき事を成せ。」
「一体何のことを?」
「青い魔術師、私はすべてを教える時間が無い。とにかく奥へ進め。」
次の瞬間、甲高い音が聞こえ、僧兵は姿を消した。
同時にトルフディルの喋り声が帰ってきた。
「先生。先生!」
ムームーは夢中になって話しているトルフディルの話を止め、
今目の前で起きた事を話した。
最初は話を中断された事に憤慨していた老師だったが、
話がサイジック会に及ぶと目を見開いた。
「サイジック会?まさかそんな。
彼らは伝説の魔術機関だぞ。」
トルフディルが言うには、
サイジック会は移動する別次元に存在していて、
タムリエルではここ100年間姿を見たものが居ないという。
彼らと連絡を取る「窓口」はサマーセットアイランドにあり、
確かに現存はしているが、その内実は明らかではないらしい。
「彼らが何をさせようとしているのか…皆目検討もつかんわい。」
「奴は僕に奥に進めと言っていました。」
「そうか…だが注意しよう。何が待っているかわからんからな。」
トルフディルが言い終わる前に、近くの棺の蓋が開き、
中から古代ノルド人のミイラ、ドラウグルが姿を現した。
ドラウグルは斧を振りかざし、小柄な老人に襲い掛かった。
「先生あぶな…」
ムームーが自分の目の前に出てきたドラウグルに向けて電撃を放つと、
その古い体は吹き飛んだ。
老師は無事かとムームーが目をやると、
そこには身動きも取れないまま固まる複数のドラウグルが居た。
「深く凍結せよ!」
トルフディルは手から次々と氷の矢を降らせ、ドラウグルを吹き飛ばした。
彼は今の一瞬で自身を魔力の鎧で覆い、
迫り来るドラウグルに麻痺の呪文を浴びせたのだ。
その目は先ほどと同じように穏やかだが、奥にわずかに闘志が垣間見えた。
「この程度にはやられんよ。さあ、奥へと進もう。」
二人は次々と罠を解除し、ドラウグルを倒し、最深部へと足を踏み入れた。
そこには、青いエーテルの力を放つ球体が、光り輝いていた。
「これは素晴らしい…待て、ムームー!」
階下に下りたムームーを待ち受けていたのは、
ひときわ強いオーラを持つドラウグルだった。
「この程度なら大丈夫ですよ、先生。」
ムームーは両手からアイススパイクを放った。
だが。
ドラウグルのロードは怯む事なく進んでくる。
「その球体から力を受け取っておるのじゃ!
待っておれ、力を吸い取ってやる!」
トルフディルが老人とは思えない身のこなしで球体へと近づき、
自らの変性呪文を球体に浴びせた。
すると、ドラウグルの体を覆っていたオーラが少し薄くなった。
「今じゃ!」
トルフディルの合図で
ムームーは覚えている中でも最大級の呪文、
大奔流の呪文と迫雷撃の呪文を同時に放った。
それをまともに胸で受けたドラウグルは塵となって吹き飛んだ。
二人はその場所を調べることになった。
ムームーはドラウグルの座っていたテーブルから、
不思議なメモを発見した。
一方、トルフディルはこの球体をアークメイジに見せるように提案、
ムームーに彼を遺跡につれてくるよう伝言した。
トルフディルと別れて遺跡を出ようとしたムームーだったが、
ふと、奥の部屋から何かの呼び声を聞いたように思った。
一人で扉を開け、先に進むと、そこには古代の文字が書かれた壁版があった。
「なんだ…これは…心の中に…」
ムームーが近づくと、壁の文字が光り、視界は霞み、
奇妙な音とも言葉ともつかぬ何かが聞こえてきた。
「IIZ」
言葉は心の中に流れ込んできた。
乾いた木が水を吸うように、
それはムームーの体の中に染み渡った。
頭を抑えてムームーが倒れると、声は消えた。
「いったい…なんだったんだ。」
ムームーは謎の言葉の事も気になったが、
アークメイジに遺跡で起きた事を報告するため、急いで遺跡から脱出した。